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ソムニウム(83)春の熊


夜勤の仕事の休憩時間
同僚と繁華街へ行く
人生相談の看板で外壁がおおわれた
黄色いビルの中に入る
エレベーターが檻のよう
同僚はいなくなり
メキシコ人の女と双子の少年が乗っている
同じ空気を吸っちゃだめだ
そう思って息を止める
Serían un buen cebo.
メキシコ人の女が笑う
エレベーターのドアが開くのに合わせて
体の肉が右から左へ消える
骨になって歩き出す
外は春の牧場で
双子の少年と手をつないで歩く
一歩一歩 地面を踏むたび
新しい神経 新しい血管
新しい肉がついていく
大きな熊があちこちにいる
近づいてさわれる?
さ わ れ る よ
 食 わ れ る よ
ハミングするように双子が言う
さわって、食べられ、食べてみたい
強く 激しく そう思う
新しい体ができあがる
しみひとつなく 美しい
熊たちが立ってこっちを見てる
黄色い蝶が飛んでいく
うららかな日差しに 鳥がなく


(終わり)

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