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#エッセイ

東京の寒さは不味い。

東京の寒さは不味い。

東京の寒さはうすら不味い。
開け放つ前の扉の隙を流れ込む外気に、清廉な冷たさがない。
肌理を透き抜けるような冷やかな誘いがない。
東京の寒さは澱んでいる。

東京の寒さは、微温い水に喩えられよう。
それは、口腔の粘着を漱いでくれるも、喉を抜ける時に体温を残していく。
よく冷えた水ならば、喉を澄まし、胃を澄まし、気持ちも澄まし、脳を醒ます。
微温水は、寧ろ、口に這っていた粘着を体内に薄く広げてる。

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冬

冬は最も生きていることを実感する季節である。

我々は秋に身を鮮やかに染め上げた木々が、その蓄えた艶治をそのままに末枯れ死にゆく様を生に見る。

冬は死に満ちている。
春に揚々と咲き誇るのを予感させて、生命は美しく甦る為に死ぬ。
こうして、死が冬の乾固の芸術を作り出す。

我々は、冬を充満する死を観察し、それによって我が生を実感するのではないだろうか。
この生命の動揺は、極めて繊細に、潜在的に我々

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夢幻の所在地

夢は手を伸ばした一寸先にある。
そんなようなことを誰か偉い人が言っていた。
文脈もあってなんとなく納得した記憶がある。

これは将来的に叶えたい理想、
所謂、将来の夢という意味合いで語られたのであろうが、
寝ている間に眺める夢についても、
体感があるようでいて、絶妙に自身を思い通りに動かせぬ感覚は、
僅かに手の届かぬ感じに喩えられよう。

話は変わって、

先日、街を往きながら音楽でも聴こうと思っ

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東京タワー 豊潤な空虚

東京タワー 豊潤な空虚

【日日是考日 2020/10/17 #005

先日、東京タワーに登った。
地上250mの夜景からは、殷賑と閑散とを表す光と闇が無数に繰り返される様子が俯瞰された。
点々と輝く光は、絵画のように調和して全体の光景を成している、というより、個々が我よ我よと群衆の中から抜きん出ようとしたがっているように見えた。
いかにもこの個人主義の時代を眺めている気分になって、
僕には無口なはずの光達はどうにも喧

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