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ソムニウム(80)違法建築


瓦礫を積み上げて作られた
違法建築の塔がある
そこにいるのは男たちばかりで
あとからあとから 出入りが激しい
階段はなく 外壁を登る
錆びた取手を頼りに上がる
何度もへし折れ 落ちそうになる
何人も 何人も 落ちていく
必死に頂上へよじ登る

屋上のペントハウスから出てきた男が
何がほしい、と訊いてくる
分からない 忘れてる
ここへ何しにきたんだろう
ペントハウスの周囲には
大量のズボンが脱ぎ捨ててある
下半身が裸なので
一本選んでそれをはく
キャメル色でごわごわしてベルトがごつい

降りる途中で疲れてしまい
和風の屋敷に入って休む
半透明の男たちが宴会をしている
引っ張り込まれて飲まされる
血の色に染められた
異様に長い帯をもらう
忘れずに地上へ持っていけ
でないとここから出られんぞ
ふいに会場が無人になり
みし みし ぎし
と塔が揺れる
ばらばらと窓の外を男たちが落ちる
外壁にしがみつき 必死に降りる

たどりついた地上では
炊き出しの行列ができている
落ちて死んだ男たちの肉が
スープの具にされている
大勢の男たちが美味そうに
もりもり食べて どんどん登る
冗談じゃない
背を向け 立ち去る
血の色が鮮やかに目の端でひらめく
塔の中ほどにある屋敷の窓から
赤い帯がたなびいている
いけない、置いてきた
と思った瞬間
無理矢理 肉汁を飲まされる
それですべてを忘れてしまい
帯を見つめ
ズボンを脱いで
夢中になって塔を登る


(終わり)

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