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小池太郎

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なんで目くらのふりなんかしてやがんだ

なんで目くらのふりなんかしてやがんだ

イライラした表情。悲しげな顔。苦しげな目。

外に出ると、そんな光景が矢継ぎに現れては去る。それを見るたび、怒と哀が心のうちで交錯しては過ぎていく。

何も見たくない。視線は自然と、無慈悲なアスファルトへ移る。灰色に染まった路道だけを瞳に映して歩けば、余計な感情が吹き出ずに済む。

他者と話すときもそうだ。顔を見ながら話すと……言葉やしゃべり方はそうではないのに、表情で「怒っているのかな」と感じて

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つくる理由

「なぜ、創作するのか」という問いへの返答。

・自分の個性を表現したいから
・作品をヒットさせて稼ぎたいから
・誰かに喜んで欲しいから

3つとも、真っ当な理由だ。

では、自分はどれに当てはまるだろう。
と、いうことを今回は書いてみます。

・自分の個性を表現したいから

周囲と違う自分を表現する。
それに喜びを感じるかといえば……あまり感じない。
むしろ「周りと同じような存在」への憧れのほうが

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撮影3日目

撮影3日目

12月30日。一年の終わりがすぐそこに迫るなか、私は夜行バスで難波に到着した。

到着時刻は8時半。9時半には、撮影場所に着かなくてはならない。小走りで駅へ向かう途中、キャストから遅れる旨連絡があり、急遽、11時集合に変更した。

撮影まで余裕ができた。何しよう。

その時。主演のこんじゅりさんから、「夜行バスがいま着いたので、9時半集合には少し遅れる」という連絡が入った。私は、集合時間を11時に

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こんじゅりさんとの邂逅

こんじゅりさんとの邂逅

こんじゅりさんとの最初の出会いは、彼女のNote記事だった。

慌てて裁縫した心の傷を両手で抑えて、なんとか縫い跡を繋ごうとしている。彼女の奥に徐々に広がる漆赤が、文字のひとつひとつから見えるようだった。

私は、映画をつくることも、漫画を描くのも、こうして文章を描くのも、「昔の傷を思い返さないため」が理由だったりする。表現をしている間だけ、不幸な自分を忘れることができる。

小学生の頃、ひどいア

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カナ

いない毎日 ながい一日

ありえない かんがえられない

きみがいない そんなまいにち

ありえない って いま 気づいた

傷つけたよね そうだよね

それがわからなかった

自分が傷つく 1秒前に きみを傷つけて

どっちに傷を つけるかで

迷わず きみを選んだ

自分の傷が 怖くって

きみに やいばを向けた

いない毎日 ながい一日

ありえない かんがえられない

きみがいない そんな

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クラウドファンディング

このnoteでは、嘘偽りなく自分の心境を書こうと思っている。

なので、今回はいま私が一番葛藤している、もやついている、クラウドファンディングについて、正直な気持ちを記していきます。

本作は完全自主制作なので、スタッフが資金を出し合いつくる方式をとっている。しかし、当初予定していた額をはるかに超えている現状がある。

ラストのとあるシーンを撮るには、予算が足りない。そこで一案として現れたのが、ク

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撮影2日目

撮影2日目

12月19日。この日は康平役の近澤智さんのクランクイン。

キャストスタッフともに、近澤さんとは初顔合わせ。

近澤さんとの初コンタクトは、シネマプランナーズ経由でご応募いただいたことから始まった。端正な顔立ちの彼と、康平というダサキャラとの接点が掴めず、面談の際、丁重にお断りしよう、と考えていた。

しかし。面談の際に現れた、彼の「ダサい一面」、人間くさい側面が、康平の不器用で懸命な性格とリンク

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漂流都市

揺れている。

康平はゆっくりとまぶたを開いた。

揺れは徐々に激しさを増す。

康平はベットから飛び起きた。

棚やテレビが床にぶつかる。

康平はベットの下に入り、身を縮めた。

揺れと同時に、浮遊感も感じ始めたころ、少しずつ振動は収まり、やがて普段通りの静かな23時半になった。康平はベットを這い出ると、散乱した家具や漫画が視界を覆った。

玄関に向かい、使い古したナイキの靴に足をつっこみ、扉

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初めまして!小池です。

初めまして!小池です。

みなさん、初めまして!

本作の監督・脚本を務めます、小池太郎です。

現在、絶賛準備中の映画「ナーストゥザフューチャー」、今回は本作の成り立ち、キャストのみなさまの他己紹介、そして製作にあたっての意気込みを書いていきたいと思います!

💊成り立ち脚本を書いたのは今から5年前。

大学生だった私は、ある日、友人で看護学生の女性から、彼氏との関係について相談を受けました。

ラインを送っても既読無

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前日譚

前日譚

「ひえっ」

康平は見上げた空に毒づいた。

曇天のそれは、怒るように時折雷鳴を轟かせながら、大粒の雨を散らす。

傘が吹き飛ばぬよう、柄を握り締め、康平は自宅へ向かっていた。

冬の17時はすでに真っ暗で、この大嵐ゆえか、人通りも少ない。

じゃぶじゃぶの靴底を踏みしめ、角を曲がると、毎度おなじみ、だだっ広い登坂の登場だ。

アスファルトに打ち付ける雨音を背景に、我が家を目指して走り登る。

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撮影初日

撮影初日

翌日に、撮影1日目がやってくる。その不安と緊張が、私のまぶたが閉じるのを阻む。睡魔が近寄るたび、緊張というスポイトがそれを吸い取る。

午前五時。いまだ眠れぬ私は、就寝を諦め、家を出た。

寒波に肌をきりつかせながら、駅の改札にはいる。誰もいない、幽霊船のような電車内で、揺らめきながら過ぎ去る明朝の景色をみながら、ロケ地である北浜にたどり着いた。

改めて、動きを確認する。両手でハコをつくり

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演出プラン

演出プラン

11月15日、撮影初日。

天候にも恵まれ、取り残しは数シーン発生したものの、撮了カットはどれも満足のいくものだった。

演出プランというほど具体な策略ではないが、ひとつ重点があるとすれば、「キャラの表情を捉える」ことをテーマにしている。

綺麗な画や風景を目指すというよりは、キャストの演技を確実にカメラに納めることが大事。

演者が泣き笑うさまを、引きやぼかしで済ませるのではなく、レンズの中心に

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銀河鉄道の夜

銀河鉄道の夜

撮影初日が終わって二日後。

梅田の人混みを左右に抜けていたとき、右脚に振動を感じた。

ポケットからスマホを引き出すと、ラインの着電。スライドして、耳を傾ける。

「いま、つきました」

その声に、私は相槌を打ってから、南口へ向かった。

「お待たせしました」

青年がふらっと私に近寄る。

「お疲れ様です」私は彼にそういって、軽くお辞儀をした。

渡邉望さん。本作でカメラマンを務める男性だ。

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顔を合わせる。

11月某日。

京都駅。

電車を降りると、背後と左右を人が過ぎ、同時に私のほうへ人が流れてきた。彼らの間をくぐり、改札へ歩く。だだっ広い中央改札を抜けると、彼方まで伸びるホームの地平と、そこを無尽に歩く人だかりたち。

彼らが行き交う隙間から、村上友梨さんの姿が見えた。

早足で近づくと、その傍で、黄色い髪が上下に揺れた。マスク姿のその女性は、稲荷ここさん。

その日、私は始めてオフラインで稲荷

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