1-11.「アルミが始まった直後のことは知らないけれど、今はちゃんと情報がそろっているから大丈夫」
「アルミが始まった直後のことは知らないけれど、今はちゃんと情報がそろっているから大丈夫。もっとも、僕も初めはシイナ先生にいろいろと教えてもらったんだけどね」
目にかかった前髪をユウシはかき上げる。
それなら俺もシイナ先生に教えてもらえばいいじゃないか。たしかさっきまでイスに座って足を高く組む完璧な上から目線のポーズで、俺たちのやり取りを見ていたはず……。
「あれ? シイナ先生は?」
「先生ならさっき『これで難波にささやかなリベンジができる』って、満足そうな顔で出ていったぜ」
ヒロムがあごで開いている部室の扉を示した。あのゲーマー教師!
「あきらめるのだよ、イチ」とトシは一枚のメモ用紙を差し出す。「おまえ用のアカウントを作ったから、そこらのPCからログインして我が部のウィキを読むといいのだ」
俺はトシからIDと仮パスワードが書かれたメモを受け取ると、近くにあったPCの電源を入れた。全員が俺の背後に回り込んでモニタをのぞき込む。やりにくいなあ。
背中に四人の視線を感じながらキーボードを叩いて、IDと仮パスワードを打ち込んだ。すぐにログイン画面が消えて、パソコン部のウィキが映し出される。見た目はプロが作ったみたいな完成度。でも、すぐに俺の耳が見た目とは場違いすぎる違和感を捉えた。
この曲は、でんぱ組.incの『愛があるから!!』じゃないか!
俺は本能的に耳を澄ました。動きの固まった俺を心配したトシが小刻みに俺の肩を叩く。
「操作方法など、わからないことがあれば言うのだよ」
「……え? あ、ああ。大丈夫だと思う。あのさ、このページってトシが作ったの?」
「むろん、そうなのだよ。まさか、バグでも見つけたのかね?」
「違う。違う。すごい完成度だから、ちょっと気になっただけだよ」
ジュンペーにしかけたイタズラのときの曲といい、ウィキの曲といい、もしかしてトシもドルオタか?
「ほう。さすがなのだよ。このウィキは日本でよく使われるPukiWikiではなく、ウィキペディアでも使われているMediaWikiを使っているのだ。やはり将来的なスケーラビリティや、画像などの独自保管を考えると最初の手間はかかるが、こちらのほうが賢明だと思うのだよ」
「そ、そうなんだ」「ところでイチは、どの言語が好きなのだね?」「言語? に、日本語?」「イチは冗談も得意なのだな。ちなみに自分は―」「トシ、いいかげんにしろ!」
ヒロムの怒鳴り声と鈍い音が聞こえた。とりあえずトシの講釈を止めてくれたらしい。
「トシくんは、自分が好きな話題になると話が長くなるのです。覚えておくといいのです」
ジュンペーが耳元でつぶやく。次からは気をつけます。
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