おろかし

塀のない刑務所(大井造船作業場)での生活を中心に 刑務所生活を事実に基づいたフィクショ…

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塀のない刑務所(大井造船作業場)での生活を中心に 刑務所生活を事実に基づいたフィクションで 書いています。 文章は全くの初心者ですので読みづらい所もあると思いますが お許し下さい。Twitterでは刑務所生活の中で書いた、 短歌を掲載しています。

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塀のない刑務所(大井造船作業場)①

 舎房の中は、昼間だというのに薄暗い。 流し台の前に立ち、手を洗いながら鉄格子の向こうに、何気に外に目をやると、五月の陽射しが中庭のアスファルトに照り返し、薄暗さに慣れ切った脳には眩しく、目を細めた。  しかし陽射しは、舎房の中までは届かない。  ここでは立ち上がり、外を眺めているだけで、刑務官に注意を受けるような場所である。  私は、注意されるのも面倒くさいと思い、小さくため息をつきながら、自分の小机の前に座った。  私が居住している舎房は、八畳一間に、私を含む七人の大の

    • 獄中短歌⑱……終わり

      幼子の父の記憶があるうちに    会いに行きたい許されるなら 流されず目先の事に囚われず    子らの未来のチカラになりたい 夕暮れの陽の短さに秋感じ    初めての冬を想い出してる 雑記帳今の思いを忘れずに    それは未来の私への手紙 何の為生きているかと我に問う    問い続けてはまた生きている 人生は一度しかないと愚か者    塀の中で気づく愚か者 何も無い後悔以外出来ぬから    短歌に気持ちを書こうと思う つつがなく今日終わる事ありがたく    就寝

      • 獄中短歌⑰

        いつの間に流され心乱してる    犯した罪と誓い忘れて 人の目を気にせず頑張る強い意志    ここで身につけ社会でいかす 刑務所(ここ)出たら何食べたいと  同囚の問い    妻の料理を想い言えずに いつだって一番賑やか同囚も    面会の後にはひと時静かに ラジオから流れる歌に時を超え    今頃気づく幸せの意味 絶望と希望がいつも交差して    わずかな一歩それでも一歩 ゆっくりと速くも時は過ぎるけど    大切なのはその過ごし方 あっさりと残暑も残さず引き

        • 獄中短歌⑯

          太陽も生まれ変わってほら今日も    新しい陽と新しい日と 人屋ではほんの小さな出来事が    大きな問題拘禁生活 待て進め犬の訓練よろしくに    号令なくして動けぬ我は 青空も刑庭に並ぶ花々も    私の目には白黒の世界 朝が来て目覚めるたびに悔やまれる    家族の幸せ壊した重罪 ゆっくりと通り過ぎゆくこの時は    埋められはせぬ空白の時間 さぁ今日も妻と息子に会うために    その日のためにガマンガマン 沈む陽は人傷つけた罪深き    こんな自分にもま

        • 固定された記事

        塀のない刑務所(大井造船作業場)①

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        • 塀のない刑務所
          17本

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          獄中短歌⑮

          あれもしたいこれもしたいと出来ぬ今    自由な外ではなんにもしないで ペラペラな薄っぺらな毎日も    重ねていけばいつかはきっと 手も足も五体満足健康で    働ける事日々感謝して 白黒やセピア色より色薄く    我は刑務所の景色の一部 耳鳴りと胸のつぶやき声だけが    響渡る人屋の静けさ 人屋では作り笑いで自己主張    譲ったようで譲っておらず つまらない会話でそれぞれ自己主張    深夜はいびきで自己主張 頭かくつもらんばかりにフケ落ちて    週二

          獄中短歌⑮

          獄中短歌⑭

          目を閉じて家族の想いを考える    我に厳しくもっと厳しく 刑務作業他人と比べて優越感    ここに来てまで愚かな我は トラブルをおこさぬように我を捨て    話を合わせて一日終える 毎日が今日から始まる償いと    犯した過ち常に思って 今日でもう今年最後の作業日も    関係ないと償いの日々 底冷えに震える神経通うなら    傷付けた人の痛みを感じろ さり気ないオヤジの一言嬉しくて    目頭熱く胸こみあげる 大晦日お正月も私には    償いの日の一日にすぎ

          獄中短歌⑭

          獄中短歌⑬

          入浴日妻はまだまだ仕事中    我のみ楽して申し訳なく 免業日ゆるんだ我に喝を入れ    姿勢を正しテレビに向かう 五メートル先までイチ、ニー、行進で    号令無ければ動けぬ我は 白い壁コンクリートの冷たさは    春のぬくもりさえも凍らす 家族らの為に生きろと神様が    私の人生残してくれた 刑庭の暖かそうな春陽射し    冷えた舎房をのぞき込むだけ これかれの笑顔はあなたにかかってる    姉の手紙が優しく励ます 息子らに会わす顔も資格もない    それ

          獄中短歌⑬

          獄中短歌⑫

          この瞬間二人の息子は何をして    何を思って過ごしているのか 子供の日高々と泳ぐこいのぼり    家族で見上げたあの空想う 春四月旅立ちの季節人屋にて    息子の成長想い描いて 同囚のトイレの音で目が覚めて    外は明るくもうすぐ起床 同囚を見送るたびに思うのは    ホントに我にもその日は来るのか この中で出来ない我慢は社会でも    出来ぬと思い毎日我慢 同囚よ何様なのかここは獄    目くじらたてて怒る事なし 息子らを想えば瞼の奥で会う    会えて

          獄中短歌⑫

          獄中短歌⑪

          十四年君と暮らした想い出は    一瞬にして壊した愚者は もう二度と素晴らしき友の輪に    戻る事は出来ぬ愚か者 降り続く雨音の中で眠れずに    止まない雨と明けない夜と 起こる事すべての事は自らの    罪の報いと思えば当然 昨年に買い替えたよねこいのぼり    おばぁちゃんちで泳いでいるかな 新聞の番組欄のヒーローもの    息子の変身ポーズが滲む 幼子の父の記憶があるうちに    会いに行きたい許されるなら 人生はやり直せると言うけれど    空白の時

          獄中短歌⑪

          獄中短歌⑩

          パソコンも携帯も無い仕事先    世界で一番遠い場所 お前には関係ないぞと言いたげに    陽射しが部屋の隅のみ照らす 夜も明けて朝陽も塀を照らすのに    私の一日まだ始まらぬ 獄にいて私は罪を背負っていない    家族に罪を背負わせている 息子らの願い事さえ知らなくて    どこが父だと思う七夕 台風も地震も全て他人事    私は塀に守られていて 息子らの時の流れは駆け足で    愚かな父の時は止まりて この空も流れる雲も吹く風も    全ては塀の中だけのも

          獄中短歌⑩

          獄中短歌⑨

          あみ持って蝶々追いかけ蝉とって    はしゃぐ息子といた夏休み 太陽は昇りきっているのにも    勝手に起きれぬ刑務所の朝 冬の獄ぽかぽか陽射し有難く    太陽のチカラ改めて知る 獄中で起こる出来事すべて罰    償いはここを出てから始まる あれこれとグダグダぶつぶつ思うより    傷つけた人の痛みを感じろ 誰にでも言いたくはない事がある    息子にとってのそれはこの父 吾の過ごす何年という年月は    足跡もなく空白の時間 夢の中妻と並んで町歩く    変

          獄中短歌⑨

          獄中短歌⑧

          過去かえる出来もせぬ事祈るより    今出来る事を精一杯 自らで未来は変わると本が言う    くじけるたびに一人つぶやく やる事があるという事感謝して    今日も一日作業に励む 息子らの想い想えば吾の想い    取るに足らない事ばかり 黒ずんだ格子光らせ陽が昇る    鐘待つ床の吾誓いと祈り 『その時』に後悔せぬよう精一杯    奇跡は起こると信じて生こう 出るまでに人間らしい人間に    なれるように今を生きよう 少しでも希望のカケラがあるのなら    全て

          獄中短歌⑧

          獄中短歌⑦

          瞳閉じればいつだって妻と子の    笑顔が浮かぶ胸熱くなる 薄暗い面会室にて姉が言う    現実なんだねと涙もふかずに 被害者の心の傷に後遺症    無くて欲しいと祈るばかり ベタベタと汗ばむ暑さ蚊も虫も    痒みもすべて自らのせい 人屋にて黄昏の空眺めつつ    息子らの背は伸びただろうな 被害者の心に傷跡つけたまま    私の罪は償いきれぬ 息子らを想い続ける涙にて    私は私を洗い続ける 自らの犯した罪が待っている    塀の外にて仁王立ちにて 鉄格

          獄中短歌⑦

          獄中短歌⑥

          ここからだ お前に人生ここからだ    自分にきつく きつく言い聞かす 消せはしない過去の自分が叫んでる    「あきらめるな」と今の自分に 線香もお花も水もあげられず    情けないだけの母の命日 ラジオから聴こえる話はhappyばかり    時にはチャンネル変えたくもなる 子供の日息子二人はいつだって    皆に愛される私の宝 父の事忘れないでと願いたい    虫がよすぎると分かっていても いつまでも泣いてられないと気丈にも    妻の強がり頼もしくもあり

          獄中短歌⑥

          獄中短歌⑤

          父さんから電話もないのと 聞かれたよ    息子が不憫と妻の涙よ いつか来るスタートラインその日のため    無駄にはしない今この瞬間(とき)を ヒーローにライダーになれ元気よく    祈るしかない日曜の朝 あせらない気持ちを閉じて目を閉じて    今日を明日につなげよう 息子らが父いなくても変わりなく    あの頃のまま健やかに育て 今日は明日 明日は明後日その次と    積み重ねてこそ願いは届く 帰りたい今はもうないあの家に    妻子の声が響くあの家に 出

          獄中短歌⑤

          獄中短歌④

          羨まず流されないで我は我    比べるはただ昨日の自分 夏の雲塀の向こうでスコールか    風が届ける夏の匂いを 父の事忘れる程に楽し事    息子らにあれと祈る なぜあんな恐ろしき事したのだろう    贖罪の気持ち忘れぬと誓う どれだけの贖罪の言葉並べても    私が逆でも許したくない 穏やかな心と我慢する事が    今出来る事唯一の事 過去はもう消せない事とこの歳で    情けないほど改めて知る いつの日か会えるその時君の背は    父の背越しているのだろう

          獄中短歌④