見出し画像

妖しき美女たちの饗宴、黄金の『クリムト展』

東京・上野の東京都美術館で開催中の『クリムト展 ウィーンと日本 1900』。オーストラリア・ウィーンを代表するグスタフ・クリムトの没後100年を記念した同展覧会は、鑑賞者を惑わす妖しき美女たちが勢揃いしていました。


女性の怪しき美しさを永遠に閉じ込めた、クリムトの「黄金様式」

『クリムト展 ウィーンと日本 1900』の目玉であり、パンフレットの表紙も飾る《ユディトⅠ》。クリムト作品の中でも人気の高い、「黄金様式」時代の代表作の1つです。

煌びやかで平面的な黄金の彩色に対し、そこに描かれる女性は写実的。そしてその不釣り合いさが、見るものを幻想的な世界に誘います。

主役となるユディトとは、旧約聖書外典の「ユディト記」に登場する未亡人・ユディトのことで、祖国を救うべく、敵将のホロフェルネスを誘惑して油断させてその首を切り落とした、なんとも恐ろしい女性です。

ドラマ性の高いストーリーのため、幾人もの画家や彫刻家が作品のテーマに取り上げましたが、クリムトの描いたユディトはズバ抜けて官能的です。

上半身を露わにし、顎を突き出し、頬を赤らめながらこちらを薄目で見下ろす、美しいユディト。

ホロフェルネスの生首をその手に持ち、恍惚とした表情のユディトからは、敵将の首を打ち取った喜びというよりも、敵を征服した快感のような、とても性的な匂いを感じます。

また、彼女が纏う濃艶さからは、敵将を討ち取っただけでは飽き足らず、鑑賞者をも手にかけてしまいそうな、妖しい空気まで伝わってくるよう。

画面の右下から漏れる生首に恐ろしさを感じながらも、未亡人の魅惑的な表情と、官能的なボディ、そして彼女を祝福するかのような黄金の彩色に、鑑賞者は屈服せざるを得ません。


多くの女性と関係を持った、イケイケオヤジのクリムトさん

《ユディトⅠ》に加えて、《女の三世代》や《ヌーダ・ヴェリタス(裸の真実)》、今回は来日していませんが、クリムトの「黄金様式」を代表する《接吻》や、黄金のドレスに身を包んだ《アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像 I》など、女性をテーマにした作品を多く残したグスタフ・クリムト。

《接吻》
ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館、ウィーン

クリムトが描いた女性作品の多さに比例するかのように、クリムトはプライベートで多くの女性と関係を持ち、彼の遺伝子を受け継ぐ子どもも多く産まれました。

女性の好みはあまり気にしなかったのか、クリムト作品には容姿も髪色も、体つきも異なる女性たちが多く登場します。

この特徴が集約されているのが、ベートーヴェンの交響曲第9番に着想を得た壁画の「敵意に満ちた力」。

どこからどう見てもゴリラな動物は、ギリシャ神話に登場する怪物のテュフォエウスで、そのテュフォエウスゴリラは周りに多くの女性を侍らせています。

揺蕩う黒髪が魅力的なゴルゴンの娘(うち1人は見るものを石にするメドゥーサ)や、痩せこけてギョロリとした瞳の女性、金髪や赤毛の女性に、妊婦のような女性など、様々な女性が描かれています。

ホームページの画像を通して見ると、金髪や赤毛の女性が魅力的なのですが、私が惹かれたのが妖しい女性たちです。

こちらを挑発するかのような眼差しは、一度目が合ってしまうと、その妖しい瞳から目を逸らすことは容易ではありません。

華やかな女性はさらに魅力的に、マイナスイメージの強い女性からは妖しい美しさを引き出す、グスタフ・クリムト。

多くの女性と関係を持ったクリムトだからこそ、一般的に美とされる一元的な見方ではなく、女性がもつ多面的な美を描けてたのではないでしょうか。

『クリムト展 ウィーンと日本 1900』では他にも様々な女性たちが待っているので、ぜひ上野でクリムトが描いた絵画美人に逢いに行ってみてください。

『クリムト展 ウィーンと日本 1900』
2019年4月23日(火)〜 7月10日(水)
※休室日アリ

東京都美術館
110-0007 東京都台東区上野公園8-36


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?