osamu

表現者の端くれ

osamu

表現者の端くれ

マガジン

  • 三題噺小説版

    • 8本

    落語の三題噺の小説版を友人と遊びました。 【ルール】 ☆三つ単語のお題を出して小説を書く ☆私から一題、友人から一題、適当な本を目隠しパラパラ指差しで一題 ☆三題はちょい出しでもガッツリ主軸でも可 ☆ジャンルはフィクションのみ、ノンフィクションは不可。フィクションであるならミステリーでも純文学でも何でも問わず。

  • collars

    • 11本

    共同作品

記事一覧

三題噺小説版『走る』『屋上』『不安定』

落語の三題噺の小説版を友人と遊びました。 【ルール】 ☆三つ単語のお題を出して小説を書く ☆私から一題、友人から一題、適当な本を目隠しパラパラ指差しで一題 ☆三題は…

osamu
9か月前
2

三題噺小説版『珈琲』『歩く』『箱』

落語の三題噺の小説版を友人と遊びました。 【ルール】 ☆三つ単語のお題を出して小説を書く ☆私から一題、友人から一題、適当な本を目隠しパラパラ指差しで一題 ☆三題は…

osamu
10か月前
7

三題噺小説版『手紙』『紙飛行機』『子供』

落語の三題噺の小説版を友人と遊びました。 【ルール】 ☆三つ単語のお題を出して小説を書く ☆私から一題、友人から一題、適当な本を目隠しパラパラ指差しで一題 ☆三題は…

osamu
10か月前
2

三題噺小説版『雨』『白鯨』『薔薇』

落語の三題噺の小説版を友人と遊びました。 【ルール】 ☆三つ単語のお題を出して小説を書く ☆私から一題、友人から一題、適当な本を目隠しパラパラ指差しで一題 ☆三題…

osamu
10か月前
3

『お見舞い』

 あの日、曾祖母のお見舞いに行って、写真を撮った。まだ買ったばかりと言ってもいいほどの時間しか一緒にいなかったカメラを持って。あの頃はまだ、何故撮るのかとか、ど…

osamu
1年前
7

貝殻と姫様

 浜の砂は踏みしめるとキュッキュッと不思議な音がした。アキは首にかけたお守り袋を弄びながら浜辺を歩んでいた。海は青にほんの少し緑を混ぜたような色で透き通っている…

osamu
3年前
2

#140字小説 part2

Twitterに投稿した140字小説のまとめ投稿です。 『救援要請』 「しっかりしてるとか、大人びてるとか、そういうふうに言われるのが嫌だ。そうしないと生きられなくてなっ…

osamu
3年前
1

#140字小説 part1

Twitterに投稿していた140字小説のまとめ投稿です。 『竹の音』 風が木々を揺らして、梢が鳴る。その合間に竹の打ち合う高い音が聞こえてこないかと無意識に探してしまう…

osamu
3年前
6

ミモザの日

【看護記録】****年**月**日 病日2日目 記載者:〇〇 (翻訳機使用しての会話にて) 「僕は囚人なんかじゃなかったんだね。昨日の看護師に謝りたい」 彼の母国語…

osamu
3年前
7

いりひなす

夜の寮内は静かだった。昼間のように誰かが歩き回る音や誰かが料理している音、姦しく響くお喋りの声は聞こえない。だが、みんなが寝静まっているという静寂ではなかった。…

osamu
3年前
6

今日の空、虹。

osamu
3年前
5

heart of gold

青白い小さな光が瞬いている。顔の横に置いていた折り畳み式の携帯電話が着信を知らせている。着信音やバイブレーションは鳴らない。万が一にもそれで眠っている父親を起こ…

osamu
3年前
4
+2

秋桜

osamu
3年前
5

透明の歌

 そのクジラの声は”透明”でした。  クジラは歌を歌う生きものです。彼らは自分の感情を歌にして伝え合います。  母から子へ、兄から弟へ、友へ、愛する者へ。彼らは大…

osamu
3年前
12

私の死にがみ

 懐かしい少女が立っていた。ずっと会いたかった少女だった。二度と会えないと分かっていても、それでも願ってしまっていた。心の奥底で、ずっと。もう一度会いたいと。 …

osamu
3年前
5

逢魔時

osamu
3年前
2
三題噺小説版『走る』『屋上』『不安定』

三題噺小説版『走る』『屋上』『不安定』

落語の三題噺の小説版を友人と遊びました。
【ルール】
☆三つ単語のお題を出して小説を書く
☆私から一題、友人から一題、適当な本を目隠しパラパラ指差しで一題
☆三題はちょい出しでもガッツリ主軸でも可
☆ジャンルはフィクションのみ、ノンフィクションは不可。フィクションであるならミステリーでも純文学でも可。
☆制限時間:約一日

 古びた鍵は少し錆びついていて、鍵穴に差し込むのにも回すのにも工夫が必要だ

もっとみる
三題噺小説版『珈琲』『歩く』『箱』

三題噺小説版『珈琲』『歩く』『箱』

落語の三題噺の小説版を友人と遊びました。
【ルール】
☆三つ単語のお題を出して小説を書く
☆私から一題、友人から一題、適当な本を目隠しパラパラ指差しで一題
☆三題はちょい出しでもガッツリ主軸でも可
☆ジャンルはフィクションのみ、ノンフィクションは不可。フィクションであるならミステリーでも純文学でも可。
☆制限時間:一週間

 マナは自分の名前が嫌いだった。『愛』と書くからである。
 マナの母親はシ

もっとみる
三題噺小説版『手紙』『紙飛行機』『子供』

三題噺小説版『手紙』『紙飛行機』『子供』

落語の三題噺の小説版を友人と遊びました。
【ルール】
☆三つ単語のお題を出して小説を書く
☆私から一題、友人から一題、適当な本を目隠しパラパラ指差しで一題
☆三題はちょい出しでもガッツリ主軸でも可
☆ジャンルはフィクションのみ、ノンフィクションは不可。フィクションであるならミステリーでも純文学でも可。
☆制限時間6時間

 前島が郵便祭について覚えている一番古い記憶は、小学校にも上がる前の幼い時分

もっとみる
三題噺小説版『雨』『白鯨』『薔薇』

三題噺小説版『雨』『白鯨』『薔薇』

落語の三題噺の小説版を友人と遊びました。
【ルール】
☆三つ単語のお題を出して小説を書く
☆私から一題、友人から一題、適当な本を目隠しパラパラ指差しで一題
☆三題はちょい出しでもガッツリ主軸でも可
☆ジャンルはフィクションのみ、ノンフィクションは不可。フィクションであるならミステリーでも純文学でも可。
☆制限時間6時間

 雨の音がしている。雨音がうるさいくせに世界がいつもより静寂に感じる。矛盾

もっとみる
『お見舞い』

『お見舞い』

 あの日、曾祖母のお見舞いに行って、写真を撮った。まだ買ったばかりと言ってもいいほどの時間しか一緒にいなかったカメラを持って。あの頃はまだ、何故撮るのかとか、どう撮りたいのかとか、そういうことを気にせずにただなんとなくシャッターを切っていた。

 私の実家はその頃、祖父母と祖父の母である曾祖母の三人で暮らしていた。私は高校卒業と同時に家を出て、そのまま就職して一人暮らしをしている。私の母もその家に

もっとみる
貝殻と姫様

貝殻と姫様

 浜の砂は踏みしめるとキュッキュッと不思議な音がした。アキは首にかけたお守り袋を弄びながら浜辺を歩んでいた。海は青にほんの少し緑を混ぜたような色で透き通っている。砂浜も白く輝くようだ。アキがこの間まで住んでいたところも海岸が近くてこうして遊べる浜があったけれど、この浜の方がずっと綺麗だった。しかしアキは音を立てて砂の上を歩きながらずっと浮かない顔をしていた。
 先日この街に引っ越してきたばかりで、

もっとみる
#140字小説 part2

#140字小説 part2

Twitterに投稿した140字小説のまとめ投稿です。

『救援要請』

「しっかりしてるとか、大人びてるとか、そういうふうに言われるのが嫌だ。そうしないと生きられなくてなったのだから、なりたくてなったわけじゃない」
彼女は助けて欲しいときにひとりぼっちでいた子供時代を送ってきたのだろうか。
「僕は今、君に何をしてあげられる?」
彼女は泣き出した。

『再会』

久しぶりに会った君は、昔とは違う表

もっとみる
#140字小説 part1

#140字小説 part1

Twitterに投稿していた140字小説のまとめ投稿です。

『竹の音』

風が木々を揺らして、梢が鳴る。その合間に竹の打ち合う高い音が聞こえてこないかと無意識に探してしまう。林の中で裏手に竹林がある家に生まれたからそれが子守唄だったのだ。
雑踏の中、君が語ったそんな話を思い出している。人々の話す幾千の言葉の中に君の声を探しながら。

『写真撮影』

シャッターを押す。レンズ越しの風景が時間から切

もっとみる
ミモザの日

ミモザの日

【看護記録】****年**月**日 病日2日目 記載者:〇〇
(翻訳機使用しての会話にて)
「僕は囚人なんかじゃなかったんだね。昨日の看護師に謝りたい」
彼の母国語で挨拶すると驚いたような顔の後、嬉しそうに笑った。翻訳機を使用して発音が間違ってなかったか尋ねると「惜しい」とのこと。正しい発音を教えてもらう。少し肩の力が抜けて安心できた様子。会話の中で当看護師と患者が同じ歳である話題になる。検温や検

もっとみる
いりひなす

いりひなす

夜の寮内は静かだった。昼間のように誰かが歩き回る音や誰かが料理している音、姦しく響くお喋りの声は聞こえない。だが、みんなが寝静まっているという静寂ではなかった。耳を澄ますと、紙の擦る音や音量を落とした音楽、備え付けの古い椅子が小さく軋む音が漏れ聞こえて来る。
看護学校はこの時期、どの学年も忙しかった。一年生は学年末のテストが頻回にあり、二年生は臨床実習の期間、三年生は国家試験を間近に控えている。寮

もっとみる
heart of gold

heart of gold

青白い小さな光が瞬いている。顔の横に置いていた折り畳み式の携帯電話が着信を知らせている。着信音やバイブレーションは鳴らない。万が一にもそれで眠っている父親を起こそうものなら携帯電話は壊され、アオイ自身も殴られるだろうことは想像に難くなかった。だからいつも携帯電話は家ではマナーモードのままだった。
父親は隣の居間で眠っているようだった。テレビの音といびきが聞こえる。また酒を飲んでそのままテレビもつけ

もっとみる
透明の歌

透明の歌

 そのクジラの声は”透明”でした。
 クジラは歌を歌う生きものです。彼らは自分の感情を歌にして伝え合います。
 母から子へ、兄から弟へ、友へ、愛する者へ。彼らは大切な感情を美しい旋律にして表現しました。

 ある年に、一頭のクジラの子が生まれました。母クジラは子の誕生を喜んで、歌を歌いました。子守歌です。子クジラは、自分のために歌われる歌に喜び、嬉しそうな様子で声を出すしぐさをしましたが、母クジラ

もっとみる
私の死にがみ

私の死にがみ

 懐かしい少女が立っていた。ずっと会いたかった少女だった。二度と会えないと分かっていても、それでも願ってしまっていた。心の奥底で、ずっと。もう一度会いたいと。

 これまで何度も嗅いだ匂いだ。この匂いによかった思い出は、今まで一つもなかった。いつも、涙と、後悔と、悲しみを運んでくる。それでも、今回ばかりは少しだけ待ち望んでいたような気がする。悲しくて寂しい思いももちろんあるが、会えるような気がする

もっとみる