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”スタグフレーション化”するサービス業

”スタグフレーション”とは

最近「スタグフレーション」というワードを新聞やニュースでよく聞くようになった。

スタグフレーションとは”景気の停滞”を意味する「スタグネーション(Stagnation)」と”物価の上昇”を意味する「インフレーション(Inflation)」を組み合わせた造語であり、「景気が停滞した状態で物価だけ上昇している」ことを指す。1973年のオイルショックでの混乱がスタグフレーションの代表例である。
通常は、企業の業績アップで賃金が上昇し消費が刺激され、物価も緩やかに上昇(2%が適切と言われる)している経済が好ましい。
ところが、今回のコロナ禍での経済のように経済が冷えている中でモノの供給体制に支障が生じると(従業員のコロナ感染で工場の稼働停止など)、景気停滞している中で物価が上がるスタグフレーションが発生する。ちなみに、現在の日本はディスインフレと呼ばれる、物価かほぼ上がらない状態なのだが、この要因は消費者側である需要が不足しているために、供給側は価格を上げづらい状況になっている。需要不足がさらに大きくなると価格を下げてでも販売しようとする、いわゆるデフレーション(デフレ)が発生するのだ。

コロナ禍によるサービス業の”スタグフレーション化”

スタグフレーションの説明が終わったところでここから本題に入る。

飲食・宿泊などのサービス業の賃金は全産業の中で最も低い。
(参考)2020年上半期時点の賃金額(基本給のみ、残業代など各種手当は除く) 全産業:307.7万円 飲食・宿泊業:208.9万円
その他詳細はこちら(厚生労働省)から

なぜならサービス業は労働集約型産業(労働力の多くを人が担っている)であり人件費の割合が多い。そのため多くの人を雇わなければならない企業からすれば、なるべく低い賃金で抑えざるを得ないのだ。通常でも低賃金で従業員の生活水準が低くなってしまうサービス業だが、コロナ禍で全産業の中で最も打撃を受けたことで、さらに賃金が低下しやすい状況になっている。
しかし、その一方でコロナ禍により、接客におけるサービス水準は上昇していると感じる。例えば、店舗入店時の検温やアルコール消毒、利用客が退店した後のテーブルのアルコール消毒など、コロナ前ではありえなかったサービスを当たり前のように行っている。そして日本人の国民性からして、ある程度コロナが収まっても、ゼロコロナにならない限り、このようなサービスはなくならないと推測する。やめたことでクレーム沙汰になる可能性もあるのではと推測できる。

賃金は低いままなのに、接客におけるサービス水準は上昇している

これは上記のスタグフレーションの構造とまさに同じである。労働者の負担が大きいサービス業において離職率は他の産業よりかなり高い。
(参考)2020年上半期離職率 詳細はこちら(厚生労働省)から
全産業:8.5% 飲食・宿泊業:15.3% 


コロナ禍でさらに労働者の負担が増えているのに、それに見合った給与が支払われない状況が続くと、サービス業の離職率はさらに上昇する可能性がある。こうしたサービス業の”スタグフレーション化”から脱却するには、労働者の負担を減らすか、賃金を上げることが求められるのだが、筆者はこれをセットで取り組むべきだと考える。労働者の負担だけ減らしたところでそれは労働者の賃金が下がるだけだし、労働者の賃金を上げたところで企業収益が悪化するので後々従業員への人件費削減として却ってくるだけだ。後述する内容を組み合わせることで、サービス業の”スタグフレーション化”を脱却できるのではと思う。

サービス業の”スタグフレーション化”を脱却せよ!

サービス業の”スタグフレーション化”を脱却して、賃金が上がるような体系にするにはどうすればよいだろうか。具体的には3つのアプローチが考えられる。

アプローチ①サービスの機械化・自動化

サービス業は人が中心になって利益を稼ぐ労働集約型産業だが、機械化を行ってサービスを自動化すること(資本集約化)によって、スタッフ配置人数の削減となる。ホテルフロントなどサービス業の業務はAIに置き換わりやすい性質があるため、これをうまく利用すれば企業の人件費削減につながる。そして削減した結果の利益分を従業員の賃金上昇として還元すべきである。

アプローチ②企業コストのモノへの価格転嫁

今回のコロナ化も含めて日本企業はバブル崩壊後、人件費削減を含めてあらゆるコスト削減に取り組んできた。しかし、肝心の売上増加に向けた戦略立案・行動はあまりクローズアップされてこなかった。これが現在のような消費者の需要不足⇒ディスインフレを招いたのではないかと推察する。現在、日本経済全体でもスタグフレーション懸念がある中、いつまでも人件費などのコスト削減を続けてモノの値段を上げることに躊躇していては、『企業単体(ミクロ)では業績改善となるが、日本経済全体(マクロ)で見ては賃金低下による市場縮小』といういわゆる”合成の誤謬”を引き起こしてしまう。諸外国のようにすぐに消費者物価に反映できるマインドを構築することが求められる。また、付加価値のある商品にはそれなりの価格をつけて販売するというマインドも大切である。日本のサービス水準は世界トップレベルなのに価格には反映されていない。そのためコロナ前のインバウンド観光客の消費額は政府目標の6割に留まっていた(2019年:4.8兆円 2020年政府目標:8兆円)。便乗値上げは論外だが、経済の好循環を起こすためにもモノの値段を上げてもいいくらい付加価値のあるモノを販売すれば企業業績の向上⇒従業員の賃金上昇につながるのではないだろうか。

アプローチ③経営者による”やりがい搾取”意識の排除

筆者の中で、③がいまの日本でまず最初に取り組まなければならないことではないかと考える。②でも述べたように、日本のサービス水準は世界トップレベルであるが、その裏には労働者が安く使われているという”やりがい搾取”という問題が隠れているという事情がある。今夏の東京オリンピックで外国人選手・記者が日本のコンビニの豊富な品揃え・価格の安さなどを紹介していたが、その裏には労働者が最低賃金スレスレの時間給で雇われていることで実現できているという現実があるということを忘れてはならない。安い賃金で多くの人を雇おうという経営者の意識は日本全体にとって国力低下にもつながる由々しき問題だ。
労働者の生活を支える立場である以上、労働に見合った賃金を提供することは当たり前に近いレベルで必要な経営判断だと思う。それでも賃金の上昇が難しければ会社ごと業態転換するなり、成長産業と業務提携するなど大きな方向転換を行うしか方法はない。希望退職などの整理解雇は短期的には業績改善となるが、その後の成長戦略が無ければ長期的な会社の成長は見込めない。
そうなる前にまず、”やりがい搾取”から従業員の満足度(ES)を上げることに注力するという意識を経営者は持ってほしい。

スタグフレーション脱却のための理想の組み合わせは?

以上3つのアプローチを述べたが、筆者はこのうち「①+③」「②+③」「①+②+③」といった計3セットでの取り組みがサービス業の”スタグフレーション化”を脱却できる方法なのではないかと考える。まず③が無ければ根本的な解決は無理だ。③に①や②を組み合わせることで会社の業績アップと従業員の賃金上昇という好循環を生み出すことができるのではと考える。


まとめ

サービス業でも日本経済全体でもスタグフレーションが懸念されているが、これまでの安い賃金で長時間労働させるというサービス業の常識を破ることがスタグフレーション化を脱却し好循環につながると筆者は考える。

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