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お前らは現実とゲームの区別がつかない

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現実を舞台にポイントを競うゲームにハマっていく少年たち。「こんなことになるなら、友だちなんて作らなければよかった……」
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2016年4月の記事一覧

1-19. 目を合わせたまま、ユウシが微笑んだ。

 目を合わせたまま、ユウシが微笑んだ。

 そのあとは五時半きっかりにシイナ先生がやってきて、俺たちを部室から追い出した。初夏の太陽はまだ高く、西の空でさえ、少しも夕闇に染まっていない。学園から最寄り駅まで続くおよそ五〇〇メートルの間に店舗が散在する小さな商店街は、夕食の買い物を済ませる人や、帰宅する囲町学園の生徒で賑わっていた。

「で、誰がユウシに駄菓子おごるんだっけ?」

 俺はユウシと並ん

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1-18.イチ、おめでとう!

イチ、おめでとう!

トライアルミッションをクリアしたあなたは、今この瞬間に『アルティメット・ミッション』のプレイヤーとして登録されました。

のちほどゲームの入り口に、このゲームのルールをまとめたページへのリンクが現れます。

ルールをよく読み、『アルティメット・ミッション』に参加する準備を整えてください。

それでは再びあなたとゲームの中で会えることを楽しみにしています。

パペットマスターよ

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1-17.「なあ、ユウシ。イチのヤツ。マジで気づいてねえのか?」

「なあ、ユウシ。イチのヤツ。マジで気づいてねえのか?」

「集中すると、まわりが見えなくなるタイプじゃないかな。授業中もこんな感じだったし」

「このまま、部活の終わりまで気づかなければいいのだよ」

「見てください。イチくんのペンの回転が止まったのです!」

 いちいち、うるさいなあ!

 文句のひとつでも言ってやろうと思って、できるだけ鋭い目つきで後ろを振り返る。足を組んで、左手を口に添えるよ

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1-16. 予測と結果のパズルがきれいに組み上がった。

 予測と結果のパズルがきれいに組み上がった。俺はシャープペンシルを強くはじいて回す。モニタには番号のつけられた五つの文字が並んでいた。

『1 nowdrop』

『2 weedledum』

『3 lice』

『4 abbit』

『5 weedledee』

 一番目の情報で何回も読み直したからだろうか。考えることもなく答えが浮かんできた。

 みっつめの答えは「Alice」。切り落とされて

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1-15. 最終的に『9 4 20 52 38 10 35 P 5 3』という数字は、『Lewis / is / very / encounters / shall / Carroll’s / Oh / P / a / Rabbit』という単語に置き換えられた。

 最終的に『9 4 20 52 38 10 35 P 5 3』という数字は、『Lewis / is / very / encounters / shall / Carroll’s / Oh / P / a / Rabbit』という単語に置き換えられた。もちろん、文章としては意味不明。でも俺には確信があった。

 置き換えた単語の一文字目だけを抜き出して並べる。

『LivesCOPaR』……ライブ

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1-14. 文章の中にある『P』の文字が、なにかのかたちで数字と関係している。

 文章の中にある『P』の文字が、なにかのかたちで数字と関係している。

 もしくは『P』の文字を変換せずにそのまま使う。

 シャープペンシルを回すのを止めて、鞄からノートを取り出し、ウィキペディアの文章を書き写す。文章の中で最初に『P』が出てくるのは『He appears……』という出だしで始まる二文目。文章の頭から空白を除いて数えた八九文字目と九〇文字目が『P』だった。でも、鍵となる文字列『9

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1-13. ようするに一番と三番の謎を解かなければ、なにもわからないってことか。

 ようするに一番と三番の謎を解かなければ、なにもわからないってことか。

「なあ、ユウシ。アルミって、ネットで答えを調べたりしてもいいのか?」

「アルミには現実とゲームの境界線なんてないんだ。だから現実にあるものは、なにを使ってもかまわない。というか、もう自分はアルミの中にいると思っていい」

 背後でユウシが答えた。

 ゲームをダウンロードしたわけでも、どこかにユーザー登録したわけでもないの

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1-12. 気を取り直した俺はマウスを手に取ると、五分もしないうちにアルミの情報が書かれたページを探し出した。

 気を取り直した俺はマウスを手に取ると、五分もしないうちにアルミの情報が書かれたページを探し出した。リンクをクリックすると、すぐモニタに四つの情報が映し出される。

・“The White Rabbit is a fictional character—Queen of Hearts” 9 4 20 52 38 10 35 P 5 3

・(Finger+Finger)×Tap×Tap×Tap×T

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1-11.「アルミが始まった直後のことは知らないけれど、今はちゃんと情報がそろっているから大丈夫」

「アルミが始まった直後のことは知らないけれど、今はちゃんと情報がそろっているから大丈夫。もっとも、僕も初めはシイナ先生にいろいろと教えてもらったんだけどね」

 目にかかった前髪をユウシはかき上げる。

 それなら俺もシイナ先生に教えてもらえばいいじゃないか。たしかさっきまでイスに座って足を高く組む完璧な上から目線のポーズで、俺たちのやり取りを見ていたはず……。

「あれ? シイナ先生は?」

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1-10. いや、充分すごいと思います。ハッキング。遠隔操作。

 いや、充分すごいと思います。ハッキング。遠隔操作。ひとつまちがわなくても犯罪ですよ。

 こうして気がつくと、俺は四人の部員とひとりの教師に囲まれていた。

「ねえ、トシ。いつジュンペーのスマホに裏口を開けたんだい?」

「以前のミッションで、必要になったことがあったのだよ。で、そのままになっていたのだ」

「トシくん、あのあとに閉じたって言わなかったですか」

「いいか、ジュンペー。トシなんだ

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1-9.「勘弁してくれよ、ユウシ。そりゃ中坊までの話だ」

「勘弁してくれよ、ユウシ。そりゃ中坊までの話だ」

 ヤンキーネットワーク! この部、大丈夫なのか?

 俺は全力でこの居心地の悪い空間から逃げ出すタイミングを見計らった。でも、そんな計画は、次々と部室へやって来る部員によって打ち消されてしまう。

「あれ? みんな、どうしたのです?」

「ジュンペー、いいところに来たね。今ちょうど新入部員を紹介していたんだよ」

 ユウシの声に促されて、部室の入

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1-8.「新入部員を連れてきたよ」

「新入部員を連れてきたよ」

 対馬は部室の扉を開けてそう言うと俺を見た。新入部員というよりはドナドナの子牛だけどな。

「難波じゃないか。おまえ、パソコン部に入るのか? それはリベンジに好都合」

「し、シイナ先生?」

 学園で数少ない聞き覚えのある声につられて、俺は室内を見る。縦四列に配置されたパソコンはざっと五〇台。そんな広い教室の一角にひとりの男子生徒とシイナ先生が座っていた。

 対馬

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1-7.「しかたないな。ちょっといいかい?」

「しかたないな。ちょっといいかい?」

 対馬は窓から離れると、すっと俺に体を寄せて耳元でささやいた。

「ワンオアとかワルプルとかドルオタ初心者。ちな推しはみくりん、あっつん、ラブリーロットンっす♥」

 胃に強烈なボディブローを叩き込まれた気がした。マジか。

「四月九日、一日目のワンオアのチケット譲ってくれる人、いたらリプください。ナポリトゥーン」

「みくりん、マジ天使♥♥♥ ↑握手した手

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1-6.「いまどきパソコン部? お疲れさま」

「いまどきパソコン部? お疲れさま」

「それで、さっきの解答を見て思ったんだよ。きみはパソコン部に入部するべきだ」

 全身で会話を断ち切っているのに、対馬はまったく動じない。鉄の心臓かよ。

「アルティメット・ミッションのことは知っているよね?」

「クラスのみんながハマってるゲームだっけ。それしか知らない」

「アルミは現実をゲームの舞台にするんだ。『ルール』があるから詳しいことは説明できな

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