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【エッセイ】安房③─旅の終わり─『佐竹健のYouTube奮闘記(59)』

 館山城の天守閣にある『南総里見八犬伝』の博物館を巡ったあと、近くにある梅園へと向かった。

 その途中「イノシシに注意」に注意と書かれた看板を見つけた。

「『イノシシに注意』か」

 館山城の周辺にイノシシが出るという事実に、私は少し驚いた。まさかこんな人里にイノシシがいるなんて、想像できない。

マムシに注意(埼玉県所沢市 2023年撮影)

 同時に、去年の3月に所沢で見た「マムシに注意」の看板のことを思い出した。東京から少し離れたところへ行くと、何かしらの野生動物が普通に出る。東京にもいないわけではないが、せいぜい出くわしたとしても狸ぐらいなものだ。猫については、捨て猫に見えても放し飼いされていたり、近所の人に餌付けされていたりする可能性も高いので、そのほとんどは野生とは言い難い。

 さすがに東京から80kmくらい離れているうえに、山をいくつか経由して入る館山ともなると、イノシシも普通にいるらしい。


 梅園へとやってきた。

 梅の木は山の斜面に植えられていて、様々な方向に角々折れ曲がった黒っぽい枝は、白やマゼンタに近い紅のかわいらしい花を咲かせている。花から発せられる甘い香りは、潮風のせいで冷えた空気に混じり、鼻の中へと届いてくる。

(きれいだねぇ)

 香りと花を楽しみながら、私は館山城の梅園の梅を眺めていた。

 山や丘の中で見る梅は風流でいい。

 実を言うと、私は屋敷の庭や公園、神社でしか梅の花を見たことが無い。

 私の家の近所で言えば、向島の百花園や板橋と和光の境にある赤塚城の梅園ぐらいだろうか。あと、これは少し遠くなるが、川越城の敷地内にある三芳野神社の梅もあった。こんな感じで、私の見てきた梅は、大体平面に植えられたものばかりだ。だから、こうして丘の上に植えられた梅を見ていると、何だかとても風情のあるものに見えてしまう。


 梅園を見たあと、山の麓にある博物館を見た。

 博物館には、中世の展示が多く、鎌倉時代から戦国時代のものが多かった。具体的なものだと、仏像や旧家にあった刀とかだろうか。あと、海路を通じて相模と行き来していたみたいな旨が書かれた解説もあった気がする。

 2階は民俗関係の展示となっていた。

 民俗の展示では、房総の農民の住居を再現したものがあった。

 一つか二つの部屋しかない茅葺屋根の母屋があって、物置がある。この点は、埼玉の朝霞にあった中級農民の家と造りは変わらなかった。普通の農民の家というものは、大体こんな感じの間取りらしい。

 解説を見てみた。解説には、房総の方言で暮らしぶりが説明していた。

 房総の方言を文字にして読んでみると、どこか落語などで聞く東京の下町言葉に似ていた。いや、同じものだったかもしれない。

 解説にあえて方言を出すというやり方は、とてもポイントが高い。方言で解説することにより、江戸時代の房総の農村のリアルを耳や目でもって感じられるからだ。


 博物館を見学したあと、海の方へと向かった。動画の最後は海を見て終わりにしよう。関東城めぐりが始まるときからそう考えていたからだ。

 館山城から西へ少し歩くと、すぐに海へと着いた。

 弓なりに山の方へと続く砂浜。砂浜の砂は少し黒みを帯びていて、いかにも砂という感じであった。そこへ白波は押しては引くを繰り返している。

「これで、旅はおしまいか」

 海を眺めながら、砂浜やその周辺を歩いて北を目指していた私は、ふいにそんなことを感じた。

 もう、関東城めぐりは終わると考えると、生きがいを一つ失うようで、空しい気持ちになってくる。

(あと、千葉の海は優しいな……)

 天候や時期、地形などのせいもあるのだろうが、波がとても穏やかだ。いつも鎌倉へ行くときに見ている鎌倉の海とは大違いだ。

 優しい安房の海を眺めながら、私は砂浜とその周辺を歩いた。


 北へと歩いていくと、ヤシの木が見えた。

 ヤシの木の向こう側には、海の向こうへ桟橋が伸びている。後ろにあるヤシの木の葉は、穏やかに吹く潮風に揺られている。

(桟橋がある。ここで船を止めたり、乗り降りをしたりしているのかな?)

 桟橋とは、船から人やモノを下ろすときに使われる橋のことである。ここの海岸では船が入ることがあるのだろうか? 駅も近いことや木造ということから、入ってくるのは人であることは推測できる。

(それにしても、南国感すごい)

 ビーチとヤシの木。この二つの組み合わせが、安房国が南国であることを強く主張している。上総の木更津にもヤシの木はあったが、ここまで南国感は無かった。


 館山駅で帰りの電車を待っていた。登りの電車が来るまで30分あったので、駅の中で待つことにした。

 駅の中は制服の上にコートを着たり、首にマフラーを巻いた中高生がスマホをいじったり、友達と話しながら帰りの電車を待っている。

(30分、か……)

 アニメの1話を見終えたらあっという間に過ぎる時間。いや、広告が無いと、もう少し時間が余るか。微妙に長いような短いような時間私は電車を待っていた。

 登りの列車に乗ろうと、木更津行きの列車が停まるホームへ向かうため、階段を降りようときに、

「Forever loveが流れるボタン」

 という案内があった。

 左側には、黒いボタンがある。このボタンを押すと、『Forever love』が流れるらしい。

(そういえば、館山ってX JAPANのYOSHIKIの地元なのよね)

 私は好きなバンドのボーカルの出身地であることを思い出した。

 時折X JAPANの曲も聴いている。よく聞く順としては、『Forever love』、『紅』、『Rusty nail』だろうか。

『Forever love』だが、私の好きな曲の中では結構上位に来る。好きな理由については、歌詞の歌い出しやどうにもならない悲壮感を感じられるところだろうか。間奏で流れるエレキギターの音色が神がかっているのも大きいが。館山へ行く途中でも、聴いていた。

「押そうか押さないか迷う」

 押してみたい。けれども、押したら押したで少し恥ずかしい。

 迷った結果、押さないことにした。また今度館山に来たときに押すことにしよう。

「さて、帰ろうかな」

 私は木更津行きの列車のボタンを押して、東京へと帰った。


   ※


 関東城めぐりの旅では、きれいな景色を見つけたり、普段見慣れない珍しいものもたくさん見ることができました。そして何より、知識と経験をさらに深めることもできました。

 この旅が先延ばししながらも無事成功できたのは、情報提供をしてくれたTwitterやnoteのフォロワーの皆様のおかげです。まことに御礼申し上げます。そして、これからもよろしくお願いいたします。

 この話の続きは、いずれまたの機会に。

(関東城めぐり編 終)


またお祝いされたw


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