西田純

元国連専門機関職員、環境戦略コンサルタント。SDGsを軸に様々な情報発信を行っている。…

西田純

元国連専門機関職員、環境戦略コンサルタント。SDGsを軸に様々な情報発信を行っている。サーキュラーエコノミーの事例を数多く研究している。サーキュラーエコノミー・広域マルチバリュー研究会会員、サーキュラーエコノミージャパン個人会員

最近の記事

ビックリさせられたこと

 つい先日のこと、依頼を受けて環境分野の由緒正しい学会で講演する機会をいただいた。単なる在野のコンサルタントに何を期待されたのかはよくわからないが、環境対策に関する事例の報告を中心に30分ほど話をした。  私のほかにもう一人、現役の偉い先生(A先生とする)が政策についてのお話をされた。A先生は、政府の審議会だとか公的な立場でたくさん仕事をされている。私より10歳は上だと思うのだが、とても精力的な話しぶりであった。  時節柄、オンラインだったのは仕方ない。いささか気になった

    • オリンピックについて、「何のために」を問う

        研究会などの集まりに参加していて、私は良く「それは何のためなのか?」という問いを発する。情報発信は何のためにするのか、議論は何のためになるのか、会員増の働きかけは何のために行うのか、などなど。  限られた時間で限られたタスクのための議論の場だったりすると、明らかに「メンドクサイ」という空気が場を覆う。会合によっては、爺さんは黙ってろよ、的な棘すら感じることさえあったりする。  こっちは時間がないんだから、要は決めることさえ決めりゃ良いんだよ。空気に任せた有無を言わさな

      • 世界のことを考えられない日本

        石炭火力を巡るネットニュースとその関係で目にするコメントに、この30年間ずっと繰り返してきたため息をまた繰り返させられる羽目に陥っている。 石炭火力を巡る欧州(特にイギリス)の報道に関する反応で、不合理にも日本が非難されている、的なものはおおよそ以下の3つに分類できる。 1.「日本の高効率発電は環境に良いのだから、もっと情報発信を積極的にすべきだ。」 2.「日本が途上国向けの石炭火力発電から手を引けば、中国がその間隙を埋めるに決まっている。」 3.「石炭火力発電への批

        • イロモノはイロモノらしく

           世の中にはいろんな論者がいる。識者とされる方々にも千差万別あって、誰もが認める賢者から、ワイドショーのコメンテーターすら務まらずにいつの間にか消えてゆく有名人モドキまでさまざまだ。  ネット社会では、それこそ色物と見られる手合いも少なくない。そういう輩が一見まともな本を出し、それらしきメディアでコラムなんかを書いていたりする。一昔前に比べて、読む方の目利き力が求められる時代になったってことかもしれない。  それにしてもDIAMOND ONLINEに載った「プラごみ規制「

        ビックリさせられたこと

          普通の人に説明しておくことの意味とは

           コロナ禍の影響もあって瞬く間に広がったオンライン会議システムを通じて、まだ多くはないのですが、最近ごく普通の人たちがSDGsやサーキュラーエコノミーに興味を持って開催する勉強会などに参加する機会がぽつぽつと出てきました。  オンラインで募集された参加者は、学生さんから社会人まで、バックグラウンドもさまざまなら年齢層もばらついているのですが、テーマがテーマだけにどうしても知見に限りがあり、誰かが書籍や他のセミナーから仕入れてきたと思しき知識を共有する形で進められる議論も、業

          普通の人に説明しておくことの意味とは

          「あと6割」が暗示するもの

           菅首相が、2050年までにカーボンニュートラルを宣言したというだけで、経済界の一部は異様な熱気を見せている。技術開発に分厚い新規投資がなされることが見えてきたせいもあってか、コロナ禍にもかかわらず、株式市場ではこのところずっと強気の相場が続いている。  他方で、科学者や気象関係者が着々と進む温暖化の進行を報告していることはあまり触れられない。そもそも2050年のカーボンニュートラルとは、産業革命前に比べて1.5℃という「野心的な」目標値のための前提ではなく、あくまでパリ協

          「あと6割」が暗示するもの

          環境問題と近視眼

           環境問題に携わっていると、極端に近視眼的な取り組みが意外と本気で行われていて、時折ビックリさせられることがある。たとえば海洋分解性プラスチック、なんていうテーマが真剣に研究されていたりする。https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101348.html  研究開発だけなら、そこから得られる技術的知見もあると思うので、一概に否定されるものではないかもしれないが、「社会実装」というコトバがついて回ると、これはもう相当怪しい話になる。そもそも

          環境問題と近視眼

          新聞を見ると

           たぶん、この話題については日本経済新聞を取り上げるのが最も分かりやすいのだろうと思うのだが、他の新聞も似たり寄ったりかもしれない。菅新政権になってからというもの、環境問題に関する記事の数がぐっと増えた。  普段、環境関連の報道についてクリップしている日経の記事を見ても、10月26日の所信表明演説以来11月末までの1か月間で50本ほどを切り抜いている。所信表明前の1か月は20本もなかったことを合わせて考えると、この時期明らかに新聞報道が増えている。カーボンニュートラル宣言

          新聞を見ると

          SDGsの難しさ

           意外に思われるかもしれないが、環境ビジネスのオーナー社長と話していると、SDGsに対してガードの堅い人が普通にいることに気づかされる。よく言えば慎重、あるいは熟考途上にある人は少なくないし、中には懐疑的なスタンスを取る人もいたりする。  業界の外にいる人から見れば、環境の仕事をしているのだから、SDGsへの意識も高いはず、菅首相もカーボンニュートラルとか言ってるし、世の中の意識が変わりつつある状況は、ビジネスにも追い風なんだろう、という見方をされることが少なくない。  

          SDGsの難しさ

          矛盾

           最近気づいた、というわけでは必ずしもないのだが、持続可能性を巡る取組みが難しいのは、そもそもの部分が専門的であることに加えて、様々なところに内包された矛盾点が、見えたり見えなくなったりすることにも起因するのではないかと思っている。このところ、特にその矛盾について考えさせられることが多くなったと感じている。  そもそもSDGsからして、その矛盾点への回答を持ち合わせていない。具体的な話をしよう。昨年の10月に横浜で開催されたTICAD VIIで「SDGsのゴール1(貧困)を

          「持続可能性」というコトバが意味するもの

           「ニシダ先生、『持続可能性』って、いったい何ですか?」以前参加したとある勉強会で、こんな真正面からの質問をいただいた。いわゆる「真ん中まっすぐ」の質問で、コンサルタントとしてはこれにどう答えるかで真価が問われるのだ。確かにSDGsやサーキュラーエコノミーをお伝えするとき、私は決まって「持続可能性のために」と言う説明をする。SDGsに関心を持ってくれている客層ならそれで良い話だが、半面で世の中には、まだSDGsを知らない人が半分くらい残っていたりする。で、その時の私に明快な答

          「持続可能性」というコトバが意味するもの

          ビジネスチャンスはすぐそこに

           菅首相の「2050年温暖化ガス排出実質ゼロ宣言」は、環境ビジネス業界に激震をもたらしているようだ。関連する書籍は売れ、問い合わせの数も増えて、セミナーやワークショップも花盛り状態になっている。菅首相様様状態、と言えるかもしれない。  考えてみれば京都議定書の時だって、物事がほんとうにゴール主導で決められたことはなかったように思う。まずは実現可能性の堅いところをあたり、次に政策的にもアピールするような落としどころが探られる。京都国際会議場を包んだ熱は空前のものだったけれど、

          ビジネスチャンスはすぐそこに

          ようやっとのことで

           有名なジョークに、沈没しそうな客船の乗客に船長が非難を促す、というのがある。 アメリカ人には「飛び込めば、ヒーローになれますよ。」フランス人には「たくさんの女性からもてますよ。」ドイツ人には「飛び込むのがルールになっています。」そして日本人には「他もみんな飛び込んでますよ。」  日本人の特性を上手くとらえたジョークだ。かつて国連で仕事をしていたときも、日本人であることからそんな冷やかしを受けたこともあったっけ。  そんな日本がようやっとのことで、2050年のCO2排出ネ

          ようやっとのことで

          経済が伸びない世の中で

           世界の人口ピラミッドを眺めていて、ごく最近になって大きな変化の予兆が現れていることに気が付いた。アジアは言うまでもないが、人口爆発が言われているアフリカでも、実は新生児の数が頭打ちになる傾向が出始めていて、長期で見れば全体的に世界の人口が増え止まりつつあるのだ。 https://www.populationpyramid.net/ja/%E4%B8%96%E7%95%8C/2020/  人口動態は、当たらないと言われる未来予想の中で唯一かなり精度の高い予測が可能な分野だ

          経済が伸びない世の中で

          注目すべきキーワード「イネーブリング」とは(CEマトリックスのご紹介)

           最近、この言葉をよく見かけるようになった。もともと環境問題に関する途上国支援の世界では長いこと使われて来た概念だが、「できるようにする」と言う意味だ。主に知識やスキルが足りずに何かの仕事ができない場合、それを補うことによってできるようにしてあげること、と言うと判りやすいだろうか。たとえば、とある後発途上国が有害化学物質の取り扱いに関する法規制をまだ持っていないと仮定しよう。仮にそれが国際条約で特別な取り扱いを求められるような展開になった場合、先進国や国連の技術協力によってそ

          注目すべきキーワード「イネーブリング」とは(CEマトリックスのご紹介)

          CO2の憂鬱

           以前にもどこかで書いたかもしれないが、温室効果ガスにはいくつかの種類がある。よく言われるCO2(二酸化炭素)は現在のところ大気濃度が400ppmを少し超えた程度だが、少しずつ確実に増える傾向にある。ここでいう温室効果とは、太陽光が降り注ぐと、照射された物質が電子レンジ加熱のように温められたとき、その熱が大気成分のせいでより長い時間空気中に留まることを言う。CO2以外にも、メタンやいくつかのフロン、そしてあまり知られていないが水蒸気も立派な温室効果を発揮する。  ではなぜC

          CO2の憂鬱