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短歌五十音

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「短歌五十音」は、中森温泉、初夏みどり、桜庭紀子、ぽっぷこーんじぇるが五十音順に歌人を紹介する記事です。毎月第一〜第四土曜日に更新予定。 画像は桜庭さんよりいただきました。
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#短歌五十音

短歌五十音(や)山中智恵子『山中智恵子歌集』

短歌五十音(や)山中智恵子『山中智恵子歌集』

山中智恵子を読むために水原紫苑編『山中智恵子歌集』(書肆侃侃房, 2022)を5ページ読んで思いました。難しすぎる!

こんな本が新編歌集シリーズから出たことに驚きです。多くの歌人が手に取り、さぞ困惑したことでしょう。

山中智恵子(1925-2006)は愛知県生まれ。前川佐美雄に師事し、塚本邦雄らと並んで前衛短歌の代表的歌人とされています。

このnoteの目的は山中智恵子歌集を「ちゃんと」読む

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短歌五十音(む)紫式部『紫式部集』

短歌五十音(む)紫式部『紫式部集』

紫式部集とあわせて読みたい現代短歌9選!大河ドラマ「光る君へ」、見てますか?

紫式部の一代記が描かれている大河ドラマでは、一見華やかな宮中を中心に平安時代を生きる人々が、とても人間臭く描かれています。
物語の中心となる紫式部(まひろ、藤式部)は、とりわけ魅力的で、現代を生きる私たちにもたくさん共感できる場面があります。

紫式部は、『源氏物語』を作者であるとともに、和歌の名手。
そんな紫式部の和

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短歌五十音(み)宮崎信義『夏雲』

短歌五十音(み)宮崎信義『夏雲』

「宮崎信義は一九一二年、明治四十五年二月二十四日に、滋賀県の母の里で生まれた。(…)彦根中学時代に前田夕暮の主宰する「詩歌」に入会したのが昭和六年。それから一筋にぶれることなく、九十六歳と十ヶ月で亡くなるまで、口語の短歌を詠み続けた。」(光村恵子「宮崎信義生誕百年を記念して」)

山と水と1932年に満州国を建国した日本はさらなる権益を求めて華北5省に手を伸ばした。37年、盧溝橋事件によって日中戦

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短歌五十音「ま」枡野浩一『毎日のように手紙は来るけれどあなた以外の人からである』

短歌五十音「ま」枡野浩一『毎日のように手紙は来るけれどあなた以外の人からである』

手紙を待っている。「あなた」からの手紙を、である。しょっちゅう手紙は来るけれど、その中にあなたからの手紙はない。
そう言いながら、きっと誰からも便りがなかったらさびしい。たまには誰かかからメールが来るような、そんな一年でありますように、と願う。

枡野浩一は、1968年東京生まれ。コピーライター、ライター等の職業を経て、1997年に短歌絵本『てのりくじら』『ドレミふぁんくしょんドロップ』を二冊同時

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短歌五十音(へ)辺見じゅん『水祭りの桟橋』『天涯の紺』

短歌五十音(へ)辺見じゅん『水祭りの桟橋』『天涯の紺』

父母を詠む情念辺見じゅん(1939-2011)は、歌人であり、ノンフィクション作家。
映画化された『収容所(ラーゲリ)から来た遺書』や『男たちの大和』の著者としても有名である。
辺見の父は、角川書店を設立した角川源義(1917-1975)。
源義は、自身も俳人であり、短歌総合誌『短歌』の創刊者でもある。
辺見の母は、辺見が小学校4年生のときに離婚し、その2年後に再婚した照子が辺見の育ての母となる。

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短歌五十音(ふ)藤井貞和『うた――ゆくりなく夏姿するきみは去り』

短歌五十音(ふ)藤井貞和『うた――ゆくりなく夏姿するきみは去り』

1.水・記憶・戦争藤井貞和は詩人・古代文学研究者。折口学を受け継ぐが(→短歌五十音(し)釈迢空)、その肩書きに歌人が入ることはない。文学を考え、文法を論じ、詩を綴る。その生活から上の発言が生まれる(発言については後半で確認しよう)。

彼は歌人を名乗らないが、『うた――ゆくりなく夏姿するきみは去り』(書肆山田、2011)という一冊の歌集がある。主に若いころの歌をまとめていて、「そのころ自分の体内に

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短歌五十音「ひ」東直子『十階』

短歌五十音「ひ」東直子『十階』

短歌五十音シリーズ、「ひ」の歌人として取り上げる東直子氏は、1963年広島県生まれ。1996年に第7回歌壇賞を受賞し、歌集には『春原さんのリコーダー』『青卵』などがある。短歌だけでなく詩や小説、エッセイ、評論、イラストレーションなどの分野で幅広く活躍。書肆侃々房の新鋭短歌シリーズの監修も担当している。

『十階』は、ふらんす堂の「短歌日記」シリーズの一冊として出版されたもの。2007年1月1日から

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短歌五十音(の)野口あや子『くびすじの欠片』

短歌五十音(の)野口あや子『くびすじの欠片』

青春は、食べて、飲む。『くびすじの欠片』は、2009年に刊行された野口あや子の第一歌集。
また、2023年に文庫版として刊行されており、本稿では、文庫版のご紹介をする。

本歌集は、著者の15歳から20歳までの作品311首が収録されている。
全体が2部に分かれており、第1章は、短歌研究新人賞受賞作品「カシスドロップ」、同賞次席作品「セロファンの鞄」を中心に、2006年まで(著者19歳までと考えられ

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短歌五十音(ね)根本芳平『弥陀笑ふ』

短歌五十音(ね)根本芳平『弥陀笑ふ』

根本芳平(ねもとよしひら)を知る人はどれだけいるだろうか。短歌辞典には名前がない。Xのつぶやきも見当たらない。著者略歴によると短歌誌「水甕」の編集委員というので、「水甕」の同人はご存知だろう。歌集は『譚』『弥陀笑ふ』の二冊がある。

彼の歌は『角川現代短歌集成』に20首載っているから、ここから知る人がいるかもしれない。掲出歌もその一首で、「たしかに」の確信、この踏み込みがいい。

ただ、概して『角

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短歌五十音(ぬ)沼波万里子『砂のぬくみ』

短歌五十音(ぬ)沼波万里子『砂のぬくみ』

今回の歌人、沼波万里子は1921年東京生まれ。歌誌「箒木」を経て「潮音」に入社。1946年、旧満州で夫と一女に死別、引き揚げ。1956年に再婚し、一女に恵まれている。2013年死去。中国残留孤児のボランティア活動も行なった。

歌集『砂のぬくみ』から気になった歌を見て行きたい。

「東京」という連作の中の一首。
頭上注意足元注意〜とたたみかけるように詠み、続く「靴、靴、靴」が、複数人の靴がどんどん

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短歌五十音(な)中井スピカ『ネクタリン』

短歌五十音(な)中井スピカ『ネクタリン』

生活即文学本稿で紹介するのは、中井スピカさんの第1歌集『ネクタリン』である。
中井スピカさんは、1975年生まれで、2022年に「空であって窓辺」で第33回歌壇賞を受賞している。
また、塔短歌会に所属するとともに、魚谷真梨子さん、江戸雪さんとともに短歌同人誌「Lily」にメンバーとして参加している。

冒頭に引用したのは、土屋文明が昭和22年に名古屋市で行った講演の速記であり、『短歌の現在および将

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短歌五十音(と)土岐善麿『黄昏に』

短歌五十音(と)土岐善麿『黄昏に』


表紙土岐善麿(1885-1980)の第二歌集『黄昏に』は明治45(1912)年2月に発売されました。当時の筆名は土岐哀果です。初版本が早稲田大学図書館のデータベースで公開されているのでそれを見ていくことにします。

灰色の本にはカバーがかかっており、カバーの表紙にはなぜかキリストの絵が書かれています。なぜかというのは、『黄昏に』を解説する辞典には「灰色の装丁である」としか書かれておらず、このカバ

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短歌五十音(て)寺山修司『寺山修司青春歌集』

短歌五十音(て)寺山修司『寺山修司青春歌集』

寺山修司の歌集を取り上げようと思ったものの、実際に歌集を読んで混乱してしまった。「青春」とタイトルについていて、確かに初期の短歌は青春香るような作風なのだけれど、後半の短歌はどこか土臭い、おどろおどろしい世界を詠んでいるからである。初期の作風を脱ぎ捨てて、後の作風に変化していった心境はどんなものだったのかと思うが、今回は前者の歌を中心に書いていきたい。

寺山修司は1935年青森県生まれ。1954

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短歌五十音(ち)千種創一『千夜曳獏』

短歌五十音(ち)千種創一『千夜曳獏』

生活と詩2024年4月28日(日)20:00

マッサージに2日連続で行ったが、疲れが取れない。違うマッサージ店に行ったのだが、どちらでも「全身のコリが固すぎて、指が入らない」と怒られながらごりごりに押され、ほとんど拷問みたいに苦しみながら施術を受けた。

短歌五十音の自分の担当の公開日が次の土曜に迫っているが、まだ10ページくらいしか読めていない。

千種創一さんの「千夜曳獏」。

池袋のジュン

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