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ソムニウム(86)砂丘


がらんとした水族館の
大きなトイレの中を歩く
右足がずぶりと床に沈む
汚物が滲んで靴下が汚れる
若返った母親と手をつないで
水族館の外へ出る
我慢ばっかりしている人は
自分で自分に怒ってる
自分を虐めんの
もうやめな
母親がさらに若くなり
少女に戻って怒鳴りちらす
またそれ しつこい もういやだ
彼女の魂は体を捨てて
走ってどこかへ逃げていく
残された体は惚ける
ぶつぶつ何かをつぶやいて笑う
砂丘にずらっと人が並んで
遠くの海を眺めてる
母親と一緒に列に加わる
狂ってるんですか、ときかれる
はい、と答えて
はっとなる
相手は俺にきいたのだ
ぐらぐらぐらと
世界が揺れる
どん、と少女の魂が
俺の体から俺を蹴り出す
はじき出された魂が
ころころ砂丘を転がり落ちる


(終わり)

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