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◎短編 のようなものとか

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短編小説っぽいもの。のようなもの。
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記事一覧

18歳が弁解する話。

2023.03.01

そう言うのが正解だったんだろうし
そう言えば同情してもらえるってのは
わかるんです
わかってるんですよ
本気でわかってますよ?

わかるけどつまらない

いや言葉おかしいか
なんて言えばいいんだろう

『君が代』歌ったのは
"卒業式2"とか
"失われた3年間のせめてもの思い出作りのため"とかじゃなくて
本当ただのノリなんですよ

去年のワールドカップ盛り上がったの
思い出し

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2023.02 散文や詩のようなもの

2023.02 散文や詩のようなもの

(1) 2023.02.19 #散文 #のようなもの

 いい手紙だと思った。
 大人の手紙。
 それか、大人の手紙でいようとした何か。

 送り先である僕への気遣いだけが、ただ淡々と積み重ねられている。君の気持ちは見えないように隠されていて。
 その書き方自体が僕には、何かを僕に察されたがっているように見えて、半分弱、じれったい気持ちがした。二度は読み返したいと思えない。面倒くさい。
 でも半分

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雑記 2022.7.8

雑記 2022.7.8

塾講のバイトは
子供相手に仮面をかぶる悲しさ
1,080円の時給で雇われるぼくを子供たちは
センセイ、センセイって慕う

ぼくが子供のころに慕っていたセンセイは
今のぼくより
ずっと時給が安かったろうと想像した
令和四年

ありきたりな言い方すれば
ぼくの頭を押さえつける罪悪感
負け組のぼくが
未来ある子供たちの人生を左右出来る倒錯した心地よさと
むしろ何も背負いたくない面倒くささ
逃げ出したさ

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library

library

 図書館のカウンターには、何でも調べて答えてくれる司書の人がいる。司書は初老の女性だった。紺色のローブを纏っていた。「図書館なんてこの世に存在したって意味ないんですよ」とでも言いたげなニヒルな表情で、黙々と折り紙で仔馬を折っていた。

 「すみません。僕みたいな人生に、生き甲斐はありますか?」

 司書は折り紙の手を止めないまま、僕の人生を事細かに尋ねた。やがて奥に引っ込み、何冊かの本を持って戻っ

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気持ちのこもった感想文。

 私は彼を3年間、担任していた。
 感情表現に乏しい、ちょっと変わった子だった。
 いつか、彼に学年新聞に載せるちょっとした作文を頼んだことがある。職員室に彼を呼び、「体育祭の感想をね、400字くらいで良いんだけど」と伝えて原稿用紙を渡した。
 彼は「分かりました」と言うなりその場で私の机に屈み、書き始めた。
 「原稿用紙を持ち帰って、明日までに書いてくれればいいんだけど」と私が言うのも聞かず、彼

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視線。

 息子は私の前に座り込み、俯く私の顔をわざわざ下から覗き込んだ。口は半開きだった。「そんな締まりのない顔やめなさい」と何度繰り返しても分かってくれない子だった。私は視線を合わせない。息子は発達の遅れた言葉に代え、小さな頭を私の視界の中でふるふる、ふるふるとこれ見よがしに振ってから「くひっ」と笑うという仕草を示した。息子が彼なりに気を引こうとしていることには気付いていた。けれど私は、怯えていた。見抜

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幻想の旅人、というお話。

 幻想の旅人は「心」にのみ従って旅をする。
 傾いた陽。
 一面にゆれる黄金の麦と、遥かな紫の稜線。
 風と郷愁の感触。
 空は星の透けるほどの濃い藍色。
 硬く締まった雲は幾塊も幾塊も、風に乗って流れ去り、風に乗って流れ去り。
 地表を覆う麦の穂波も、流れる雲と息を合わせてよく揺れた。
 空と大地が寄り添うように、よく揺れた。
 (お待たせ致しました。ゆびICをかざしてください。)
 天から女性

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男の子のてのひらに地球。

男の子のてのひらに地球。

 昼間の電車。僕を含め4〜5人しか居ない車両。向かいのシートに、お父さんとお母さんに挟まれ4〜5歳くらいの男の子が座っている。男の子はビニールか何かで出来た軽そうな地球を抱えていた。要はGoogle Earthのような地球の衛星写真をビニールのボールにプリントしたものだ。
 「ねえおとうさん、ここは、人は住んでる?」
 男の子は真っ青に塗られた大西洋の真ん中を指差している。
 「そこは、どうだろう

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ネコである。

ネコである。

 屋根や庭木の雪が融け、雨でもないのにそこらじゅうぴちゃぴちゃ滴る音がするのが面白かった。ただ土や砂利の道を歩けば、地中で凍っていた水が融けてぐずぐずの泥になっている。

 みや〜〜〜あ!!!
 みや〜〜〜〜お!!!

 ネコである。
 アスファルトにへばりついてしまった氷の上を小股で歩いていた時、向かう先の遠くほうからネコの声が聞こえてきた。まったく野良も忙しい。ほんの1日温かくなったかと思えば

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紅い絵の話。

 何の共感も覚えなかった。

 ただこれほどまでキャンバスを紅く染めたがるのだから、きっと作者はキャンバスを紅く塗りつぶす作業がさぞかし好きだったのだろう、とは思った。
 油絵の具の匂いフェチかもしれない。
 でもそんなことを正直に口にしたら「芸術の冒涜」とか「分かってない」とか言われて波風が立ちそうだったので、「作者の切実な孤独感が伝わってくるね」などと適当なことを言った(キャンバスの傍らに『孤

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声の墓碑。

声の墓碑。

 目が覚める。
 見慣れない部屋。
 差し込む光は明るかった。
 無意識に昨夜の記憶を辿り、現在地を思い出す。
 それから身体を起こして、傍に置いていたリュックサックからアナログラジオを取り出した。リュックの中で空のペットボトルがぐしゃりと音を立てる。そういえば酷く喉が渇いている。
 「カチッ」とラジオの小さな電源を入れれば、遅れて

 ザーーーーッ……

 というノイズが聴こえた。
 ずっと使っ

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不老長寿の話。

 おお、おお。
 この地に人間がやって来たのは10年ぶりか。
 わかっている。
 君が何を求めて来たのか、私には分かっているぞ。
 何を隠そう私自身、それを求め10年前にこの地へ来たのだ。
 そして私はひとつの事実を授かった。
 いいや、勿体ぶらずに話そう。
 私は君にひとつの事実を伝えねばならぬ。

 君が追い求め続けたものは、ない。

 どこにも存在しない。

 ああ。
 そんなものは、ないん

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夕暮れ鉄塔の話。

夕暮れ鉄塔の話。

高圧電線の張られた鉄塔が列を成しているんです。
それは何処までも南へ、何処までも北へ続いて、この街を2つに分断しています。
地上には何の障害もありません。
地上には何の障壁もない、空中に目を向けなければ分からない境界線の、こちら側のことを"哀しいほう"、あちら側のことを"哀しくないほう"と僕は呼んでいます。
僕は、こちら側に暮らしていました。

"哀しい"と、"哀しくない"の境界線

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明るいこえを刻みたい。

明るいこえを刻みたい。

 誰もが行く末のわからない不安を抱えていた。

 しかしそのことはみんなが互いにわかっていた。

 無意識に残り時間を数えながらも、ゆるゆるとこの街にとどまり続ける僕らは、互いに互いを思いやり、励ましを言い合い、新しい住所を教えあい、一番の思い出を語り合った。

 それはその声を、みんなの耳に刻むためだろう。

 みんなの声を、その耳に刻みたいからだろう。

 指定された刻限が近付くと、死にそうに

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