見出し画像

ソムニウム(89)紅葉

自宅マンションのキッチンで友人と夜御飯を食べている。
彼がぽかんとした表情になって、背後のリビングを凝視する。
振り返ると照明の消えたリビングの、壁の高いところから、
真っ黒な禿髪に、真っ赤な和服を着た、
年齢も性別も分からない、下膨れの顔が生えている。
顔はとても大きくて、鼻と頬がつやつや光ってる。

枯れ葉で埋まった山の道を、サンダルでどんどん歩いていく。
真っ赤な紅葉が混じり出して、道がどんどん赤くなる。
道の終わりに、縄文杉ほどの太さの紅葉の巨木がある。
見上げるような大きさで、こんな紅葉は見たことがない。
真っ赤な梢がざわざわ揺れて、真っ赤な落ち葉ががさがさ鳴る。
盛り上がった木の根の横の岩に、下膨れの顔が浮き上がる。

友人と一緒にマンションに帰ってくる。
いるかな、と彼が訊く。
どうかな、と自分が答える。
二人で部屋の前に立つと、ドアが内側から勝手に開き、
隙間から、はらり、と紅葉が出てくる。


(終わり)

長編小説は完結するまで、詩は100本書けるまで、無料公開しています。途中でサポートをもらえると嬉しくて筆が進みます☆