1-19. 目を合わせたまま、ユウシが微笑んだ。

 目を合わせたまま、ユウシが微笑んだ。

 そのあとは五時半きっかりにシイナ先生がやってきて、俺たちを部室から追い出した。初夏の太陽はまだ高く、西の空でさえ、少しも夕闇に染まっていない。学園から最寄り駅まで続くおよそ五〇〇メートルの間に店舗が散在する小さな商店街は、夕食の買い物を済ませる人や、帰宅する囲町学園の生徒で賑わっていた。

「で、誰がユウシに駄菓子おごるんだっけ?」

 俺はユウシと並んで歩きながら、後ろを歩くヒロムたちの話し声を聞いていた。

「予想したクリアタイムが、イチの出した結果からもっとも遠かったのはジュンペーなのだよ」

「し、しかたがないのです。いつものコンビニでいいのですよね?」

 ジュンペーの影がちょこまかとヒロムとトシの間を歩き回る。

「なお、二位だった自分には、三位だったヒロムがなにかをおごるべきだと思うのだよ」

「なに言ってんだ、トシ! 俺は二五分から三〇分。おまえは一五分から二〇分のワクに賭けたんだから、お互い五分ずつのハズレでイーブンだろうか!」

「これだから単細胞は困るのだよ。イチのクリアタイムは二一分三五秒。自分の予測からの誤差は一分三五秒。おまえの予測までは三分二五秒。その差は明白なのだよ」

「そんなルールにした覚えはねえぞ!」

 レールの上を進むみたいに直線的に歩くトシの影に、オーバーアクション気味のヒロムの影が絡む。話がヒートアップしてぶつかりそうになると、ジュンペーの影が間に割って入る。

 そのたびに三人の影は、重なったり離れたりしながら、俺の前を揺れ動いた。

 学校帰りにくだらない話で盛り上がる学生たち。俺も小学生の頃は、あんな感じだったかな。

「イチ、あとでメッセンジャーのID教えろよな!」

 俺は後ろにいるヒロムに向かって、はい、はい、と言った調子で右手を振る。

 まわりの人はそんな光景を見て、俺がみんなの輪の中に入っているように感じるだろうか。

 それとも―

「イチはどうしてひとりでいたんだい?」

 ユウシがぼそっとつぶやいた。オブラートに包むとか微塵も考えていない、むき出しの指摘。

「めんどくさいから」

「それじゃあ今日は面倒なことばかりだったわけだ。それで、今の感想は?」

 ユウシがちらっと俺を見た。

 ひとつため息をついて、俺は足元に揺れる三人の影を見る。

「べつに……悪くはないよ」

 ちょっと言いよどんだ俺に、ユウシは軽く首を振る。

「悪くはないけど良くもない……ってことだね」

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