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事業の未来は「カルチャーフィット」次第。人材にこだわる企業へ「複業採用」を勧める理由

スタートアップの事業成長の加速化でカギを握るのは、即戦力人材。そんな優秀な人材を迅速に巻き込める手段として「複業人材の採用」があります。今回はフレンズ株式会社 代表取締役CEOであり、シリアルアントレプレナーでもある安田 瑞希さんに、フレンズが複業採用を始めた背景や、組織・カルチャーマネジメントの重要性、また今後の事業戦略を伺いました。


事業成長のカギは「何をやるか」よりも「誰とどうやるか」

― フレンズの事業概要を教えてください。

現在(2024年1月)、フレンズはSaaSと受託開発の2つの事業を推進しています。SaaS事業では、スタートアップの事業や組織を支援する4つのプロダクトを開発しています。まず、採用ピッチ(応募者に向けた会社説明資料)やカルチャーデック(従業員が組織の文化や行動指針・方針を理解するためのツール)の自動作成ツール。次に、カルチャードリブンに最適化した目標達成マネジメントツール。3つ目は、組織が横の関係を構築しながら情報を共有し合うためのナレッジマネジメントツールです。

4つ目は「inTEAM(インチーム)」というSlackのようなコミュニケーションツールがあります。言語設定ができることが特徴で、メッセージを英語で受信しても自分の画面で「英語 → 日本語」と設定しておくと日本語の翻訳が出てくる仕組みになっています。一つのコミュニケーション上で、異文化・異言語のメンバーがお互いに自分の言語を使って発信し、自分の言語に翻訳されたメッセージを受信できます。このように、フレンズでは経営者が思い描く組織・カルチャーマネジメントを実現するためのプロダクトづくりに特化しています。現在は各プロダクトのベータ版を社内で試用しており、2024年3月から順番にリリースしていく予定です。

もう一つの受託開発事業では、お客様のプロダクト開発を支援しています。スタートアップや企業で立ち上がった新規事業ではエンジニアが不足しているところが多く、私たちがプロジェクトチームを立ち上げてディレクションし、フレンズのUXデザイナーやエンジニアが現場に入って業務を遂行しています。フレンズは異言語・異文化を持つ人材のマネジメントや、エンジニアリングチームの組成・マネジメントを得意とし、お客様をチームに巻き込んで積極的にコミュニケーションを取りながらプロダクトを作っています。

― フレンズにはどのような方がいらっしゃいますか?

日本本社には、ビジネスチームやデザインチームを牽引する日本人のメンバーや、中国やボリビア、メキシコ、ブラジルから来日した学生インターンがいます。海外拠点には、ベトナムとバングラデシュにリモートチームがあり、それぞれの開発チームで現地採用されたエンジニアやプロジェクトマネージャー、ディレクターが活躍しています。外国人人材が7割のフレンズでは、お互いに歩み寄りながら助け合うマインドが醸成されています。


フレンズ社ではさまざまな国籍を持つメンバーが活躍している

― さまざまな国籍を持つ方々とともに、積極的にコミュニケーションを取りながら信頼関係を深めているんですね。

フレンズでは「何をやるか」よりも「誰とどうやるか」にこだわり、カルチャーを軸にした生産性の高い組織を作っています。この考えに至った背景は、私がフレンズよりも前に立ち上げたスタートアップで、カルチャー・組織マネジメントでやり残したことがあるからです。

もともと私は農家の出身で、大学でも農学を専攻し、大学卒業後はアメリカに渡って農業関連企業に勤務しました。途中で大手監査法人での勤務や、外資系メディア日本版の立ち上げをはさんでいますが、30代で植物工場ベンチャー「ファームシップ」を創業するなど、まさに農業畑の人間でした。ファームシップでは「農業の未来を作る」というミッションを掲げて事業を拡大し、従業員数も順調に増えていきました。

一方、当時の私は組織や人事評価制度の重要性を頭では理解していたものの、事業を成長させる方を優先していました。結果、創業5年目でさまざまな問題が起こり始めたんです。チーム間に壁が生まれ、コミュニケーションが希薄化し、経営者に対する従業員の不満もたまっていきました。これらの課題を解決するには事業の成長を1回止めてカルチャーを整える必要がありましたが、投資家から資金支援を受けてプレッシャーのある中でそれをするのは至難の業でした。事業を成長させることはできましたが、組織ではやり残した感が否めませんでした。

そこで、フレンズで新たな組織を作る時には「何をやるか」よりも「誰とどうやるか」にたどり着きました。同じ文化、同じ国籍、似たような価値観を持つ人材を集めて走っていくのもいいですが、異文化に対する理解を深め、お互いに助け合いながら戦っていく方がイノベーションに繋がると考えています。

プロ人材が複業する理由「お金稼ぎよりもキャリアの幅を広げたい」

― フレンズが複業人材の採用を始めた経緯を教えてください。

3つあります。まず、カルチャーフィットを重視しているため。人材とは複業期間を設けて、お互いに相性を見極めています。事業の基礎が固まっていないスタートアップにとって、正社員採用には勇気が要ります。正社員として採用した後、その人材が組織やカルチャーにフィットしなかった時のダメージは大きいんです。

2つ目は、複業が社会的にオープンになってきているため。私が10年前にファームシップを起業した頃、人材採用では複業という選択肢がまだ一般的ではありませんでしたが、コロナを機に働き方や価値観が変わり、政府の後押しもあって複業をする人が増えました。3つ目は、速度を緩めることなく事業を拡大できるため。正社員採用では自分たちで求人を作成したり媒体に掲載したり手間がかかりますよね。

何よりも、スタートアップでは事業が成長またはピボットするにつれ、人材に求めるスキルも変わっていきます。採用時はスキルがフィットしても、3ヶ月後には一変する場合もあります。複業だとお互いに話し合って契約を終了するところ、正社員だとそういうわけにもいきません。その点からも複業採用はスタートアップに合っています。


フレンズ社ではグローバル展開を前提に、カルチャードリブンの組織づくりを実現している

― 複業人材を採用するメリットをお聞かせください。

現時点のフレンズだったら正社員として採用できないような優秀な方に参画していただけることです。どの業務を依頼すると彼らに最もフィットするのかはやってみないと分からないので、つどオープンに話し合いながら決めています。全部任せていいのか、私がサポートした方がいいのかといった進め方や関係性、期待値を細かく調整しています。

そもそもフレンズには人材に対して「複業」というくくりがなく、たまたま雇用形態が複業や業務委託、インターンシップだったという方が正しいですね。「このスキルを持っている方に入っていただいて、このプロジェクトを回そう」「リソース的にもう1人入っていただこう」をチーム組成の一環としてすり合わせ、ご参画いただいている場合が多いです。

― フレンズで活躍する複業人材の方には、どのような方がいらっしゃいますか?

UXデザイナーでは、1人はもともと上場したスタートアップでUXデザインを担っていましたが、ライフステージの変化に伴い、現在はフリーランスとして複数の企業で活動しています。もう1人はデジタルマーケティングの会社でUXデザインを手がけながら、フレンズでもさまざまなお客様のプロジェクトに関わっていただいています。「本業で個人向け、フレンズで法人向けのプロダクトに関われて経験値が上がった」と言われた時は嬉しかったですね。

また、フレンズではロジカル・シンキングを基盤に、限られた時間と情報から生産性の高いプロダクトを作ることに重きを置いていますが、「よくここまでアウトプットを出してくれるなあ」と感心するほど動いてくれる方もいます。本業が忙しいと聞いているのに毎週、着実に成果を上げてくれるんです。このプロ意識を見習いたいですよね。

― 「誰とどうやるか」を重視した結果、業務効率を上げて成果を出す方が集まっているんですね。

はい。フレンズでは、経営方針や組織文化を定義したステートメント「カルチャーブック」を作っていて、トップに掲げている「異文化 ✕ 相互貢献(異文化を持つ者同士がお互いから学び合い、貢献し合う)」へ共感していただくことを採用条件にしています。私たちは複業として働いてくれている皆さんから教わりたいし、新たに挑戦する機会を提供したい。

また、フレンズで活躍する複業人材は全員プロフェッショナルなので、本業でも安定的に成果を上げている方ばかり。つまり、複業を「お小遣い稼ぎ」ではなく、自分のキャリアの幅を広げるためだと捉えていますね。皆さんは本業で週40時間、複業で週10時間働いているので疲弊しないように、日頃からコミュニケーションを増やして仲を深めたり、週次定例会では本業でどんなことをしているのか、困ったことがないかなどを聞いたりしています。

優秀なプロ人材でも、カルチャーフィットがないと組織は崩壊する

― フレンズでは今後の事業戦略や複業採用をどのようにお考えですか?

フレンズが実現したいことは、サービスや事業を通じて「人と人が仲良くなることによって生産性が上がる」を証明することです。先述の4つのプロダクトと組織、人を紐づけ、関連するタスクとコミュニケーションの関係を分析し、コミュニケーションをマネジメントすることで組織の生産性が上がることを実証したいですね。加えて、アジアやアフリカを中心にグローバル展開も考えていて「言語の壁」はinTEAMによって乗り超えられると確信しています。

それに伴い、今後も、複業を人材採用の入口に置こうと計画しています。直近では、ビジネスサイドを中心としたプロジェクトマネージャー経験者やCOO、またカスタマーサクセスやセールス、マーケティングの各チームでメンバーを募集したいと考えています。

― 企業側としてご覧になって、複業人材に備わっていると良いスキルを教えてください。

第一歩を踏み出す勇気です。複業を重苦しく考えずに始めてみるのもいいと思います。自分のスキルを可視化できている人は、お金を稼ぐことよりも「この会社で楽しく複業ができそうか」「経営者やチームとの相性はどうか」といったカルチャーフィットを見るとチャンスが巡ってくるはずです。

反対に、自分のスキルが定まっていない人や、複業で何をしたいのかを悩んでいる人は、スタートアップや企業が求めるスキルを持っているのかを調べ、得意なことや強みを書き出して明確にするのはいかがでしょうか。「何でもやります」というアプローチがはまるスタートアップもありますが、せっかく複業を試すのであれば、好きなことにフォーカスし、短期間でアウトプットを出す経験を積んだ方がいいですよね。

― ゼネラリストとして事業に貢献したい方もいらっしゃると思いますが、「自分はこれだ」を決めた方がいいんですね。

はい。小さなスタートアップは何でもやってくれる人材がいたら嬉しいのでそのようなリクエストを出しがちですが、バックオフィスや総務以外でそれがフィットしたケースは少ないかもしれません。複業人材の方から「守備範囲は広いけれど、ここに一番バリューを出せる」を伝えることが重要です。

― 複業採用を検討しているスタートアップや企業の方へメッセージをお願いします。

複業人材の採用をやらない理由はないですね。以前は社会的に複業や兼業を禁止されていましたが、現在はほぼ撤廃されています。また、外部から入ってくる複業人材に費やすマネジメントコストが高そう、正社員の時間を奪うんじゃないかと不安かもしれませんが、優秀な人材に入っていただけたら問題ありません。複業人材でも正社員でも、採用時に人材のカルチャーフィットとスキルフィットの両方を注視すると、経営戦略の実現に向けた人材配置や人材活用が可能になると考えています。

さらに、スタートアップという会社の特性上、正社員や業務委託、インターン、派遣とさまざまな雇用形態の人材を上手く採用しているところもありますよね。創業期だからこそミッション・ビジョン・バリューを握り合える仲間と土台を作りたくて正社員採用に注力するスタートアップもありますが、正社員にこだわっていると多方面でリスクが生じやすい。伸びているスタートアップほど、複業で人材を採用し、最初の1ヶ月〜数ヶ月をオンボーディング期間に当てています。

― 複業期間を設けて「この人はこんなことができる」「チームに貢献をしてくれる」が分かってから、正社員として採用することがカギですね。

スキルフィットがあってもカルチャーフィットがない人材が組織にいると、周りのパフォーマンスが落ちていく危険性があるので、見極めは必須です。そのための有効手段が複業だと捉えています。スタートアップは常に忙しいし、複業できる優秀な人材も限られている。そんな中から、いかに自社に合う人材を発掘し、業務で連携していくのかが事業の成長を握るだろうと考えています。

― 安田さん、お話をお聞かせいただき、ありがとうございました。

(取材・文:佐野 桃木)

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「おためし複業」事務局: otameshi_fukugyou@atomica.jp