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私は将来、魔女になりたい。

中学生の頃、お年玉やお小遣いを切り詰めて買っていたお気に入りの漫画があった。

煌びやかなコスメカウンターと、 "デパートの魔女"と呼ばれる美容部員・高樹礼子がコスメを通して1人1人の女性を救うストーリー。

コスメカウンターなんて見たこともない田舎の中学生だった私は、「コスメの魔法」の世界にすっかり魅了された。

あれから10年以上経ち、化粧をすることは日常になってしまったけれど、漫画で描かれていた価値観はしっかりと私の中に根付いている。

コスメの道には進まなかったけれど、百貨店での経験を通して今も小売やファッションの世界に足を突っ込み続けているのは、「装うとは表面を取り繕うことではなく、自分と対峙すること」だと学んでいたことも大きいような気がする。

「コスメの魔法」に出てくる女性たちは、どこにでもありそうな、でもその人にとっては深刻な悩みを抱えている。

キャリアと家庭のバランス、両親や恋人との関係、拭えない孤独感…。

それらの悩みはすべて内面的なものに見えて、何かしら外見にシグナルとして表れている。

例えば、今でも覚えているのが「どんなに綺麗に取り繕っていても、眉毛の手入れを怠っている人は精神的に危険な領域にきている」という話。

毎日の化粧は取り繕えても、眉や爪など変化が少しずつ積み重なるものは、たしかに精神的な余裕を失っているときは放置しがちなものだ。

私は今でも人の調子を見るときにそういった点を見ているし、自分に対してもその傾向がでてきたら危険信号として休むようにしている。

肌の調子も顔色も、すべて内面と外見はつながっている。

だから、主人公の魔女・高樹礼子は、常に相手の内面にアプローチするためにコスメを使う。

クリスマスコフレで気を紛らわそうとする女性に、「あなたに必要なのは孤独と向き合うことです」と、地味な基礎化粧品を渡す。

はじめは半信半疑だった女性たちは、それによって自分が蓋をしてきたことに向かい、一度しっかり傷ついた上で自分の足で立ち上がっていく。

本当の魔法というのは、杖を一振りすればなんでも思い通りになることではなく、人の本来の力を引き出し、その人自身が変わるきっかけを作ることなのかもしれない。

最近読んだ「マカン・マラン」シリーズも、まさにそんなお話だった。

「品格あるドラァグクイーン」のシャールさんが作り出す異国情緒溢れる空間と栄養たっぷりのごはんに惹きつけられる、悩める人々。

はじめはとげとげしかったり、疑心暗鬼だったりする登場人物の心を、あたたかいご飯とシャールさんの言葉が癒していく。

ただ、「コスメの魔法」と違うのは、シャールさん自身が弱さを内包した上で、それでもいいのだと受容する存在だということだ。

エリート証券マンからドラァグクイーンになった自分を認めてくれない父親との関係や、病魔を抱えた思うようにならない体。

そうしや苦しみや悩みを持っているからこそ、上から目線で「教えてあげる」という態度ではなく、「それでもいいから、一緒に過ごしましょう」という柔らかい物腰を感じるのだと思う。

「なんで自分がって思うことは、いくらでもあるわよ。いろいろなことが羨ましくて、妬ましくて、眠れないときだってあるわ」
「だってこの世の中は、本音だけで生きていけるほど、甘くはないじゃない。私だって、本当の思いを心の奥底に隠すことくらい、いくらでもあるわよ。嘘だって、山ほどついてきたわ」

こうして自分のずるいところ、弱いところを知っているからこそ、彼女はしなやかな強さをもっている。

そしてそのぬくもりある強さにふれて、人は自分と向き合い、自分が本当に求めるもののために一歩を踏み出すことになるのだ。

人はそれを、魔法や奇跡という名前で呼ぶ。

もちろん2つともフィクションだから偶然の要素はたくさんあるけれど、彼女たちがやっていることは突き詰めれば「本当にほしいものを思い出すためのきっかけづくり」だ。

30歳までに結婚しないといけないなんて、誰が決めたの?
子供には完璧な手料理を作るのは本当にあなたがやりたいこと?
それは本当に「仕方ない」ことなの?

自分の本心と向き合うよりも、世間からの「べき」に流されて被害者ぶる方が、実は圧倒的に楽だ。

前者は言い訳という保険がきかないが、後者は人のせいにして自分は努力することなく苦しんでいるふりをすればいいだけだから。

そんなことを繰り返していても本当の意味で幸せにはなれないとわかっていても、それを正面から言ってくれる人はそうそういるものではない。

だからこそ、自分自身の幸せを見つめることを諭す2人は「魔女」と呼ばれるのだろうと思う。

人の内側には、まだ世に出ていない秘められたパワーが満ち満ちている。

それを解放するのは、自分を見つめるきっかけを作ること、そしてそれを否定せず受け止めてくれる場所なのだろう。

私は2人のようにお店という場を持っているわけではないけれど、このnoteを通して誰かにとっての「魔女」になれたら。

そう思いながら、日々自分の言葉を紡いでいる。

いつか自分のやりたいことを達成して満足したら、将来は「マカン・マラン」のようなお店を開きたいなと思うこともある。

気まぐれに開店する、人生を変える魔法のカフェ。

誰もがそんな存在を心の中に持てる世の中になってほしい、と私は思っている。

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