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臀物語

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タイトルをしりとりで繋げる物語、です。 「しりものがたり」と読みます。 第1,第3,第5日曜日に更新予定です。 詳しくはプロフィールに固定してある「臀ペディア」をお読みください。
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2023年10月の記事一覧

午前中の業務が終われば、至福のひととき、お昼休みである。
と言っても、これからまだ労働に従事しなければならないことを考えれば、束の間の休息に過ぎないのだが、それでもこういう時間こそ大切にしなければならない。
石嶺は自作の弁当を手にすると、一人休憩室へと向かった。
以前までなら買ってきたもので済ませたり、外に食べに行くことも多かったが、ここ最近筋トレなどに精を出すようになってからは、手作り弁当を持参

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心拍数

「今日は先生に来ていただきました。」
「いや、先生なんてそんな。」
「いや、間違いなく先生だよ。」
「いやいや……」
「先生、お飲み物は何になさいますか。」
「いや、ここドリンクバーだから。」
「先生の分をお持ちしますよ。」
「ええ……」
「どうなさいますか。」
「いや、いつも通りでいいから。ね?」
 英一が珍しく声を張り上げた。
「わかったよ。」
「なんか途中から楽しくなっちゃってさ。」
「そう

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引っ越し

「実は折り入ってお話ししたいことがございまして。」
「どうしたんですか。」
 今日も今日とて打ち合わせをしようとカフェに来ていたのだが、雨相がそう切り出したのだった。
 しかし別にそれ自体は特段珍しいことではない。
 こうやって大風呂敷を広げてみては、意外と普通の話だったり、逆にそんな小さな話が次の話のヒントになることもあった。
 そのため高森は、雨相からこんな風に切り出されたときは、なるべく前の

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無防備

「今日うち来ないか?」
「待ってました。」
 陽介は快諾した。

ここ数日、勇樹はどうにも付き合いが悪かったが、陽介としてもその理由は分かっていたので、特段深く掘り下げることもしなかった。
 そんなことがあった上での久しぶりのお誘いだった。

「お邪魔しますー。」
「おお、まあ今日は誰もいないから気にせんでくれ。」
「はーい。」
「早く早く。」
 脱いだ靴を整えていた陽介を急かすように勇樹は言った

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ジム

「意外と二人で帰るって珍しいですよね。」
 真壁はふと思いついたように呟いた。
「ああ、そうか?」
「はい。それこそ普段なら清志くんがいたり、他の人がいたりするじゃないですか。」
「ああ、まあ確かにそうか。」
 石嶺少し納得したように答えた。
「たまにはいいっすよね。」
「そうだな。」
 真壁はそんな他愛もない話をしたところで詰まった。
 さっきも言ったように真壁と石嶺が二人きりになる機会はそれほ

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