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#140字小説 part1

Twitterに投稿していた140字小説のまとめ投稿です。


『竹の音』

風が木々を揺らして、梢が鳴る。その合間に竹の打ち合う高い音が聞こえてこないかと無意識に探してしまう。林の中で裏手に竹林がある家に生まれたからそれが子守唄だったのだ。
雑踏の中、君が語ったそんな話を思い出している。人々の話す幾千の言葉の中に君の声を探しながら。


『写真撮影』

シャッターを押す。レンズ越しの風景が時間から切り離されて四角く残る。風景を見て感じた、懐かしい、美しい、寂しい、安堵、不安、会いたい。そんな感情も切り取って残すことができればいいのにと思う。
小説では、歌では、写真ほど鮮明に瞬間を表せない。でも写真では心を写せない。
伝えたいのに。


『消えないで』

懐かしさが嫌いだった。それを抱くのは過去に対してだけだから。
まだ過去にしたくない感情がある。痛くても、苦しくても、まだ抱きしめていたい。この苦悩を、柔らかくて不確かな甘やかさだけを残すようなその感情へと変異させないでくれ。
苦悩の中でしか出会えない心があるのだから。


『風の匂いと背中』

自分も、世界も、取り巻く何もかもを忘れて集中するとき、いつもそのイメージが浮かんでいた。風の匂いと遠くに見える誰かの後ろ姿。
あなたに出会ってから、上手くその背中をイメージできなくなった。ただ、思考の海に潜っていくとき、昔よりも強く風の気配を感じる。
今は見えない君は誰だったのか。


『死と旅』

死の淵の人をみるとき思うこと。「生きる」って何なのか。死んでいないから生きている?ならばもっと気楽でいいはず。こんなにも、痛くて、苦しくて、寂しい。それなのに生きなければならないと、私たちは本能で知っている。
逝ってしまった人を想う僕の隣で、君が微笑む。
「明日、どこに行こうか」


『祈りの日』

クリスマスに寂しくなるのは、この日が私の命日だからなのでしょう。笑顔の家族、恋人たち。飾りつけがされて賑やかな街。そんな日に、私は子供のわたしを殺した。あの日から私は子供ではなくなった。
無垢で無邪気なあの子が恋しくて、クリスマスの華々しさに、呼吸が苦しくなる。


『nothing』

旅に出たい。誰も私を知る人のいない街で、何をするでもなくただ空や海を眺めていたい。美しいものを見て、楽しいことをして、笑顔にならなくてもいい場所。
少しずつ、無意識に演じていた『私』に押しつぶされて息が出来なくなる。何者にもならなくていい場所で眠りたい。
これは、逃避の願望なのか。


『光に逸する』

子供の頃、夜中なのに賑やかな街を家族で歩いた。いつもと違う雰囲気に心が踊った。夜闇と焚火のもとで会う友達もいつもと違う気がする。そんな思い出。
今は、そんな明るい非日常に少し焦燥している。そうしなければいけない義務なんてないのに、笑わなくてはいけないような。
輝くものへの、恐怖。


『colorless』

彼女は、人に自分の考えや気持ちを伝えようとする人だった。
人は、彼女を「我が儘で自己中心的」と言った。
彼女は、自分の心を隠し、人の意見に反対しなくなった。
人は「他人の心がわかる、優しい人」と評した。
僕は、彼女が笑って同意する度に、彼女が無抵抗で殴られているような気分になる。


『あいこ』

例えば君が悲しかったり寂しかったり辛かったり、誰かに助けて欲しい気持ちのとき、実はその誰かも助けを欲している。じゃんけんの『あいこ』みたいになっているときがあるんじゃないかって思う。
傷ついているときに、助けてもらえなかったときは、そんな風に思いたい。
寄り添うくらいは出来るかも。




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