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第233号『最初の10年の仕事の仕方④』

サイバーコネクトツー初めての版権タイトルである『NARUTO-ナルト- ナルティメットヒーロー』がバンダイ(現バンダイナムコエンターテインメント)より発売されたのは2003年10月でした。

TVアニメ『NARUTO-ナルト-』が放送中でしかも初めてプレイステーション2専用ゲームソフトとして発売されたことで大ヒットとなりました。

しかし当時の我々には息つく暇も休む暇も与えられませんでした。

なぜならば。

『ヒーロー』(以下『ヒーロー1』)の翌年2004年9月にはその続編である『ヒーロー2』の発売が予定されていたからです。

当時のバンダイの担当からはこう言われていました。

「うん、おかげさまで『ヒーロー1』は大ヒットとなりました。お疲れ様でした。しかしサイバーさんにはこれから更なる大ヒットを狙う『ヒーロー2』の制作に着手していただきます。発売日は2004年9月です。これは来期のバンダイの発売予定ゲームソフト全体のタイトルラインナップを調整した結果です。ということで発売まで11か月しかありません。が、『ヒーロー1』以上の大ヒットを狙っていただきます。これはあくまで我々バンダイ側の事情ですので本来サイバーさんには直接関係が無いことかもしれませんが、我々バンダイグループはTVアニメ『NARUTO-ナルト-』を放送するために高額な提供費というものを支払うことで“ゲーム化権(ゲームソフトを製作・販売する権利)”を獲得しています。ですので毎年ゲームソフトを製作・販売することでその提供費を回収しなくてはなりません。ああ、いや、決してサイバーさんに関係ない話ではありませんね。これからもサイバーさんは『NARUTO-ナルト-』のゲームソフトを作りたいんでしょう?で、あれば作っていただけますよね?これから毎年『NARUTO-ナルト-』のゲームソフトをコンスタントに作っていただかないと我々バンダイは(ただ提供費を払っているだけで収入が無いので)赤字となってしまいます。赤字のプロジェクトになってしまうと『NARUTO-ナルト-』のゲームビジネス自体が今後続けられなくなることは容易に想像できますよね?ああ、そうですか、わかりましたか、理解が早くて助かります。では速やかに“より売れる続編『ヒーロー2』の企画”を提出してください」

『ヒーロー1』の開発が終わった直後にやって来たバンダイの新任の『NARUTO-ナルト-』担当者はイケ好かない奴でしたが、我々にはそんなことを気にしている余裕も暇も全くありませんでした。

『ヒーロー1』の開発期間は実質12か月でした。

『ヒーロー2』に与えられた開発期間はそれよりも短い11か月。

そして我々には『ヒーロー2』で“どうしても成し遂げたいこと”というものが“2つ”ありました。

それは以下の“2つ”でした。

【①プレイアブルキャラクターを倍増する】
『ヒーロー1』の(対戦アクションゲームとして遊べる)プレイアブルキャラクターは12名しか実装できませんでした。これは基本的なゲームシステムや作り方から構築しなければならなかった1作目の宿命でした。発明にはどうしても時間がかかります。たった12か月しかない開発期間のおよそ6か月もの期間を基本システムと量産方法の構築に費やしてしまった我々には12体のキャラクターを実装することで手一杯でした。また【TVアニメ追い越し禁止令】問題(『最初に10年の仕事の仕方③』参照のこと)からどうしても“実装出来ないキャラクター”もいました。よって我々開発スタッフは“次こそはプレイアブルキャラクターを倍増させる!”という野望を持っていたのでした。(正確には全28体のプレイアブルキャラクター数なので“倍以上”なのです)

【②濃密なストーリーモードを実装する】
これも上記と全く同じ事情・問題から『ヒーロー1』では実装を泣く泣く見送った部分でした。しかし『ヒーロー2』では絶対に実装したい。それも原作再現のドラマだけではなく、更に“その先”の物語まで展開する“オリジナルストーリー”も実装したいという野望を抱いていました。そのためのオリジナル脚本も用意しました。その名も“外導ノ印(げどうのいん)”。大蛇丸による“木ノ葉崩し”の後に再び襲い掛かる脅威。それは禁術“外導ノ印(げどうのいん)”を使ってカカシの写輪眼を封じることで窮地に立たせるだけでなく、禁術・穢土転生を使って死んだはずの白・再不斬そして三代目火影までもを蘇らせるという驚愕のシナリオでした。

どうしてもこの2つを実装したい、けど開発期間は短い。

では、“どうすれば出来るか?”

①開発予算を増やす
②開発スタッフの人数を増やす

我々が取った手段はシンプルにこの2点でした。

発売日が変更できないのであれば、もうこの2点しか方法がありません。

“より売れる企画=商品を”とバンダイから要望をいただきそれを叶えるための提案をした後だったので、契約金額は『ヒーロー1』よりも多く貰えることになりました。(こういう理解があるところがバンダイの好きなとこ)

その増えた分の開発予算で開発スタッフの人数を増やすことでなんとか超ボリュームの開発をこなすことが出来ました。(新人やアルバイトをいくら増やしたところで決してそんなに開発効率が上がるワケではないことを同業者の方であればご理解いただけると思うのですが、その辺の苦労を今回語り始めると主旨がズレていってしまうのでここでは割愛します。が、本当に一筋縄ではいかない超絶大変な11か月でした。当時からいるスタッフは今でも“『ヒーロー2』の開発の頃の苦労の記憶は思い出したくありません”とみんな口々に言います)

こうして完成した『NARUTO-ナルト- ナルティメットヒーロー2』は予定通り2004年9月にバンダイより発売され『ヒーロー1』を遥かに上回る売り上げを記録し大ヒットとなりました。

いやー、苦労して作った甲斐があったってもんです。本当に開発スタッフ一同死ぬほど苦労して作り上げたタイトルだったので『ヒーロー1』を上回る結果を出せてホントに良かった。

良かった、良かった……?

あー、うん、違いますね、いや、あってますよ?違ってはいないのですが、この記事の趣旨はですね、記事タイトルにもあるように『最初の10年の仕事の仕方』です。

このまま今回の記事が終わってしまうと“へー”だけで終わってしまいます。

そうじゃないですね、この『週刊少年松山洋』の読者の皆様に与える“知見”としてはまだ不十分な記事のままです。

えー、では、この時の『ヒーロー2』の開発時に我々が(いや私が)犯してしまった“とんでもない過ち”の話をしないわけにはいきませんね。

それではもうしばらくだけお付き合いください。

【『ヒーロー2』で犯した重大な過ちとは?】

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