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ソムニウム~夢~

89
夢をモチーフにした詩と短編小説です。
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記事一覧

ソムニウム(89)紅葉

ソムニウム(89)紅葉

自宅マンションのキッチンで友人と夜御飯を食べている。
彼がぽかんとした表情になって、背後のリビングを凝視する。
振り返ると照明の消えたリビングの、壁の高いところから、
真っ黒な禿髪に、真っ赤な和服を着た、
年齢も性別も分からない、下膨れの顔が生えている。
顔はとても大きくて、鼻と頬がつやつや光ってる。

枯れ葉で埋まった山の道を、サンダルでどんどん歩いていく。
真っ赤な紅葉が混じり出して、道がどん

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ソムニウム(88)遺灰とスリ

ソムニウム(88)遺灰とスリ

妻の実家で、妻と話してる。
彼女はとても優しくて、自分のことを大切に考えてくれてるのが伝わってくる。
なので、話せば話すほど、その人が妻ではない、と思えてくる。
妻の母親を呼んで、彼女の正体を確かめる。
「実は...」と言って、仏壇の中から、貝殻の口紅入れを出してくる。
中には遺灰が入ってる。
生まれてすぐに死んだ娘の灰で、あなたが話したのはこの子だ、と言われる。
初めて聞かされる話に驚き、どうし

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ソムニウム(87)六月の刀

ソムニウム(87)六月の刀

六月の晴れた道をいく
歩道を外れて柵を超え
他人の敷地の植え込みを踏み
窓をまたいで家の中へ入る
中に人の気配はない
カチコチ時計の音がする
深い角度で差し込む光
真っ暗な部屋を通り抜ける
階段を上って二階へ上がる
くの字に折れてさらに上へ
屋根裏部屋へ這い登る
埃をかぶった古物の中に
布で巻かれた棒がある
開くとそれは軍刀だ
刀身を抜くと錆びておらず
刃紋がぎらりと光を弾く
物打のあたりに凹みが

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ソムニウム(86)砂丘

ソムニウム(86)砂丘

がらんとした水族館の
大きなトイレの中を歩く
右足がずぶりと床に沈む
汚物が滲んで靴下が汚れる
若返った母親と手をつないで
水族館の外へ出る
我慢ばっかりしている人は
自分で自分に怒ってる
自分を虐めんの
もうやめな
母親がさらに若くなり
少女に戻って怒鳴りちらす
またそれ しつこい もういやだ
彼女の魂は体を捨てて
走ってどこかへ逃げていく
残された体は惚ける
ぶつぶつ何かをつぶやいて笑う
砂丘

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ソムニウム(85)リトリート

ソムニウム(85)リトリート

救急病院の入り口に 車を横づけして降りる
どうしましたか、と女性医師
デイジーが死ぬ
死んでしまう
手首を切って 首をつって
屋上から飛び降り 電車に飛び込み 
脳腫瘍で 心筋梗塞で 肺癌で
感電事故で 感染症で アナフィラキシーショックで
通り魔に刺されて ライフルで撃たれて
毒ガスをまかれて 白燐弾にやられて
凍えて 溺れて 火傷で死にそう
殺さないで 死なさないで
助けてください 命をとどめ

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ソムニウム(84)希望の玉

ソムニウム(84)希望の玉

食糧難になりつつある
スーパーは暗くて品物も少ない
米袋に囲まれた部屋の中にいる
いつ備えたのか分からない
米を研ぐと水に溶けて消える
消えてない、ここにある
半透明な男が横で言い
排水口のゴミ受けを外して見せる
何もない 研ぎ直す
また消える
農家さんに電話する
無くなるどころか余ってる
価格がどんどん下がってく
これじゃ来年作れない
苦い声を聴きながら
ロスタイムを生きていると知る
ぱぁん、

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ソムニウム(83)春の熊

ソムニウム(83)春の熊

夜勤の仕事の休憩時間
同僚と繁華街へ行く
人生相談の看板で外壁がおおわれた
黄色いビルの中に入る
エレベーターが檻のよう
同僚はいなくなり
メキシコ人の女と双子の少年が乗っている
同じ空気を吸っちゃだめだ
そう思って息を止める
Serían un buen cebo.
メキシコ人の女が笑う
エレベーターのドアが開くのに合わせて
体の肉が右から左へ消える
骨になって歩き出す
外は春の牧場で
双子の少

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ソムニウム(82)監督の眼球

ソムニウム(82)監督の眼球

激しい雨が降っている
雑居ビルの屋上で
映画監督と影が喧嘩をしてる
ハンティングナイフを監督が振り上げ
影の頭を上から突き刺す
刃が顎まで貫通する
二人の体が入れ替わり
ぎゃああと監督が悲鳴をあげる
ずぼり、
と影がナイフを引き抜き
監督の鼻と左目の周りを
ぐるりとえぐって切り落とし
それから顔の右半分を
顎に向かってざっくり削ぐ
監督の顔は雨に流れて
雨どいの中で詰まってしまう
目玉が外れ 一階

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ソムニウム(81)シャチ

ソムニウム(81)シャチ

海をひとりで泳いでる
すぐ横の海中に
大きな瞳が現れる
歯が 口が 顔が現れ
波を持ち上げ 水面を割る
それは大きなシャチの頭で
イルカのようにじゃれついてくる
遊びながらいっしょに泳いでいると
口の中から木が生えてくる
みるみるうちに大木になり
壁のように視界を覆う
抱きついてみる
脈打っている
深い森の中にいる

(終わり)

ソムニウム(80)違法建築

ソムニウム(80)違法建築

瓦礫を積み上げて作られた
違法建築の塔がある
そこにいるのは男たちばかりで
あとからあとから 出入りが激しい
階段はなく 外壁を登る
錆びた取手を頼りに上がる
何度もへし折れ 落ちそうになる
何人も 何人も 落ちていく
必死に頂上へよじ登る

屋上のペントハウスから出てきた男が
何がほしい、と訊いてくる
分からない 忘れてる
ここへ何しにきたんだろう
ペントハウスの周囲には
大量のズボンが脱ぎ捨て

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ソムニウム(79)ロードレーサー

ソムニウム(79)ロードレーサー

占星術家の家へ行く
金属の粉を吐きながら喋る男を紹介される
一緒に駅まで行くけれど 電車には乗らずに俺だけ戻る
面倒くさい奴だったから君に押しつけた、
と占星術家に言われ
酷いな、
と思いながら非常階段を駐輪場へ降りる
自転車がメチャメチャに壊されて
植え込みに投げ捨てられている
私が壊した、
と占星術家が言い
彼のお下がりの自転車をくれる
俺は乗らずに肩にかついで
今書けなくなってます、
と言う

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ソムニウム(78)流れ

ソムニウム(78)流れ

雨上がりの道を歩く
駐車場の空きスペースに
人のかたちをした
水が立ってて
俺はお前だ、 
お前は流れだ、
流れが枯れるまで生きろ、
と言う
わかった、
と答えて歩く
たっ たっ じゃたっ たっ
とくん とくん 
たくん たくん
人のかたちの水の流れが
自分の中に確かにある
濡れて輝く立ち木の梢が
顔をかすめてきらきら光る

(終わり)

ソムニウム(77)メールボックス

ソムニウム(77)メールボックス

巨大なマンションに住んでいる
メールボックスの前に立つ
自分名義の小さなポストが
高い所に増設されてる
開くと請求書が数十枚
レンタルソフトの滞納料金
何年溜めたか分からない

結婚を約束していた女医が
キッチンで突然死してしまう
心臓の疾患と思われる
彼女の職場へ報告に行き
中華料理を出されて食べる
麻婆豆腐が異様に美味い
いろいろ訊かれて
答えられない
彼女の死体を見た記憶がない

マンション

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ソムニウム(76)水色のオウム

ソムニウム(76)水色のオウム

大風が吹いて
家の中がメチャクチャ
家族は怖がり 自分は平気
庭に出て
植木鉢と 金髪のヘアウィッグと 
水色のオウムを拾って戻る
廊下に中華包丁を持った
手配中の殺人鬼が隠れていて
包丁の刃を 後ろから首に当てられる
払って逃げる 手の平が切れる
生命線がぱっくり開く
殺人鬼が家の奥へと入り
家族の誰かを襲ってる
悲鳴が上がり
どん、ごろごろ、と
首が転がる音がする
白い蛇革のスーツケースが

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