心拍数

「今日は先生に来ていただきました。」
「いや、先生なんてそんな。」
「いや、間違いなく先生だよ。」
「いやいや……」
「先生、お飲み物は何になさいますか。」
「いや、ここドリンクバーだから。」
「先生の分をお持ちしますよ。」
「ええ……」
「どうなさいますか。」
「いや、いつも通りでいいから。ね?」
 英一が珍しく声を張り上げた。
「わかったよ。」
「なんか途中から楽しくなっちゃってさ。」
「そうだろうと思ったよ。」
 勇樹と陽介はいつもの口調に戻った。
「まあでも英一から話を聞きたいってのは本当だからな。」
「それは、わかったけど。」
「普通に喉乾いたな。」
「それもそうだね。」
「あ、じゃあとってくるよ。」
「いやいや。」
「いや、普通に。」
「ああ、じゃあコーラお願い。」
「オッケー。まっつんは?」
「ジンジャーエールで。」
「わかった。まっつん、ジンジャーエールの、先生がコーラね。」
「だから先生っていうのやめてってば。」
「ごめんごめん。」
 陽介は笑いながら謝った。

「英一、今日の放課後空いてるか。」
「彼女とデートだったりしない?」
「なに、その聞き方。普通に空いてるよ。」
「いや実は、真剣に、彼女との話を聞かせてほしいんだ。」
「彼女との話?」
「ほら、僕たち彼女できたことないでしょ。」
「ああ、うん。」
「でもやっぱり、彼女が欲しいわけよ。」
「わかる?」
「いや、もちろんわかるよ。」
「だから、彼女との出会いとか、どうやって彼女ができたか、とか、そういうのをご教授願いたいわけだ。」
「なるほどね。」
「お願いできない?」
「いや、わかった。僕も今の彼女としか付き合ったことないけど、頑張るよ。」
「「ありがとう!」」
 そう言われたのが今日の昼休みのことだった。

「そもそも彼女とはどこで知り合ったの?」
「知り合ったのは小学生の時だけど、そんときはいわゆる同級生くらいの感じ。」
「ああ、じゃあ別に幼馴染とかではないんだ。」
「全然。家も、学区内では遠いほうだったしね。」
「なるほどね。で?」
「ああ、中学生の時に図書委員会で一緒になって、それで好きな本とかの話で盛り上がったりして、みたいな。」
「おお、いいねえ。」
「それで、告白?」
「早いなあ。いやだから、一緒に帰ったりするうちに、付き合ってくれませんか、って。」
「シンプルに?」
「うん、中学生だったからね。」
「ドキドキした?心拍数やばかったでしょ?」
「まあ……でも、断られる感じではなかったから、そんなに。」
「ああ、そうなんだ。」
「まあ、これは人によるけどね。」
「付き合い始めてからは喧嘩もなく?」
「いやいや、あるある。」
「嘘。」
「なんか英一がけんかしてる姿って浮かばないなあ。」
「まあ学校も違うから、予定も合わなかったりして。」
「そうか、そういうこともあるのか。」
「まあでも障害なんて乗り越えてなんぼのものだからね。」
「なんか、カッコいいな。」
「ありがと。」
「ちょっと、もう少し聞かせてよ。」
「わかった、けど、一旦トイレ行かして。」
「おお。」
 席を立つ英一の背中を見て、どこか男らしさを感じる二人だった。

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