「『あの夢を見た日から、ずっと間違えたまま、生きづらさを抱えている。そんな焦燥感に満ちた世界観が好きだ——』」
「おー、結構いいねついてる」
そこそこ有名らしいインフルエンサーの友達に聞いてみたら、『流行ってるものについて書くといいかもね』と言われたので、普段読まないような本を買って、それについて書いてみた。
「それにしても思ったよりだいぶ伸びたなー、これ」
『文章すごく面白いです!』『私も思い切って何か投稿してみようと思いました』『これからも楽しみにしています』
寝る前に暗がりの中で、コメントにいいねをつける。パソコンを買った方が書きやすいのかなー、と思いながらも、結局ずっとこれで書いているわたしは、やっぱり現代人なのかもしれない。
「『学校はそこまで好きじゃないけど、別に嫌いでもない。勉強や成績は普通だ。授業もごく普通に受けている。だから友達に会うために行っているようなものだ。将来は特に何も考えていない。行ける大学に行こうと思っている。思えばわたしは、何かになりたいとか、これを実現したい、といった感情に乏しいのかもしれない』」
なんて、読書感想文じゃないこともついでに書いてみたら、これも結構伸びた。世の中には意外と、同じようなことを思っている人が多いのかもしれない。
——この頃は、わたしの無限大想像力に向かうところ敵なし! なんて思うほどまでに調子に乗ってしまっていた。だけど後にしてみれば、これは何も見えていなかっただけの、根拠のない希望に満ちているだけのものだった。
「あ、夕香、ブログ見てるよー! やっぱりすごいね。めちゃ面白い。もはやあの感想文を読めば、本は読まなくてもいいんじゃない? って思った」
「いやいや、本はちゃんと読んでよ…… まぁでもありがと、そう言ってもらえるのはすっごく嬉しい」
「あとあれ、エッセイ的な文章もかなり良いね。色々と伝わってくる。あんな情熱があったなんて知らなかった……! すごい!」
「あはは、ありがとう」
少し恥ずかしい。
*
それから少しあって、読書感想文とエッセイ的な何かだけじゃ物足りなくなってしまったわたしは、小説を書こうとしていた。再び読書感想文の授業。窓の外は、ぱらぱらと雨が降っている。
「はいはい、作者の気持ちをずっと考えてればいいんでしょ」
「いや、違うから……あと、お前はまず彼女のことをもっと考えてやれよ、そんなんだから冷たくされんだろ」
「おい……俺だってな、一生懸命努力してるんだよ。だけどさ、女心が難しすぎるんだよ! 現文が苦手ってレベルじゃない……!」
色々な会話が聞こえてくる。それに耳を澄ますのが楽しかったり、勝手に心の中で会話に加わったりするのは、意外とみんなやってるんじゃないだろうか。
「さて、と。今日も続きを書くか」
書いてきた感想文は早々に提出して、余っていた原稿用紙を机に並べる。授業中はスマホを使うわけにはいかないから、代わりにシャープペンを。もちろん先生がプロデュースしているものだ。……先生はパソコンで書いているはずなのに何故ペン? と思ったけど、気にしないことにした。くるくるさせるのが楽しいので、まぁいいだろう。でも、くるくるはとっても順調なのだけど、話を何も思いつかない。全然ひらめかない。
「物語書くのってこんなに難しいのか……」
その間に思いつくのは先生のことばかり。先生なら何を書くんだろう、どうやって書き始めるんだろう。何を思って生きているんだろう、今何してるんだろう。……そういえばあの時のあの子は、今どこにいるのかな。原稿用紙を押さえる手は、いつのまにかノートを開いていた。