見出し画像

アイディアはセンスなのか

「なあ、何かアイディアないん?」

ミーティングで、そう聞かれると身体の内側が疼く。
口の中が乾いて、顔が熱い。脇汗が出る。

何もないとは、言えない。
でも何かは、言わないといけない。

沈黙の後に口からこぼれた言葉は、誰の心にも届かない。
これじゃなかったのか・・・と、ほんの少しの後悔とホッとした自分がいる。

別の人がアイディアを、簡単に思いつく様を見ていると、「あの人は特別なんだ」と思う。

新商品、新サービス、新規事業、広告、コンセプト、アイディア、漫画、クリエイター、デザイナー。

そうしたものは、センスが生み出している。
自分とは関係ない。自分にはできない。

でも、本当にそうなんだろうか?

頭の使い方を習ってないだけじゃないのか?
世の中には、ルールや常識がたくさんある。
それの守り方や適応の仕方は、学校でも社会でも教えてもらった。

でも、それの創り方は教えてもらってないだけなのかもしれない。

アイディアの生み出し方。
アイディアの届け方。
人を深く動かすための方法。

その内容を、新規事業、広告コピー、ライター、クリエイター、学者、メディアの視点からまとめてみたい。



1.アセットの再定義

自社の商材やクライアントからの依頼、アイディアを求められている題材。もとになる題材に対して、別の角度から見たり、再定義してみると違った視点が見えてくる。

例えば弊社は防災を広める事業を行っており、最初に取り組んだのは防災のカタログギフト事業。
おしゃれな防災グッズだけを厳選したカタログギフト「LIFEGIFT」というプロダクトを制作しています。

防災という、ネガティブで、野暮ったく、災害を想起するもの。
それを逆転して、あなたの無事がいちばん大事。というブランドメッセージとともに、ギフトで防災を浸透させることで、防災を無理なく広めることを目指しています。

①見立て

防災をそのまま捉えると、防災=ネガティブ、野暮ったい、固い、面倒、不幸などのイメージがつきまといます。なので、別の何かに見立てられないかを考えます。
そのためのプロセスとして、構成要素の因数分解とアナロジーが大切になります。

防災というものを分解すると、防災グッズ、災害、予防、備蓄、食、アウトドアグッズ、家族を守る、命を守る、家に留まる、ライフラインが使えない・・・

など分解したうえで、防災(守る)という行為を、大切な人のためを思って行う行為とアナロジー的に見立てることができます。

ライフラインが使えないという状態も、ある種、アウトドアやキャンプと見立てることができます。

②視点移動

既存のものを再定義するときには、複数の視点から見ることも大切です。

必死で書く対象自体を描写しようとしていて、ビールならビールで、ビールそのものがまるでこの世界に単独で存在しているかのようなコピーになっている。世の中のたくさんの人との関係を書こうとしないから、どうしても広がりに限界が出てしまうのです。

広告コピーってこう書くんだ!読本

防災グッズそのものや、防災を行っている人の目線だけだと難しく広がりが出ない。
なので、家族がいる人の視点、子どもが生まれた人の視点、結婚したばかりの人の視点、家を持った人の視点、コミュニケーションの視点、メディアの視点などの複数の視点から防災を見てみます。

すると、ギフトコミュニケーションという文脈や、新築、結婚などの特別な瞬間に、あなたの無事がいちばん大事という命を守る防災だからこそ、響く価値を再定義をすることができます。
また家に置いておくものや、家を買った瞬間に着目しているからこそ、住空間に自然と馴染むデザイン性の要素も必要になります。

2.外部の理解

①時代の空気感

昔よりも多様性が認められたり、バブルの頃よりも閉塞感や停滞感を感じたり、SNSで個人の意見が大きくなったり、社会は少しずつ変化しています。
その時代の空気感のようなものが、驚くほど大きな力を持っています。

優れたクリエイティブジャンプとは往々にして時代の空気感の歪みによってもたらされます。多くの人が無意識下で抱いている時代のムードを言語化し、顕在意識に引っ張り出しながら、既存の常識に叛逆するのです。

クリエイティブジャンプ 世界を3ミリ面白くする仕事術

時代の空気感を捉えるためには、相対化することが大切です。
例えば今流行っているもの、話題、ニュース、出来事などの裏側を考える際に、

  • 時間軸(過去はどうだったのか?、未来はどうなるのか)

  • 空間軸(別のコミュニティ、地域、外国ではどうなのか)

  • 視点軸(異なる人や別の視点からだとどうなのか)

  • 反対軸(真逆の立場からみるとどうなのか)

  • 比較軸(別の何か近しいことからみるとどうなのか)

こうした視点から、相対化することが大切です。

自分の立場を絶対だと思わず、相対化することが重要である。そうすることで、物事の新たな側面が見えたり、新たな視点から考えたりすることができる。そのための問いとして、ここでは「比較する」、「違う視点から見る」、「反対の立場から見る」、「時間軸を移動する」、「空間軸を移動する」--五つを挙げておこう。

問うとはどういうことか 人間的に生きるための思考のレッスン


実際に、2020年のコロナ禍で販売を開始した防災カタログギフトは、大切な人の存在を再度考えたり、会えない中で気持ちを届ける手段として、多くの方に手にとっていただくことができました。
それは、少しはそのときの時代の空気にマッチしていたのかもしれません。

②バイアスの理解

時代の空気だけではなく、私たちは日々様々な常識やバイアスに縛られています。
アイディアを考える対象の周辺に潜むバイアスにも着目することが大切です。

防災グッズやカタログギフトという商品や業界、周辺環境に潜むバイアスを解き明かし、それを変化させることで、大きなインパクトを生み出すことができます。

例えば防災グッズだと、普通は、銀色に十字マークの防災リュック、美味しくないカンパンなどのバイアスがあります。一般的には、自分のために備えるものです。

そうした一般的には、普通は、こうするのが決まっている、こうすべき、無理、というバイアスを感じるワードから、その商品や業界、周辺環境のバイアスを可視化することができます。


③個人のインサイト

ターゲットのインサイトを捉える際に、ただのリサーチやインタビューだけでは、深いインサイトが得られないのは、上記のような時代の空気感、バイアスという無意識的な感覚を掴めていないからかもしれません。

バイアスや空気感といったものが、個人の常識を作り出し、そうするのが当たり前という抑制を生み出します。その抑制されたことによって生まれている内なる欲求がインサイトです。

そうしたインサイトを捉えるためには、行動の事実を観察すること、その行動の背景を深堀りすること、時代の空気やバイアスの視点からより深く考察することが大切です。

弊社のギフトもあなたの無事がいちばんという気持ちに共感してくださり、仲の良い友人に贈ってくださるケースがありますが、実は引出物や内祝いで使っていただけることが驚くほど多いです。

あなたのことが大切です。だからこのギフトを贈っているというメッセージ性があるからこそ、少し関係性の遠い、上司や昔お世話になった人、親戚など、何を贈ればいいかわからないけど適当なものを贈れない人に、実は防災は最適なギフトになっているのかもしれません。


3.アイディアの交配

様々な見方で自社の商品や、取り巻く環境、対象となる人の状況を考えてきました。実際にアイディアを生み出す際には掛け合わせが大切です。

①ビジョンを創造する

アイディアの交配の前提として、プロダクトの思想やサービスの根幹を定義することが大切です。その文脈に共感していただくことで、商品やサービスはより深く広まっていくのかもしれません。

・どんな社会が理想なのか(社会全体の視点)
・その中で、この商品やサービスと、対象者はどうなっていくのが理想なのか。(自社と対象者の視点)

私たちは、防災という後回しにしてしまいがちなものを、負荷なく自然と取り組めるような社会を目指しています。(社会全体の視点)

その中で、防災カタログギフトで、ギフトを通じて人を思う気持ちが自然と防災につながる。そして受け取った方が、新しい防災の贈り手として、0から1の防災のきっかけが社会に循環していく。(自社と対象者の視点)

そんな社会のあり方を定義することで、自社の利益というエゴ視点や、社会的に良いという他人事視点から脱して、自分たちにも取り組みの意義があり、対象者や社会からも受け入れられるのかもしれません。

②定数と変数を掛け合わせる

自社の持つアセットを定数として置きながら、変数となる要素を当てはめてアイディアを見立ててみる。その際の変数は下記のような項目に沿って考えると網羅的に考えることができます。

  • WHO:誰のためのもの?(子ども?親?パワーカップル?高齢の両親?)

  • WHERE:どこで使うもの?(家?キャンプ?移動中?)

  • WHEN:どんなシーンのもの?(おおきなライフイベント?日常?)

  • WHAT:何の分野?商品?サービス?(食?エンタメ?美容?趣味?健康?)

30代の方の結婚、出産、新築、内祝いなどのライフイベントに、ギフトという変数と防災という定数をかけ合わせて発想しています。

4.コンテンツの流通

自社の資源を再定義し、時代やバイアス、個人のインサイトから対象を観察し、アイディアを掛け合わせて構想します。最後に、優れたアイディアを届けるためには、多くの人々の内に宿る無意識の感情を捉えることが大切なのかもしれません。

①口に出したい無意識の感情を捉える

話題になるコンテンツには、その時に生きる人達の空気感。何となく感じているけど、普段は口にしない感情。そうしたことをうまく表現できると、その企画や商品をネタにして、「自分も〇〇だと思っていた」と共感や賛否など、感情を媒介にして自然と広がっていきます。

2017年に話題になった結婚情報誌「ゼクシイ」の広告。
結婚をしなくても幸せになれる空気が広がっている中で、あえてそれを汲み取りながら表現することで、強い共感が生まれたのかもしれません。

コロナ禍で生まれたLIFEGIFTも、人と会えなくなって、暗いニュースが増えて、社会や経済はこの先どうなってしまうのかという空気感が漂っていました。
そんな中でも、お祝いのタイミングはやってくる。直接は会えないし、普段から面と向かって言うことではないけれど、特別なときだからこそ少しは感謝の想いを伝えてもいいかもしれない。

そんな気持ちから、あなたの無事が、いちばん大事というメッセージに共感していただけたのかもしれません。

②他との違いを明確にする

本や映画、商品、体験。誰かに話して伝えるときに、何が面白かった?と聞かれると、「とにかくすごかった!」「何か面白かった!」など、魅力を言語化するのは驚くほど難しい。だからこそ、魅力ではなく、違いを明確にするほうが、人を介して伝えるときは伝わりやすくなります。

  • おしゃれな防災グッズだけが厳選されたカタログギフト

  • 冊子じゃなくてカードになっているパッケージ

  • あなたの無事がいちばん大事というメッセージ性の強いブランド

  • 開発者が被災者で被災地支援にずっと行っている目線からセレクトした防災グッズ

など、見たこともない要素や他とは違う要素があることで、自然と言葉にしたときに魅力が伝わりやすくなります。


③メディアの視点で捉えてみる

先ほどまでのお話が一般の方同士の話題にフォーカスした話だとすると、その話題を届けるメディアの視点から捉えてみることが大切です。

弊社の場合は、防災という特性上、メディアの力を通して多くの方に認知を届けることは非常に重要です。また弊社のような弱小ベンチャーにとっては、こうしたPRの力を借りさせていただけることは非常に有り難い限りです。

今まで取り上げていただいたテレビや新聞の皆様が共通して着目いただけるのは、下記のようなストーリーの要素に注目いただき取り上げていただきました。

  • 時代の変化の兆し、社会的な変化の事象(災害の増加)

  • 事業を始めたきっかけ(被災経験、被災地支援の経験)

  • その分野の新しい取り組みであること(防災カタログギフト)

  • どう世の中を変えたいか(防災を無理なく広める)

  • 一般の方にとってのメリット(防災を手軽に始められる)

  • 将来的なビジョン(防災に取り組む人を増やす)


また、形作ったアイディアや商品、サービスを実際に露出したいメディアの掲載している切り口から考えてみることも大切です。
自社の商材やアイディアを取り上げてもらう切り口をイメージしながら、自分たちで記事化してみるというプロセスを踏むと、今まで見えていなかった外部の視点から、魅力や訴求点を発見できるかもしれません。

番外編:日頃からの意識

以上が、様々な本に記載のあった内容をまとめた、アイディアの出し方、人を捉えるクリエイティブの作り方です。ベースは龍崎さんが書かれた「クリエイティブジャンプ」の内容をもとに、他の書籍からは共通する内容や補足的な視点から内容をまとめさせていただきました。
(龍崎さんのクリエイティブジャンプは、新しい市場や商品を考えている人には本当におすすめです。)

イメージしてもらいやすいように弊社の事例を偉そうに記載していますが、もちろん商品開発の際にできていたわけでは有りません。(正直、今考えてみればそういう風に捉えれるかもしれない程度のことです・・・)

なので、自分としては逆にそうしたクリエイティブやアイディアの再現性を求めたいのかもしれません。

アイディアなんて、センスのある人や特別な才能がある人の特権だと思っていた。でもどこかでほんの少しでも、自分もやってみたいと思っている。

そうした人に、アイディアやクリエイティブは再現性があると、少しでも感じていただければ幸いです。

そして結局本を読んで感じたのは、日頃の積み重ねに勝るものはないなと思います。時代の空気感やバイアス、個人のインサイト、それを統合するアイディアのもとになる知識、言語化。そうしたものはアイディアを求められる前の普段の生活の中で、養うしかないのかもしれません。

個人的に新しくやり始めたことをこちらにも記載しておきます。

①話題の背景を掴む

流行っていること、新しいことの背景を理解する。誰がどんな感情を無意識的に抱えているのか。その背景を考察してみる。

  • Googleトレンド

  • ヤフーリアルタイム検索

  • YouTube急上昇

  • TikTokクリエイティブセンター

  • Xトレンド

  • 雑誌

  • 本屋巡り

こうした媒体から、日々の動きを観察しつつ、誰がどんな感情を持って話題になっているのかを考えるようにしています。

②行動や思考を言語化する

こちらは、自分自身の消費行動、選択行動などの深堀りを行うという感じです。
ある商品を買った場合は、何に惹かれて買ったのか。
ある広告が目に止まった場合は、なぜ惹かれたのか、広告の意図は何か。
ある動画を見たときは、なぜその動画を見たのか。
何かきれいなものを見たときに、何がきれいなのか。美しいという形容詞ではなく、自分の言葉で再度定義する。

そうした理由や、感情を自分の言葉で言語化していくイメージです。

流行語を使うとは、世間に、言葉を預けることだ。言葉を預けるとは、自分の頭を、自分の魂を、世間に預けることだ。(中略)みなが見ていること、みなが感じていることを、見ないため、感じないためだ。感性のマイノリティーになることが、文章を書くことの本質だ。

初心者は、極端ですが、形容詞を全部やめてもいい。(中略)そのかわり、事実を書くんです。(中略)スリリングな映画を、「スリリングな映画」と書くな。スリリングと書かないで、読み手に映画のスリルを伝える。文章を書くとは、そういう仕事なんです。伏線の張り方、登場人物の視線、物陰の気配、音楽、カット割り・・・。そうした、映画の中にはたしかに存在する「事実」、それに気づくこと。

三行で撃つ<善く、生きる>ための文章塾

③無関係に思える分野を意識的に増やす

大きな変化、話題。そうしたものを感じたときに、上手くアイディアやクリエイティブに落とし込むには、人と異なる感じ方や視点をもつ必要があります。

その前提となるのが、幅広い知識です。

人は自分の視点から抜け出すことができません。自分の生きている時間軸や住んでいる場所の価値観に縛られてしまいます。
だからこそ、時間を相対化するには歴史の視点が必要で、地域や場所、国を相対化するには、日本以外の文化特性を知る必要があります。

またビジネスで活かそうと思うと、逆にビジネスではない、歴史や文化、宗教、哲学、文芸、芸術、生命科学、数学、物理学、あらゆる視点から見ることで、初めて相対化したり、新しいものを生み出せるのかもしれません。

短期的で即効性のあるもの。それはすでに使い古されていて誰もが見てきたありふれたものかもしれません。
だからこそ、一見無関係で、長期的で、すぐには役に立たないもの。古くて見過ごされているものにこそ、新しさがあるのかもしれません。

そうした知識が、人とは異なる視点を養い、意外性のあるアイディアを生む源泉になると感じています。

最後までお読みいただきありがとうございました。


この記事が参加している募集

#マーケティングの仕事

7,071件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?