無防備

「今日うち来ないか?」
「待ってました。」
 陽介は快諾した。

ここ数日、勇樹はどうにも付き合いが悪かったが、陽介としてもその理由は分かっていたので、特段深く掘り下げることもしなかった。
 そんなことがあった上での久しぶりのお誘いだった。

「お邪魔しますー。」
「おお、まあ今日は誰もいないから気にせんでくれ。」
「はーい。」
「早く早く。」
 脱いだ靴を整えていた陽介を急かすように勇樹は言った。
「うん。」
 陽介をリビングに案内する勇樹。
 子供のころから何度も来たことがあったが、今日はやけに客人らしく振舞われた。
「じゃーん!」
 そこには前来た時と変わらない松野家のテレビと、そこに繋がれているのはゲームである。
「うん。」
「うん、って。」
「いやこれだけ見ても。」
 画面も何もついてない状態では何も判断できまい。
「ああ、そっか。ちょっと待ってな。」
 そういうと、勇樹はテレビの画面をつけ、ゲームの電源を入れた。
 画面が明るくなり表示されたものこそ、ここ最近、勇樹が忙しくしている要因となったものだった。
「じゃーん!」
「おお。これが言ってたやつ?」
「そう。『ザ・スレイヤー』。」
 それはここ最近テレビでよくCMも見かける今話題のゲームだった。
 陽介は詳しいことは知らなかったが、なんでも某人気ゲームを手掛けたスタッフたちによって作られたゲームらしく、一作目にもかかわらず、発売前からゲーム好き界隈では話題の作品だった。
「よくCMとかでも見るけど、これってどういうゲームなの?」
「うーん、わかりやすく言うと、モンスターとか魔法が存在する世界で、スレイヤーとして色んなミッションをクリアしていく感じだな。」
「へえ。その、スレイヤーって何?」
「日本語にすると、討伐者、みたいな。」
「ああ、なるほどね。」
「そうそう。これが面白いんだ。」
「好きだねえ。」
「まあな。一応、メインシナリオは終わった。」
「ええ、早くない?」
「まあこういうのってシナリオ終わってからが本番、みたいなとこあるからな。」
「そういうもんなんだ。」
「そうよ。ちょっとやってみるか?」
「え、できるかな。」
「簡単なところもあるから、な?」
「わかった。やらせて。」
 勇樹は笑顔でコントローラ―を渡してきた。

「だから敵、後ろだってば。」
「え、後ろ?なんでわかんの?」
「音するじゃん。」
「え、後ろってどうやって向くんだっけ。」
「ここ、ここ。」
「おお、あ、向けた。」
「ほら奥のあいつ、今飯食ってて無防備だから、攻めて攻めて。」
「おお、わかった。」
 敵に近づき、武器を振り回すキャラクター。
「ああ、まずい。左、左!」
「え、ひだ……」
 強烈な一撃を食らったのか、画面にはゲームオーバーの文字が。
「あああー。」
「ああ、負けちゃった。」
「難しい。」
「まあはじめはそういうもんだ。でもどうだ、面白かったろ。」
「うん、楽しかった。」
「どうだ、買うか?」
「僕は、見る専でいい。」
「そういうと思ったよ。」
「すごい敵と戦ってるとこ見せてよ。」
「わかった、見とけ。」
 勇樹は軽くストレッチをすると、コントローラーを手にした。

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