すぐ悲鳴をあげるギャップだらけの彼女が人間くさくて愛おしい。
洗濯機はドイツ語で「Waschmaschine」という、女性名詞だ。
なので私は我が家の洗濯機を「 彼女 」と呼んでいる。
彼女はかなりスレンダーなドラム式洗濯機だ。
ドラム式といえば幅広なイメージがあるが、彼女はそうじゃない。彼女はドラムの側面が開くからだ。
ハムスターの回し車を想像してほしい。
日本で一般的なドラム式洗濯機の蓋は、走るハムスターの姿が横から見える位置についていることが多いと思う。
しかし彼女の洗濯機の蓋は、ハムスターの背が見える位置についている。つまり、ハムスターが走る部分の一部を開けて、そこから洗濯物を出し入れする。回る部分を脇から見ない分、通常のドラム式洗濯機よりも横幅が狭いというわけだ。
しかし洗濯機の側面(回し車で言うなら、ハムスターが走る部分)には、脱水のときにかなりの遠心力がかかる。しかもかなりの速度で回転して脱水するのもあって、スレンダーな体からとんでもない音がする。
その回転に耐えられるようにするため洗濯機の蓋の中にあるドラムの蓋がかなり強固になっていて、開けるためのボタンもかなり固く、握力の弱い人にはかなり開けるのが難しいのでは、と思うレベルにはなっている。
スレンダーなのにドラム式だったり、側面に蓋がついているのに高速で脱水という無茶をしたり、人を選びすぎるドラムの蓋のロックだったり、彼女は色々なギャップをはらんでいる。ギャップは彼女の魅力ではあるのだけれど、正直かなりの欠点でもある。
そんなギャップのある彼女なので、ちょっと無理をさせるとすぐにエラーが出る。
彼女が叫ぶエラー番号は、決まって「EF0」。調べてみると、洗剤の量が間違っているかフィルターが汚れているか、排水がうまくできていないのが原因で出るエラーらしい。
でも、洗剤の分量は再三確認しているし、新品でフィルターが詰まっているわけでもないし、排水トラブルが起きていないことも、大家さんと確認している。
でも彼女は度々悲鳴をあげて止まる。
スウェットの上下をまとめて洗うと悲鳴。
ダブルベットのボックスシーツに何かを追加して洗うと悲鳴。
バスタオル2枚にシャツなど追加して洗うと悲鳴。
彼女は思ったよりもか弱い。
それに問題は排水というより、脱水のためにドラムを回転させているモーターの方に何か問題があるような気がする。
でも、どれも設定されている洗濯物の容量より遥かに少ないし、なんならドラムの容量の半分もいってないのに、すぐに悲鳴をあげて寝込んでしまうのだ。
そして一旦そうなると、彼女は数時間まともに動かなくなる。長いと1日動にもならない。
電源をコンセントから抜いて30分以上置いても、起動後すぐにエラーということだけは察知する。思ったよりも繊細だ。
でもそんな彼女を見ていると、ふと思うことがある。
人もこういうところあるよなって。
人は大抵、生きているとどこかで少し無理をしている。
人目を意識して見栄や虚勢を張ってしまったり、できないことをできると言ってしまったり。
体力が50しかないのに、期待に応えたくて体力を100使おうとしてしまったり。
その場は気合で乗り越えられても、あとで寝込んでしまって結局迷惑をかけてしまったり。
今日は久々によく晴れていたのに彼女は寝込んでしまって、結局ほとんど洗濯できないまま午後を迎えた。
まあそんな日もあるよねって思えるのは、なんだか彼女に人間くささを感じているからかもしれない。
寝込んでから6時間近く経って、彼女がまた頑張りたいと言ってくれている。また悲鳴をあげる気しかしないし、今から干して乾くのかもわからないけれど、せっかくなので任せてみようと思う。
彼女が再び悲鳴をあげないように、私もできる限りサポートするつもりだ。
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