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牧内昇平『「れいわ現象」の正体』 : 社会的弱者の〈梁山泊〉

書評:牧内昇平『「れいわ現象」の正体』(ポプラ新書)

きわめてユニークな本である。
「れいわ新選組」というと、まず念頭の浮かぶのが「山本太郎」だろう。つまり、多くの人が「れいわ現象」の「正体」を暴くには、「山本太郎の正体」を暴かなければならないと考え、本書でもそのあたりの解明が試みられているのだろうと、そう予測するはずだが、しかし、本書はそういう「ありきたりの本」ではない。

著者はもともと「社会的弱者」の問題を追ってきた、経済部の新聞記者で、政治家・山本太郎について詳しいわけでもなければ、人並み以上の興味を持っていたわけでもない。
ただ、うつ病の妻を持つ一人の夫として、妻からすすめられて見たネット動画で、山本太郎が弱者に対して「生きていてくれよ!」と訴える姿に打たれ、「れいわ新選組」という「社会的弱者」を結集する政党のユニークさに興味を惹かれて、取材を始めたのである。

そして本書は、先の選挙において最初は誰も予想だにしなかった「れいわ現象」の意味を探るために、「れいわ新選組」の躍進を支えた「一般支持者たちの声」を紹介することを中心として構成されているのだが、しかし、面白いのは、「れいわ新選組」の支持者が、かならずしも山本太郎という一政治家のファンや信者ではない、という点にある。

つまり、山本太郎という政治家個人の力量はまだまだはかり難いところがあるものの、しかし「れいわ新選組」という「個々に訴えを持つ弱者の寄せ集め」めいた政党の、その政党らしからぬユニークさに、日本の政治の「現状打開の可能性」を期待をした、という人が少なくないのである。

従来の「政治的イデオロギー」や「労働組合や宗教団体といった支持団体のしがらみ」などに縛られない、「個々に訴えを持つ弱者の寄せ集め」。喩えて言えば「弱者代表の梁山泊」ような集団だからこそ、何かをやってくれそうだという期待が、「れいわ新選組」に向けられている。
そしてそれは取りも直さず、今の日本の政治に対する切羽詰まった危機感が、山本太郎個人というよりも、山本太郎が結集した、この「ユニークな政党」に寄せられている、ということなのだ。

そして、そうした点で、特に面白いのは(レビュアー「のずら」氏や「Amazon Customer」氏も指摘しているとおり)前回の選挙で「れいわ新選組」から立候補した、東大教授の安冨歩のインタビューコメントだ。

安冨は、短命に終った民主党政権について「民主党の政治家がことさら無能だったから実績が残せず短命政権に終ったのではない。官僚が、いずれ自民党政権に戻ることを見越して、仕事をボイコットしたから、どうにもならかっただけだ」と、じつにあっさりと指摘した上で「だから、山本太郎は議員を百人にして政権を取ると言っているけれども、仮に、そうなり、れいわ新選組が政権を取ったところで、それで政治が変えられるということはなく、民主党の二の舞になるのは目に見えている」と、はっきり言う。
しかしである。だからと言って、何もしないで、このままで良いということはないのだから、今の政治を揺るがし、国民に「変革の希望とその可能性」を示す働きをこそ「れいわ新選組」はしなければならないし、候補者を「頭数」に換言しないで、それぞれに訴えたいことを自由にやらせるという「れいわ新選組」だからこそ、それが出来るはずだ、と言うのである。

つまり、山本太郎は「議員を百人にする」とか「政権を取る」という目標を掲げているけれども、それは「山本太郎個人の目標」であって、「れいわ新選組」から立候補した候補者や当選者個々の「目標」ではないのである。
だから安冨は「山本太郎は山本太郎のやりたいことをやればいいし、他のメンバーもそれを強いられることはない。山本太郎は、自分のやりたいことを実現するために、子分をつくり、組織を作っているのではなく、共に戦える面白い仲間をあつめて、それぞれにやりたいようにやる機会を与える、きわめてユニークな個人主義政治家なのだ」と、大要このように評価しているのである。

したがって、「れいわ新選組」の場合、山本太郎だけが問題なのではない。山本太郎が声をかけて結集した「ユニークな弱者たち」の「梁山泊的個人主義」が、これまでの政党にはない可能性を秘めているのだ。
その一人一人が、「弱者」であると同時に「豪傑」であって、一人が倒れても、別の一人が自分の持ち場で戦いつづけるような、分散構造を持つ「抵抗組織」。それが「れいわ新選組」と名づけられた政党の、政党らしからぬユニークさなのである。

私も、本書の著者同様、山本太郎という人が、いまいち掴みきれない者の一人なのだが、ともあれ「れいわ新選組」が、二の矢三の矢を放ちつづける「ユニークさ」を失わないかぎり、支持していこうと思うようになった。

初出:2019年12月30日「Amazonレビュー」

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