及川信

プロテスタントのキリスト教会の牧師です。2017年4月~日本基督教団山梨教会牧師。 以…

及川信

プロテスタントのキリスト教会の牧師です。2017年4月~日本基督教団山梨教会牧師。 以前から、週に一回は映画を観ることが習慣になっています。今後、「牧師の映画コラム」として、不定期に「人間の居場所」を巡って書いていこうと思います。

最近の記事

『リスペクト』『キャロル・オブ・ザ・ベル』

  両作品とも2021年に作られた作品です。前者はアメリカの歌手アレサ・フランクリンの伝記映画で、後者は当時ポーランド領だったウクライナが舞台の映画で、いずれも人間の「尊厳」(リスペクト)を求める映画です。 『リスペクト』   最近のテレビコマーシャルで、泣いている赤ん坊をあやす字幕が出、「あなたは男の声が聞こえましたか、女の声が聞こえましたか」というものがあります。心の内に植え付けられた差別はないのか、という問いかけがそこにはあります。   ご承知のように、国籍、人種、宗

    • 『ベイビーブローカー』2022年

       生まれてくれてありがとう 監督は『万引き家族』の是枝裕和氏で舞台も俳優も韓国人ということもあり、話題になった映画です。ストーリーは子どもを育てられない母親(シングルマザー)が、人目につかない形で、所謂「赤ちゃんポスト」に赤ん坊を入れることに始まります。 その赤ん坊を子どもが出来ない夫婦に売るために、二人の男が盗むのです。彼らの内の主犯格の男はクリーニングを生業としつつ、赤ん坊を売って利潤を得ていた人物です。彼にしてみれば、親が育てられない子を、子どもが欲しくても出来ない

      • 峠―最後の侍

        『峠-最後の侍』2022年 私は今65歳ですが、7年前に脳梗塞をしたからもあるでしょうけれど、自分のことを「化石化した牧師だ」としばしば言います。テレビのコマーシャルを見ても、何を宣伝しているのか、さっぱり分からないものが増えてきました。 この映画は幕末の戊申戦争が舞台です。その舞台の上で、それまで中心的役割を演じて来た 武士に焦点が当てられて行きます。大きく分ければ討幕派(薩摩藩・長州藩を中心としたグ ループ)と徳川幕府の譜代大名を中心とした佐幕派の戦いです。 今の言

        • 『流浪の月』

          『流浪の月』2022年 私たちは、誰にも知られたくない秘密を持っている場合があります。言うまでもなく、それはその人がその人らしく生きることに物凄く影響を与えるものです。 小学4年生の更紗(さらさ)は父が死に、母は新しい男性と暮らすことになり、叔母の家族と暮らすことになります。しかし、叔母たちが寝静まると、その家の中二の男子が彼女の部屋に来て、体をまさぐるのです。 更紗が「やめて」と言っても止めてくれませんし、厳重に口留めされてしまうのです。彼の立場に立てば、当然と言えば

        『リスペクト』『キャロル・オブ・ザ・ベル』

          『ザ・ユナイテッドステイツ vs ビリー・ホリデイ』

          最近、俄かにブラックライヴス・マター(どう翻訳するかが難しい)と叫ばれ、白人の黒人(有色人種への差別、「白色」だって色だと思いますが)が、まだまだ残っていることが露わにされた感じがします。   それと時を同じくするかのようにLGBTQや性的少数者への差別、また様々なハラスメントがクローズアップされています。日本も外国人差別やヘイトスピーチなどがあります。それぞれ、人間に優劣をつけ、劣等とされた者(少数者)を排斥することに行き着くような気がします。具体的には「居場所を無くす」こ

          『ザ・ユナイテッドステイツ vs ビリー・ホリデイ』

          『ゴッドファーザーⅠ,Ⅱ,Ⅲ』

          『ゴッドファーザーⅠ,Ⅱ,Ⅲ」 『ゴッドファーザーⅠ,Ⅱ,Ⅲ』は1972年にⅠが作られ、実に18年後にⅢが作られた映画です。それぞれ見ごたえ十分で、一回や二回見たところで、「分かった」とは言えないだろうことは書く前から明らかです。しかし、一つの視点から書きます。 個人的なことを言えば、私はこの映画を通してロバート・デニーロとアル・パチーノを知り、大ファンになりました。 ゴッドファーザーとは、キリスト教(特にカトリック)の幼児洗礼の時に幼子に名を付ける人のことです。そこか

          『ゴッドファーザーⅠ,Ⅱ,Ⅲ』

          『ドライヴ マイ カー』『クッドフェローズ』『ファイトクラブ』『そしてバトンは渡された』

          『ドライブ マイ カー』人は皆打算的でありつつ、自分でもどうすることも出来ない悲しみを抱えていたりするものです。見かけはどうであれ。 よく、「自分のことは自分が一番よく知っている」と言われます。「確かにその通りだ」とも思います。でも、「自分のことは自分も知らない」というのも事実ではないでしょうか。 ある夫婦がいます。嘗て幼い子どもを不慮の事故で亡くした夫婦です。彼らは、以後、子どもは作らないと決めています。しかし、夫婦の性の営みは継続している。その営みの後に、妻が見た夢を

          『ドライヴ マイ カー』『クッドフェローズ』『ファイトクラブ』『そしてバトンは渡された』

          『はるヲうるひと』『波浪の血LEVELⅡ』

          『ハルをうるひと』真っ当私たちは、誰でも「生きる意味」を探していると思います。自分が生きていることを実感したいし、肯定したいものです。しかし、それがなかなか出来ずに苦しむ。そういうことがあると思います。 架空の島で女郎屋を営む主人公は、女郎の一人が自分の父親の愛人になり、父親はその愛人と心中し、気が狂った母親も同じ部屋で自殺した、と聞かされているようです。 そして、腹違いの弟と妹は父の愛人が産んだ子で、母親を奪った女郎の子である。だから、彼らのことが憎くてたまらない。彼ら

          『はるヲうるひと』『波浪の血LEVELⅡ』

          『イージ―ライダー』―人間の居場所ー

          自由  『イージーライダー』は1960年代のアメリカ映画です。私が小学生だった頃です。その頃の私たちにとって、アメリカは所謂「進んだ国」でした。 各家庭に入り始めたテレビを通して、私たちはアメリカのホームドラマを見て富に憧れ、西部劇、戦争ものを見てアメリカに代表される西側文明が優れており、白人が優秀であり、黒人やインディアン(両方とも当時の呼び方)は愚かで狂暴であり、ドイツ人は敵のイメージを植え付けられて行ったのだと思います。 そして、J,F,ケネディ大統領暗殺、その弟R

          『イージ―ライダー』―人間の居場所ー

          『僕が飛びはねる理由』―人間の居場所ー

          マジョリティ マイノリティ自閉症に関する映画です。原作は『自閉症の僕が飛び跳ねる理由』というエッセイ集で、30か国で読まれているようです。それだけ、人々の関心があるということだと思います。  私たちは「障害」という便利な言葉を作り出して、社会のスタンダードから外れている事柄を「害」と感じるものです。 しかし、見えているものが違う、あるいは見ているものが違うということはよくあるものです。たとえば、私と伴侶は20センチの身長差があります。私が冷蔵庫の扉を開けて見えるものは、伴侶の

          『僕が飛びはねる理由』―人間の居場所ー

          『ファーザー』

          根源的不安私たち人間は、自分の根底に何があるかは知らないものです。そして、自分が強い時、無意識の内に戦っており、自己防衛をしているものです。自分が生きる意味を探したり、自分の居場所を確保していたりしているのだと思います。 「子宮願望」という言葉があります。人間は誰しも生まれる前は、母の子宮の中にいました。それは「誰しもが子宮に守られていた」と言っても良いかと思います。栄養はもちろんですが、多くの場合は、愛情も与えられていたのだと思います。子宮願望の裏には、そういう事実がある

          『ファーザー』

          『茜色に焼かれる』―人間の居場所ー

            生きる理由 誰しもが理不尽な出来事を前にして呆然とすることがある、と思います。また、「自分のことを一番知っているのは自分だ」と思いつつ、実は、「自分のことが自分は分かっていない」、そういうこともあると思います。 私たち人間は、整理をしたがると言うか、物事には何かの「意味があるはずだ」と思うものです。だから、説明が出来ないことを嫌うのだと思います。例えば、災害とか事故による突然死とかを嫌う。でも、そういうことは必ずあるし、何故かそういう目に遭ってしまう人がいます。 私

          『茜色に焼かれる』―人間の居場所ー

          『ハッピーバースデイ』『心の傷を癒すということ』『ティファニーで朝食を』―人間には居場所が必要ですー

          虐待 私たちは「自分は何のために生れてきたのか」とか、「自分が生きている意味はあるのか」と考えるものです。  先日、テレビで「親を捨ててもいいですか」という番組を観ました。様々な形で親から虐待を受けてきた子どもがいます。その子どもたちも大人になります。  そして、高齢になって寝たきりになったり、認知症になったりした親の面倒を見なければいけないという無言のプレッシャーを受けることがあります。  介護の次にくるのは葬儀ですけれど、丁重な葬儀などを出せない。まして、先祖の墓に

          『ハッピーバースデイ』『心の傷を癒すということ』『ティファニーで朝食を』―人間には居場所が必要ですー

          『異端の鳥』―人間には居場所が必要ですー

          最初に 舞台は東欧の何処かであり、映画で使われる言語は人工語であるエスペラント語だという。徹底的に映画の舞台が特定されないようになっている。しかし、時代はナチスによる「強収容所」の時代であることが、映画の途中で明らかになってくる。  そういうことからも、この映画は、特定の国や特定の時代を描こうとして作られた訳ではないことが分かる。この映画は、時空を越えた「人間」を描いている。「強制収容所」は、人間の内面にあるものを著しく刺激するものではあるが、それ以上のものではないと思う。

          『異端の鳥』―人間には居場所が必要ですー

          『ミナリ』『ノマドランド』『ステージマザー』-人間の居場所ー

            私たちは自分が生きている、あるいは生きていくことの理由を探していると思います。その理由が見つからない時、所在がなくなるものです。自分が何のために生きているのか分からなければ、自分が分からない、自分を受け止められないことになります。  自分を受け止められない人間は、他人を受け止めることなどできようはずもありません。結局、孤立するほかにないのです。表面的には愛想よく生きていたとしても、内実は孤立を深めている。そういうことが、よくあります。 『ミナリ』ミナリとは韓国語ではセ

          『ミナリ』『ノマドランド』『ステージマザー』-人間の居場所ー

          『パラサイトー半地下の生活ー』『ジョーカー』-人間の居場所ー

           いずれも話題になった映画であり、ある家族のまたある人の歩みを通して現代の世相も描いてもいると思います。それは格差であり、侮蔑であり、怒りや不安、不満でしょう。 『パラサイトー半地下の生活―』 ある貧乏な家族が半地下に住んでいる。彼らは失業中であり、仕事がない。よって非常に貧しく、惨めでもある生活をしている。  浪人中である長男が、有名大学に通う友人のピンチヒッターとして大金持ちの子女の家庭教師になることから物語が展開し始める。普段は関わりのない、富裕層と貧民層の出会いが

          『パラサイトー半地下の生活ー』『ジョーカー』-人間の居場所ー