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木葉功一
2023年11月5日 18:08
自宅マンションのキッチンで友人と夜御飯を食べている。彼がぽかんとした表情になって、背後のリビングを凝視する。振り返ると照明の消えたリビングの、壁の高いところから、真っ黒な禿髪に、真っ赤な和服を着た、年齢も性別も分からない、下膨れの顔が生えている。顔はとても大きくて、鼻と頬がつやつや光ってる。枯れ葉で埋まった山の道を、サンダルでどんどん歩いていく。真っ赤な紅葉が混じり出して、道がどん
2023年10月22日 14:51
妻の実家で、妻と話してる。彼女はとても優しくて、自分のことを大切に考えてくれてるのが伝わってくる。なので、話せば話すほど、その人が妻ではない、と思えてくる。妻の母親を呼んで、彼女の正体を確かめる。「実は...」と言って、仏壇の中から、貝殻の口紅入れを出してくる。中には遺灰が入ってる。生まれてすぐに死んだ娘の灰で、あなたが話したのはこの子だ、と言われる。初めて聞かされる話に驚き、どうし
2022年6月2日 10:43
六月の晴れた道をいく歩道を外れて柵を超え他人の敷地の植え込みを踏み窓をまたいで家の中へ入る中に人の気配はないカチコチ時計の音がする深い角度で差し込む光真っ暗な部屋を通り抜ける階段を上って二階へ上がるくの字に折れてさらに上へ屋根裏部屋へ這い登る埃をかぶった古物の中に布で巻かれた棒がある開くとそれは軍刀だ刀身を抜くと錆びておらず刃紋がぎらりと光を弾く物打のあたりに凹みが
2022年5月27日 09:13
がらんとした水族館の大きなトイレの中を歩く右足がずぶりと床に沈む汚物が滲んで靴下が汚れる若返った母親と手をつないで水族館の外へ出る我慢ばっかりしている人は自分で自分に怒ってる自分を虐めんのもうやめな母親がさらに若くなり少女に戻って怒鳴りちらすまたそれ しつこい もういやだ彼女の魂は体を捨てて走ってどこかへ逃げていく残された体は惚けるぶつぶつ何かをつぶやいて笑う砂丘
2022年4月8日 01:15
救急病院の入り口に 車を横づけして降りるどうしましたか、と女性医師デイジーが死ぬ死んでしまう手首を切って 首をつって屋上から飛び降り 電車に飛び込み 脳腫瘍で 心筋梗塞で 肺癌で感電事故で 感染症で アナフィラキシーショックで通り魔に刺されて ライフルで撃たれて毒ガスをまかれて 白燐弾にやられて凍えて 溺れて 火傷で死にそう殺さないで 死なさないで助けてください 命をとどめ
2022年4月7日 00:23
食糧難になりつつあるスーパーは暗くて品物も少ない米袋に囲まれた部屋の中にいるいつ備えたのか分からない米を研ぐと水に溶けて消える消えてない、ここにある半透明な男が横で言い排水口のゴミ受けを外して見せる何もない 研ぎ直すまた消える農家さんに電話する無くなるどころか余ってる価格がどんどん下がってくこれじゃ来年作れない苦い声を聴きながらロスタイムを生きていると知るぱぁん、
2022年4月6日 23:11
夜勤の仕事の休憩時間同僚と繁華街へ行く人生相談の看板で外壁がおおわれた黄色いビルの中に入るエレベーターが檻のよう同僚はいなくなりメキシコ人の女と双子の少年が乗っている同じ空気を吸っちゃだめだそう思って息を止めるSerían un buen cebo.メキシコ人の女が笑うエレベーターのドアが開くのに合わせて体の肉が右から左へ消える骨になって歩き出す外は春の牧場で双子の少
2022年4月5日 22:51
激しい雨が降っている雑居ビルの屋上で映画監督と影が喧嘩をしてるハンティングナイフを監督が振り上げ影の頭を上から突き刺す刃が顎まで貫通する二人の体が入れ替わりぎゃああと監督が悲鳴をあげるずぼり、と影がナイフを引き抜き監督の鼻と左目の周りをぐるりとえぐって切り落としそれから顔の右半分を顎に向かってざっくり削ぐ監督の顔は雨に流れて雨どいの中で詰まってしまう目玉が外れ 一階
2022年4月4日 17:34
海をひとりで泳いでるすぐ横の海中に大きな瞳が現れる歯が 口が 顔が現れ波を持ち上げ 水面を割るそれは大きなシャチの頭でイルカのようにじゃれついてくる遊びながらいっしょに泳いでいると口の中から木が生えてくるみるみるうちに大木になり壁のように視界を覆う抱きついてみる脈打っている深い森の中にいる(終わり)
2022年4月4日 04:01
瓦礫を積み上げて作られた違法建築の塔があるそこにいるのは男たちばかりであとからあとから 出入りが激しい階段はなく 外壁を登る錆びた取手を頼りに上がる何度もへし折れ 落ちそうになる何人も 何人も 落ちていく必死に頂上へよじ登る屋上のペントハウスから出てきた男が何がほしい、と訊いてくる分からない 忘れてるここへ何しにきたんだろうペントハウスの周囲には大量のズボンが脱ぎ捨て
2022年4月4日 00:54
占星術家の家へ行く金属の粉を吐きながら喋る男を紹介される一緒に駅まで行くけれど 電車には乗らずに俺だけ戻る面倒くさい奴だったから君に押しつけた、と占星術家に言われ酷いな、と思いながら非常階段を駐輪場へ降りる自転車がメチャメチャに壊されて植え込みに投げ捨てられている私が壊した、と占星術家が言い彼のお下がりの自転車をくれる俺は乗らずに肩にかついで今書けなくなってます、と言う
2021年8月22日 06:22
雨上がりの道を歩く駐車場の空きスペースに人のかたちをした水が立ってて俺はお前だ、 お前は流れだ、流れが枯れるまで生きろ、と言うわかった、と答えて歩くたっ たっ じゃたっ たっとくん とくん たくん たくん人のかたちの水の流れが自分の中に確かにある濡れて輝く立ち木の梢が顔をかすめてきらきら光る(終わり)
2021年8月11日 19:11
巨大なマンションに住んでいるメールボックスの前に立つ自分名義の小さなポストが高い所に増設されてる開くと請求書が数十枚レンタルソフトの滞納料金何年溜めたか分からない結婚を約束していた女医がキッチンで突然死してしまう心臓の疾患と思われる彼女の職場へ報告に行き中華料理を出されて食べる麻婆豆腐が異様に美味いいろいろ訊かれて答えられない彼女の死体を見た記憶がないマンション
2021年8月11日 18:36
大風が吹いて家の中がメチャクチャ家族は怖がり 自分は平気庭に出て植木鉢と 金髪のヘアウィッグと 水色のオウムを拾って戻る廊下に中華包丁を持った手配中の殺人鬼が隠れていて包丁の刃を 後ろから首に当てられる払って逃げる 手の平が切れる生命線がぱっくり開く殺人鬼が家の奥へと入り家族の誰かを襲ってる悲鳴が上がりどん、ごろごろ、と首が転がる音がする白い蛇革のスーツケースが玄