CO2の憂鬱

 以前にもどこかで書いたかもしれないが、温室効果ガスにはいくつかの種類がある。よく言われるCO2(二酸化炭素)は現在のところ大気濃度が400ppmを少し超えた程度だが、少しずつ確実に増える傾向にある。ここでいう温室効果とは、太陽光が降り注ぐと、照射された物質が電子レンジ加熱のように温められたとき、その熱が大気成分のせいでより長い時間空気中に留まることを言う。CO2以外にも、メタンやいくつかのフロン、そしてあまり知られていないが水蒸気も立派な温室効果を発揮する。

 ではなぜCO2ばかりが騒がれるのか?その理由は想定される滞留時間にある。水蒸気は温度や湿度の関係で長い時間大気中に留まっていることができない。CO2の25倍もの温室効果があると言われるメタンガスも同様に、空気よりも軽いせいもあって、大気中に滞在する期間はおよそ12年と言われている。

 それに比べるとCO2は、空気より重い性質が災いしてか、大気中に存在する期間が極端に長いのだ。NASAの情報だと300年~1000年くらいは大気中に存在するのではないかと言われている。https://climate.nasa.gov/news/2915/the-atmosphere-getting-a-handle-on-carbon-dioxide/

 1950年くらいから劇的に増え始めたCO2だが、仮に自然に任せると消失まで300年かかるとすれば、漸減しながらも単純に考えて2250年くらいまでは大気中に滞留する、という結論が導かれる(むろん、300年経てばすぐに消えてなくなる、というわけではないが、説明を簡単にするため)。もし今、ただちにCO2排出を全廃したとしても、理論的には来年なくなるCO2は300年前のもの、すなわち1721年に排出された分、という想定になるのだ。

 1721年は享保6年だが、その当時排出されたCO2の量と、今日私たちが排出するそれを比べてみて、享保6年の方が多かった、と考えるひとはたぶんいない。だとすると、その差分だけ大気中のCO2は確実に増えてゆく。

 むろん、こんな単純な話ではないだろうが、この話に救いがないのは「たとえどれだけ削減努力を続けたとしても、来年以降確実に、大気中のCO2は減ることなく増えてゆく」という結論だ。そしてその多くが向こう300年に渡って大気中に留まる。ここ10年ほどで、もうずいぶん暑苦しくなった夏の気候だが、今から300年以上もの長きにわたって、かなりの確率で今より涼しい夏は訪れない。それどころか、どれだけ削減努力を続けてもたぶん温暖化は進展する。言い換えれば、今から先の夏は今より確実に暑苦しくなるのだ、しかもある程度のスピードで。

 なんと救われない話ではないか。さまざまな努力が世界中で始まろうとしているのに、そのほとんどが現状を改善するには至らず、どんな努力があったとしても来年確実に状況が悪化するだなんて。

 なんだか不治の病を宣告されたように気が重くなる話だが、不治の病と決定的に異なるのは、まだ時間があること、そして人類にはパラダイムの転換を図れるような英知が備わっていることだと信じたい。そして地球に備わった再生力が働く限り、いつの日かCO2が植物に吸収されて、爽やかな大気がよみがえっていることをも。

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