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コメディ礼賛 (3)映画「記憶にございません!」《戯画》として描かれているのは政界だけど、ヒトゴトじゃないね

日本のコメディには《掛け詞/Double Meaning》の表題が見つからない、と「コメディ礼賛(2+)」に書きましたが、三谷幸喜の脚本・監督、中井貴一主演の映画「記憶にございません!」の表題は、広い意味では、《Double Meaning》と言えるかもしれません。
(でも、《掛け詞》ではないかな)

政治家の常套句的答弁
「記憶にございません」
と、その常套句の常習者だったのに、本当に記憶喪失になって《過去の自分》を忘れてしまい、良くも悪くも《政治家としてスレてしまう前の、原点に帰ってしまった》総理大臣の姿という、《Double Meaning》になっています。

三谷幸喜の脚本・監督のコメディ映画としては、1番に推したい。
評価はもちろん、人それぞれですが、和製コメディ映画の中でも、かなり上位だと思います。

《記憶を失くした首相から眺めた政界を、カリカチャライズして描く》
それはもちろん重要なテーマでしょうが、作者はもっと一般的に、
──もし記憶を失くして原点から《現在の自分》を眺めてみたら、誰にでも《驚き》があるはず──
と示唆しているように思います。
「自分は、なんて嫌な人間だったのか」
「なぜ、これまで、そんなひどい事をしてきたのだろう」
「どうしてこの人と、こんな関係になったのだろう」
などなど。

記憶の中で人生の《連続性》が途絶えてみると、結構不条理・不合理な日常の中にいることにも気付くのでしょうね。

さらに言えば、黒田総理を取り巻く人びとの、欲望をベースにしたドタバタ劇──これと相似形の《鳥獣戯画》は、どこにでも──企業にも、役所にも、学校にも──特に、組織の上の方に行けば行くほど──あるよな、と思ってしまう。

なんといっても、黒田総理・中井貴一の演技が見事です。
この人は、NHK「サラメシ」のハイテンションなナレーションを聴いているだけでも、ものすごく《達者な》役者であることがわかる。

総理を取り巻く面々の演技力もたいしたものですが、特に:
アメリカの女性大統領を演じる木村佳乃がすばらしく、私が《特別鈍い》のかもしれないが、本当に日系の米国人女優が演じているのかと思ったくらいでした。

もうひとつ。

Double Meaningを持つ米国映画「Sister Act」のタイトルが、日本では「天使にラブ・ソングを…」に変更されたのは(以下、私の想像)、

どうせ、このタイトルの《Double Meaning》なんて、日本人にはわかりっこないんだから、もっと映画の内容を反映させる題名にしようぜ!

ということなのでしょう。
面白いのは、この映画は、それと真逆に(これも私の想像)、

日本から一歩外に出たら、「記憶にございません!」《Double Meaning》なんてわかりっこないんだから、もっとわかりやすいタイトルにしようぜ!

ということで、英語タイトル「Hit Me Anyone One More Time」と付けられたのでしょう。

……と思っていたら、どうやらこの英語タイトルもそれなりに深く、ブリトニー・スピアーズの「…Baby One More Time」の歌詞「Hit me baby one more time(もう一度連絡して)」をもじっており、これはこれで《Double Meaning》なのだとか。以下、引用です

つまりこのタイトルは、「誰か自分をもう一度殴って・ぶってもらえませんか?(さすれば記憶が元に戻るかも…)」という意味でもあれば、「誰かもう一度、記憶を呼び覚ますためのヒントをいただけないでしょうか?」という意味もあるのかも?と邪推しています。

英題は英題で別の《Double Meaning》だとは! アッパレ!

(……でも、「記憶にございません」って、日本の政治家しか使わないんだろうか?)

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