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戦神の星から

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ケルト神話やケルト文化の話をします。
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#文学

ケルト神話翻訳してみた

私はかねてより、いわゆるケルト神話を原語であるゲール語から翻訳し、noteにて公開してきました。

私が翻訳したのは「マグ・トゥレドの戦い」(Cath Maige Tuired)、「ブリクリウの饗宴」(Fled Bricrend)、「エウェルへの求婚」(Tochmarc Emire) の三つのエピソードです。以下はそれぞれの翻訳をまとめたマガジンです。

ケルト神話といえば、クー・フリン(クー・フ

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『ムルセヴネのクーフーリン』翻訳同人誌監修しました

『ムルセヴネのクーフーリン』翻訳同人誌監修しました

皆さんお久しぶりです。

既にご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、グレゴリー夫人の "Cuchulain of Muirthemne" (1902) の翻訳同人誌が刊行されています。

翻訳をされているのはケイロカミオカ氏 (@Might_Overwhelm) 。シアトル住まいで占い師Vtuberというキャラの濃い方です。

"Cuchulain of Muirthemne" はグレゴリー夫

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ケルト神話における王の盤遊戯フィドヘル

彼は繰り返して言った 、「王に聞くがいい」と。「これらの技芸の全てを一人で持つ者が、王のもとにいるどうかを。そしてもしいるのなら、私はタラの王宮に入ることはない」
それから門番はヌァザ王の館へ行き、王に全てを語った。「王宮の門のところに来ている戦士」と彼は言った、「その名前はサウィルダーナッハといいます。そしてあなた様の人びとの役に立つ全ての技、それら全てを彼一人が持っており、ゆえに彼は全ての技芸

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アイルランド神話の装身具

アイルランド神話の装身具

ケルト人が極めて装飾好きであり、高い関心を払っていたことは、大陸側でも島嶼側でも同様で、彼らの美術はその非常に高いレベルのために有名です。今回は、そのなかでもアイルランド神話の中の装身具に注目してみました。ケルト人の美術については、『図説 ケルトの歴史―文化・美術・神話をよむ』(松村一男・鶴岡真弓)や『ケルトの美術と文明』(ロイド&ジェニファー・ラング著、鶴岡真弓訳)をご参照なさるとよいでしょう。

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ケルト神話の神々の王、ダグザについて

ケルト神話の神々、すなわちトゥアサ・デー・ダナン(ダーナ神族)の中で一番「偉い」神様は誰でしょう?

この問いに「これだ」とはっきり答えるのは難しいですが、最も有力な候補の一人は、ダグザ (Dagda) です。いくつもの話で重要な役割を果たす神ですが、一方で滑稽な面もあり、笑い者になることもあります。ダグザの性質を説明しながら、そこから示唆される神的性質をみていきましょう。

なお、以下に述べるダ

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フィン・マックールが率いた戦士団フィアンについて

これらの物語の近代の批判的読者は、すぐに次のように感じるだろう、この煌びやかな蜃気楼の中に、事実の裏付けを探すことは徒労であると。しかしその蜃気楼は、この種の文芸に対する極めて稀な才能を有する詩人たちと語り部たちによって作り上げられたものであるからして、かつてアイルランドとスコットランドのゲール人の想像の世界を深く支配していたのである。(Myths And Legends Of The Celti

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クー・フリンの必殺の槍「ゲイ・ボルグ」

引用1:
するとフェル・ディアドはクー・フリンが油断しているのを見てとり、象牙の柄の剣の一撃を見舞い、クー・フリンの胸に突き刺した。そしてクー・フリンの血が彼の腰帯の中に入り、浅瀬はこの戦士の血で赤くなった。フェル・ディアドが強烈な死の連撃を放ったため、彼はこの傷に耐えられなかった。彼はロイグにガイ・ボルガを要求した。ガイ・ボルガの性質は以下のようであった――それは川の流れに置かれ、足指の間から投

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ケルト学のためのオンラインデータベース "CODECS" を使えばケルト神話について調べるのが5000兆倍楽になる

ケルト学のためのオンラインデータベース "CODECS" を使えばケルト神話について調べるのが5000兆倍楽になる

1.CODECSって何だ今回は便利なサービスの紹介記事です。有料サービスに誘導して裏で報酬をもらうとかはしないのでご安心ください。

ご紹介するのは、"CODECS" というデータベースです(注:英語です)。

これは、ケルト学のためのオンラインデータベースで、一次、二次問わないケルト学関係の膨大な量の文献が集積されています。私も普段お世話になっています。とても便利なので、皆さんにも知ってもらいた

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ケルト神話の偉大なる王、コンホヴァル

昔々、エウィン・ウァハに素晴らしくかつ高名なる王、ファフトナ・ファサッハの息子コンホヴァルがいた。彼の治世下、アルスターの人びとには素晴らしいことがたくさん起こった。平和と平穏と喜びがあった。裁きと地の恵みと海の恵みがあった。支配と法と良き統治が長い間アルスターの人びとの上にあり、名誉と集会と財産とがエウィンの王の舘において大であった。(「エウェルへの求婚」、¶1、拙訳)

アイルランドの伝承、ア

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「再話」の性質について――アイルランドの伝承を例に

皆さんこんにちは。今回は「再話」について話したいと思います。「再話」というのは、「語り直し」のことで、ゲームでいうなら「リメイク」にあたる活動です。

物語というものは、文字や絵、映像などの何らかの媒体によって、必ず表現されます。そしてその表現というものは、時とともに風化して古びていくものです。しかし、後世に残すべき優れた作品は、何らかの形で新しい形で表現し直されます。神話などの伝承文学では、それ

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ケルト世界とアイルランドにおける犬について、そして英雄クー・フランについて――考古学と伝承、神話学の点から

ケルト世界とアイルランドにおける犬について、そして英雄クー・フランについて――考古学と伝承、神話学の点から

今年は戌年ですね! もう春なのに何言ってんだと思われるかもしれませんが、今度は本当に戌年です。なぜ新年最初のノートでこれを書かなかったのか、自分でもわかりません。

ケルト神話で犬といえば言わずもがな、あのお方です。彼に限らず、ケルト世界において犬は重要な動物です。今回はケルト世界の犬について、考古学、伝承、そして神話学の見地からも少々、お話ししたいと思います。

1.考古学から見るケルト世界の犬

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アイルランドにおける剣:先史時代と伝承

アイルランドにおける剣:先史時代と伝承

ケルト人といえば戦士。戦士といえば剣。そう、まさに剣は戦士の象徴といえるでしょう。

それは現代人が剣に感じるロマンにも通じる話です。ビデオゲームでは槍や斧より剣の方が強く、最上位に扱われます。また今でも日本人は刀を特別視しています。

それは遠く離れた過去の人々にも言えるようで、アイルランドでも刀剣の類は武器の中でも特別な扱いを受けてきました。

今回は、アイルランドにおける剣を、まずは考古学的

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