漫画家のギャラは原稿料ではなく掲載料
「出版社から貰ってる原稿料が安すぎて生活できない・やっていけない」
なんて話を漫画家界隈ではよく聞きます。これは別に今に始まった話では無く昔からよく聞きます。
ただ最近ちょっと気になるのがこういった発言が多くなってきたこと。
「原稿料が安すぎて制作費がまかなえない」
こうした発言を目にするたびに「あれ?」と私は違和感を覚えます。
少しずつ時代が変化してきていることもあるのですが、ひょっとしたらご存知ない方もいらっしゃるのでは?と思い今回の記事を書こうと思いました。
そもそも漫画家のギャラは『原稿料と印税』です。せっかくなので私が知る限りの情報も織り交ぜつつ解説していきたいと思います。
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そもそも原稿料ではなく掲載料
原稿料というのは基本的にその出版社が発行する雑誌(もしくはWEB媒体・アプリ)などに漫画が掲載される際に、出版社から漫画家に対して掲載ページ数に応じして支払われる掲載料のことです。
掲載料とは文字通り掲載されたから支払われるお金のことであり、掲載されなければいくら何ページ描こうがギャラはゼロ円です。
ページ単価は各出版社や編集部、そして漫画家さんの実績によって変動しますが私が知る限り3,000円~10,000円くらいです。(ベテラン作家で高い人でもページ20,000円~30,000円が上限というイメージ)
ずいぶんと差があるなと思われるかもしれませんが、実際の話ホントにバラバラなんです。
「少女漫画だと安い」という意見もあったりしますが決してそんなことはありません。少女漫画誌でもページ単価10,000円だったりもします。
そして「大手出版社は高くて中堅出版社は安い」なんて意見もありますが、これもそんなことありません。
上場企業でもある大手出版社(例えばKADOKAWA)の看板雑誌でもページ単価5,000円だったりします。
なので本当にバラバラなのです。
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集英社の中路さんがこちらのツイートで解説されているように昔の少年ジャンプは新人は9,000円からスタートしていました。(これはそのまんま『バクマン。』にも載っています)
現在は12,000円まで上がっているようですね。
しかしこれはあくまで少年ジャンプという漫画界のキングオブキングスに掲載されるという特別な立場の漫画家さんのギャラなので、当然ながら全ての少年誌がこんな金額というわけではありません。
私の肌感覚で目安をお伝えしておくとだいたい8,000円から10,000円くらいがページ単価の平均かと思います。
仮にページ単価10,000円だとして、月に24ページ掲載されれば24万円。
週刊連載作家だと月におよそ80ページ描くことになりますので80万円。
冒頭の話に戻りますが、「生活できない」と言われている方の多くはこの掲載料で(例えば24万から80万という幅の中で)どうやって生活していけば良いのか?という考え方で発言されているように見受けられます。
しかしそもそもが原稿料=掲載料というギャラはその漫画を制作するための制作費では決してないということを知っておきましょう。
漫画家という職業は稼業でありフリーランスであり個人事業主なのです。
職業における漫画家とはその名に『家』という文字が含まれている通り陶芸家や書道家・画家などと同じなのです。
例えば陶芸家は山に籠って自身が納得いくまで皿を作って焼いて、気に入らなければ割って作り直すし気に入ったものが出来たら初めて山を降りて麓の街で自分の皿を売ってお金に換える。
それが陶芸家のギャラということになります。
要は売れない限りは一円にもならない職業ということです。
漫画家とは本来こうした部類の職業なのです。
「制作費を貰えないと漫画が描けないしそもそも生活も出来ない」
こんなことを言ってしまう人はそもそも漫画家をやってはいけません。
どっかの会社に就職して大人しくサラリーマンをやってください。
漫画家は自己資金で漫画を描いて、出版社がそれを気に入って採用されて掲載されたら初めてギャラ=掲載料が貰える職業です。
これは世の中のイラストレーターも同様です。
採用(掲載)されて初めてお金が貰えるのです。
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印税の目安10%の正体
漫画家のもう一つのギャラである印税についてもお話しておきます。
ぶっちゃけると漫画家は原稿料=掲載料だけでは赤字であるといういうことは上の文を読めばご理解いただけるかと思います。
そうなると漫画家さんの収入で最も大きいのはこの印税ということになります、というかもっとぶっちゃけた言い方をすると『漫画連載の赤字を単行本印税で取り返す・儲ける』というのが基本だと思ってください。
一般的には書籍における著者印税は10%と言われています。
これもあくまで目安であって出版社や編集部・漫画家によって変動します。
「新人だから5%ね」とか「ベテラン作家は15%」なんて話もたまに聞きますが、よほどのことが無い限り基本的には10%が基準となっています。
では、この印税に関してもよく聞く意見としてこんなものがります。
「出版社が90%で著者が10%なんておかしい」
パッと見るとそういった比率に見えてしまいがちですが、これは出版業界というか出版社の最低限の仕組みを勉強していない作家がさすがに悪いと私は思っています。(もしくは出版社の編集担当がキチンと最低限の仕組みすら説明していないかサボってるかです)
例えばある漫画の単行本が出るとして、それが500円の本で1万部発行するとしましょう。
著者印税が10%なので一冊につき50円入ってきます。それが1万部なので50万円がその単行本の著者印税ということになります。
では、出版社の売上は500円×1万部=500万円で、その中から著者印税50万円を支払っているので450万円!やっぱり出版社が丸儲け!とはなりません。ならないのです。
(例外はありますが)そもそも著者印税は発行部数に対して支払われますので1万部に対して著者に印税が50万円支払われることは変わりません。
では出版社側の実態はどうなっているか?
まず日本の出版業界には返本制度があります。これにより何冊を発行し書店に流通させても最終的に売れなければ出版社に本が戻ってきてしまいます。
仮に1万部発行しても半分しか売れなかったら5000冊が戻ってきてしまいます。そしてそれらは倉庫に保管されますが、それだって無料ではなく保管料がかかりますのでいつまでも売れない本を倉庫に保管するわけにもいきませんのでやがて焼却処分されることになります。
そもそも出版社は本を発行して出版取次を通すときに70%程度で卸していますので500円の本は出版社にとっては350円の売上にしかなりません。
その350円の売上の中から50円の著者印税を支払っているということを仕組みとして覚えておいてください。
出版社は売れるかどうかもわからない本に対して発行部数分の著者印税を支払い、書店に流通させた後に返本されてきた本の数はそのまんま赤字となり、倉庫費用も焼却費用も誰も支払ってくれません。
それら全てが出版社側の一方的なリスクなのです。
それでも「著者印税10%は少ない」と思いますか?
私は割と適正かと思いますね。
(電子書籍が割合的にも増えてきていてそこでの著者印税の%の変動や考え方も色々な意見と実例が出てきていますが、今回それもあわせてやっちゃうとゴチャゴチャになるのでまたの機会にしたいと思います)
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出版社と漫画家の関係性の変化
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