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本と映画と、エトセトラ。

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読んだ本・観た映画について気まぐれに。 (photo by tomoko morishige)
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#コンテンツ会議

たった5mの距離が、地球の裏側よりも遠い季節

『5メートルの距離を保っていれば──日記の中ではヒロインでいられる?』

ドラマ『Unrequited Love』の中で、主人公のルオ・ジーは日記にそっと秘めた想いを書きつける。

高校時代から片想いしているション・ホァイナンと一定の距離をとりながら、そっと見つめ続けるルオ・ジー。

近づいて傷つくくらいなら、はじめから諦めてそっと見つめるだけでいい。

真面目で思慮深く、それでいて自信がないルオ

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「説明できないこと」を抱えながら、私たちは今日もまた生きていく

「説明できないこと」を抱えながら、私たちは今日もまた生きていく

『少しでも人と違う生き方をしてると、ことあるごとに説明を求められるの、確かに一生続くと思うとキツイよねえ』

たまたま手に取った『しまなみ誰そ彼(たそがれ)』のこのセリフを読んだとき、私たちが感じる生きづらさの正体がおぼろげながら理解できた気がした。

『しまなみ誰そ彼』の登場人物は、誰もが一言で言い表せられない複雑な社会的立場を背負っている。

平たく言えばLGBTQがひとつのテーマではある

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平凡に、でも一生懸命に、幸せになるということ

平凡に、でも一生懸命に、幸せになるということ

最終回の放送から早くも2週間以上が過ぎ、世間の関心はすでに『まんぷく』に移ってしまっているだろうけれど、やっとのことで昨日『半分、青い。』を最後まで見終わった。

朝ドラはこれまでちょこちょこ見てはいたものの、半年というスパンの長さゆえにちょっと忙しくなると観れなくなって、結局離脱するということを繰り返してきた私にとって、はじめて完走したドラマだった。

あえて朝ドラらしからぬ展開をいれたことで賛

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「無意味に意味を見出そうとする」ことのパラドックス

「無意味に意味を見出そうとする」ことのパラドックス

こないだのNewsPicksの記事で佐渡島さんが紹介していた『役に立つことはみじめだ』という言葉を反芻している。

澤野雅樹さんの『不毛論』という本に出てくる言葉だそうで、この言葉を受けて佐渡島さんは「NewsPicksを読んでいる人たちに、『役に立つ情報を追いかけているのはみじめだ』という感覚を、1回持ってみてほしい」と言っていた。(余談だけど、早速本をAmazonで探したらオンデマン

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人の心を深く揺さぶるもの

人の心を深く揺さぶるもの

数年ぶりにディズニー映画『ポカホンタス』を観た。

小さい頃からテープが擦り切れるまで何度も観てきたこのポカホンタスのストーリーは、空でも言えるくらいに頭に刷り込まれているはずなのに、それでもいつもどおり感動して、久しぶりに映画をみて泣いた。

せっかく有限な人生の時間を使うならもっと新しい作品を見るべきなのではないかと思わないでもないけれど、いい作品は何回みても新たな発見がある。

自分の人生と

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本当に大切なことほど、淡々とした日常に宿る。

この数年、とんと洋画を観なくなった。

代わりに観るようになったのは、邦画を含め韓国、香港、台湾などの東アジア系の作品。

それも漫画原作にありがちなキラキラしたラブコメやハッピーエンドの明るいものではなく、どちらかというと色調があわくて起伏が少ない、淡々と物語が進んでいくものばかりを選んで観るようになったと思う。

具体的に例をあげるならこんな感じ。

・海街diary

・リトル・フォレスト

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私は将来、魔女になりたい。

私は将来、魔女になりたい。

中学生の頃、お年玉やお小遣いを切り詰めて買っていたお気に入りの漫画があった。

煌びやかなコスメカウンターと、 "デパートの魔女"と呼ばれる美容部員・高樹礼子がコスメを通して1人1人の女性を救うストーリー。

コスメカウンターなんて見たこともない田舎の中学生だった私は、「コスメの魔法」の世界にすっかり魅了された。

あれから10年以上経ち、化粧をすることは日常になってしまったけれど、漫画で描かれて

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「君かへす 朝の舗石さくさくと 雪よ林檎の香のごとくふれ」

雪の降る季節になると、毎年北原白秋のこの歌を思い出す。

「君かへす 朝の舗石さくさくと 雪よ林檎の香のごとくふれ」

雪を踏みしめながら帰る「さくさく」という音を、林檎を噛む音に重ね、またほんのり甘い香りを雪にのせる表現のうまさに、口ずさむたび唸ってしまう。

しかし、なぜ冒頭が「君かへす」なのか。

それは、北原白秋が当時関係していた隣家の女性を家に返す場面の描写だからである。

その女性は既

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「電話口でおっ、て言って前みたいにおっ、て言って言って言ってよ」

「電話口でおっ、て言って前みたいにおっ、て言って言って言ってよ」

時間は巻き戻すことなんてできなくて、ただ前に進んでいくのみ。

頭では理解していても、やっぱり巻き戻したいと思うことはたくさんある。

世間的には「後悔」を否定的にとる向きがあるけれど、私はむしろ後悔という感情を自覚し、大切にとっておきたいと思っている。

過去のある地点に閉じ込められてしまった思い出の積み重ねこそが、人生の奥行きだと思うからだ。

***

最近改めて近現代の短歌にはまっていて、

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あの頃の、答え合わせを。

あの頃の、答え合わせを。

人生はタイミングだ、と思う。

「あの時、その言葉を聞きたかったのに」というボタンのかけ違いが、人生にはたびたび起こる。

***

初恋ものといえば韓国のイメージがあるけれど、私は台湾映画の淡い色調と、どこにでもありそうな素朴なストーリー展開が好きだ。

最近観た「あの頃、君を追いかけた」はまさにそんな台湾映画の真骨頂で、誰もが自分の「あの頃」と重ねてしまう作品だった。

落ちこぼれで問題児の男

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そこに、大義はあるか。

そこに、大義はあるか。

ヴィクトール・E・フランクルは、『夜と霧』の中で「わたしたちが生きることからなにを期待するかではなく、むしろひたすら、生きることがわたしたちからなにを期待しているのかが問題なのだ」と言った。

私たちはいつも、人生から「君たちはどう生きるか」と問われている。

***

吉野源三郎の名作『君たちはどう生きるか』が漫画化したと聞き、久しぶりにこの作品を手に取った。

以前読んだときよりもはるかに心に

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「たそがれ」を書けるようになる日まで

「たそがれ」を書けるようになる日まで

読み終わった瞬間、「ああ、これは私には書けない」と思った。
若松英輔の『悲しみの秘儀』を読了したあと、一番はじめに持った感想だ。

「書けない」とは、技量の問題ではない。
自分の中に存在するものは、訓練さえすればいつか書ける。

逆に言えば、自分の中にない感情は書けない。絶対に。

***

「人生には悲しみを通じてしか開かない扉がある。」
第1章に書かれたこの言葉を皮ぎりに、私たちは彼の悲しみの

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透明なものしか、生き残れない時代へ。

透明なものしか、生き残れない時代へ。

これからの時代のキーワードのひとつである「透明化」。

先日、話題の小説「ザ・サークル」を読んで改めて、透明化の流れが不可逆的であることを感じました。

あらゆる場所にカメラが置かれ、人々は自分の見ているもの・聞いたことを全自動で公開する。

物語の中では、こうした透明化を突き進めた末のディストピアが描かれていましたが、程度の差こそあれ、この先もしばらくは透明化の流れが変わることはないように思いま

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批判する覚悟と、人を幸せにする力

批判する覚悟と、人を幸せにする力

先日「おいしい映画館始まります。〜あなたの心を“鑑賞後のハッピー感”で満腹にします!〜」という自主上映イベントで、「シェフ 三ツ星フードトラック始めました」という映画を鑑賞してきました。

あらすじとしては、グルメブロガーに料理を酷評された上にレストランのオーナーと仲違いし、シェフをクビになった主人公が、フードトラックをはじめて再起するロードムービーです。

シェフとしてのプロ意識を感じたり、父子

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