1-10. いや、充分すごいと思います。ハッキング。遠隔操作。
いや、充分すごいと思います。ハッキング。遠隔操作。ひとつまちがわなくても犯罪ですよ。
こうして気がつくと、俺は四人の部員とひとりの教師に囲まれていた。
「ねえ、トシ。いつジュンペーのスマホに裏口を開けたんだい?」
「以前のミッションで、必要になったことがあったのだよ。で、そのままになっていたのだ」
「トシくん、あのあとに閉じたって言わなかったですか」
「いいか、ジュンペー。トシなんだぞ。わざと開けておいたに決まってるだろうが」
「どうでもいいけど、顧問のわたしに迷惑がかかるようなことだけはするなよ」
人さらいにハッカーに短距離走者に元ヤンにゲーマー教師。
五人の声を遠くに聞きながら、俺は窓の外を見た。
初夏の抜けるような青空とは正反対に、俺の心はただただどんよりと曇っていた。
「なにそれ? 都市伝説?」
耐えきれずにつっこんでしまった。
幽霊部長と幽霊部員を除いたパソコン部の四人にあいさつをしてから一五分後。俺は、彼らが夢中になっているというスマホゲーム『アルティメット・ミッション』についての説明を受けていた。
ユウシの言葉を借りるならアルミは、現実世界で行われるゲームであり、いつ始まっていつ終わるのか誰も知らないゲームであり、味方と敵の区別がつかないゲームであり、そもそもゲームの始め方も秘密のゲームということになる。まさに、なにを言っているのかわからねーと思うが状態だ。
「アルミの一番の特徴は、徹底した秘密主義なんだ。だから、イチには自分の力で、ゲームの入り口と言われている『ラビットホール』を見つけてもらうことになる」
イスに座って両肘を太ももの上に置いた前屈みの姿勢でユウシは言った。
「その『ラビットホール』の場所を、ユウシが教えてくれればいいじゃないか?」
「教えてはいけない、というルールがあるのです。でも、イチくんなら絶対に見つけられるのですよ」
ジュンペーが目を輝かせて俺を見る。あの……俺の呼び名はイチで確定なんでしょうか?
「安心するのだよ、イチ。自分が白ウサギの足跡ぐらいは見せてやるのだ」とトシはキーボードを叩いた。
「心配すんなって。『ペナルティ』をくらわない範囲でイチを助けてやるからよ」とヒロムが歯を見せた。
どうやら呼び名はイチで確定したらしい。俺は弱々しくうなずいた。
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