1-14. 文章の中にある『P』の文字が、なにかのかたちで数字と関係している。

 文章の中にある『P』の文字が、なにかのかたちで数字と関係している。

 もしくは『P』の文字を変換せずにそのまま使う。

 シャープペンシルを回すのを止めて、鞄からノートを取り出し、ウィキペディアの文章を書き写す。文章の中で最初に『P』が出てくるのは『He appears……』という出だしで始まる二文目。文章の頭から空白を除いて数えた八九文字目と九〇文字目が『P』だった。でも、鍵となる文字列『9 4 20 52 38 10 35 P 5 3』に重なる気配はない。俺は、この解き方でのアプローチを一度、あきらめる。

 続けてノートの端に『□□□□□□□P□□』と書いてみた。『P』を変換しないとすれば、数字を英文字に置き換えて空欄を埋め、全部で一〇文字の単語を作ることになる。

『The White Rabbit is a fictional character in Lewis Carroll's book Alice’s Adventures in Wonderland.』に対して、鍵となる文字列は『9 4 20 52 38 10 35 P 5 3』。文章の頭から数字を英文字に置き換えていくと、九文字目は 『R』。四文字目は『W』。二〇文字目は『c』。五二文字目は『b』だ。

 やがてノートの上に『RWcbLarPhe』という言葉が浮かび上がる。意味不明。

「くそ。なんだよ、これ」

 俺はモニタの前から立ち上がって大きく伸びをする。もう俺への興味をなくしたのか、『キャシーの日記』と表紙に書かれた本をめくっていたユウシが目を上げた。

「問題を解くコツは意識して視点を切り替えることさ。意識しなければ、自分が森を見ているのか、木を見 ているのか、葉を見ているのか、わからなくなるからね」

 なんだ、そりゃ。

「ユウシの話と味覚は、ちょいちょい理解できねえところがあるからな。あんま気にするな」

「ヒロムの言うとおりなのだよ。そんなことよりも、あと五分ですべての問題を解くのだ」

 振り返ると、ホワイトボードの一五分のところにトシの名前が書かれていた。わかりやすいやつ。

 俺はモニタの前に戻ると、シャープペンシルを回しながら、もう一度、『The White Rabbit』から始まる文章を見た。意識して視点を切り替える……か。

 ユウシの言葉に影響されたつもりはないけれど、モニタに映るウィキペディアの文章を少し離れたところから眺めてみた。そのまま文字がぼやけるまで目を細めてみる。ひとつひとつの文字の意味は消えていき、単語ごとのかたまりがにじんだ黒いシミみたいになった。

 単語の―かたまり。

『1The 2White 3Rabbit 4is 5a 6fictional 7character 8in 9Lewis 10Carroll’s 11book 12Alice’s 13Adventures 14in 15Wonderland』

 ノートに書き写してあったウィキペディアの文章。その単語の区切りごとに数字を書き込んでいく。たまにシャープペンシルが指先で踊る。九番目の単語は『Lewis』、四番目の単語は『is』……

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