マガジンのカバー画像

月と私とゆれるカーテン

460
月が満ち欠けするように、ゆらいで詩と自然と生きる日々を綴ります。
運営しているクリエイター

2021年2月の記事一覧

柳美里『交換日記』を読んで

柳美里『交換日記』を読んで

柳さんは我が家でも時々名前が挙がる作家さん。

今回小説ではなく彼女の日記を選んだのは、彼女の生き方というか、暮らし方をのぞいてみたいと思ったからでした。

どんなにドラマチックな人生を歩んでいる作家でも、母親としての顔があり、それを息子さんとの関係性の中で少しずつ描いていくのは本当に読んでいて面白い。

個人的に、大学の講義で『家族シネマ』のレジュメを作ったこともあり、恩師の一人が柳さんととても

もっとみる
あさのあつこ『風を繍(ぬ)う』を読んで

あさのあつこ『風を繍(ぬ)う』を読んで

あさのあつこさんの江戸もの、読んだの初めてかもしれません。

問屋の丸仙の内裏、おちえはだれしもに名をはせる道場のつわもの。しかし、彼女の道場には風変わりな来客があったり、彼女自身闘っていくことで、自分の道を見出していく。

道って私、結構好きなことばなんです。

だってその人の歩む生き方そのものじゃないでしょうか。

おちえは闘うことで自分の道を見出していくし、自分の「場」がなくなっても必死で立

もっとみる
ほしおさなえ『紙屋ふじさき記念館 カラーインクと万年筆』を読んで

ほしおさなえ『紙屋ふじさき記念館 カラーインクと万年筆』を読んで

待ってました!

シリーズ最新刊になります。

この帯を外すとかわいい仕掛けが待っているのですが、それは購入した際の楽しみにとっておいてくださいね(笑)

紙を扱う記念館にアルバイトとして入った紙小物好きの大学生、百花の活躍が今回も大きかったです。

吊るし雛を見て水引をつるす、つなぐっていうアイデアがすごい!!!

もともと、ひととひとの縁をつなぐという意味で水引は「結」と呼ばれていたそうです。

もっとみる
今村夏子『むらさきのスカートの女』を読んで

今村夏子『むらさきのスカートの女』を読んで

町内の有名人って、いるとわくわくというか、ちょっと怖かったり。

でも子どもの頃って、そういうの懐かしかったりするんですよね。

むらさきのスカートの女、もそうで、主人公のわたし、はずっと近くでその女を追います。

文体としては一人語りなのですが、自分の事はそっちのけで、ただ淡々と「むらさきのスカートの女」を描写していく。

ストーカーってこわいな、と思うのですが、そこには病的な執念があるのかもし

もっとみる
小路幸也『春は始まりのうた』を読んで

小路幸也『春は始まりのうた』を読んで

嫌だないやだな

という気持ちになったりすることってありませんか?

私の場合、その気持ちをよくよく観察すると、

嫌だないやだな、何かしたいな



嫌だないやだな、何もしたくないな

のどちらかに分かれるんですけど、春が来るたびに思うのは前者、何かしたいなのそわそわとした気持ちです。

そんな中で手に取った一冊のこの本、とってもいい!

犯罪者がわかるお巡りさんと伝説のスリの血を受け継ぐ美少

もっとみる
真梨幸子『向こう側のヨーコ』を読んで

真梨幸子『向こう側のヨーコ』を読んで

夢の中の「私」は本当の私の深層心理だと思うのですが、この話はゾクゾク来ました。

本当に「かわいそう」な生活を送っている「B面」のヨーコ、華々しいテレビという舞台で生きている「A面」のヨーコ。

2人とも、手に入れた幸せと手に入れた不幸せ、どちらも持っています。

何かを手に入れたら何かを手放さなければいけない

そんなことに気がついたのは、私が大人になってからでした。

もう一つの世界でも、私は

もっとみる
西加奈子『うつくしい人』を読んで

西加奈子『うつくしい人』を読んで

ものすごく、嫌なことがあったとき。

後から考えてみたら、その時自分は途方もなく傷ついていたんだと思う時。

私にもあります、誰にだってあります。

事件が起こっている最中は、そのことを「事件」として認識できない、というのが私の持論です。

その「事件」が終わった後、なんだか苦しい気持ちになって、ずーん、と、どよーん、とした気分になる。

その心を晴れ渡らせるきっかけになったのがこの本です。

もっとみる
窪美澄『よるのふくらみ』を読んで

窪美澄『よるのふくらみ』を読んで

窪美澄さんの女性の身体に関する表現、生々しくて時々苦しくなることがあります。

それでも、訴えかけるものは多くて。

女として生きていくことに必ず付きまとう悩みだったり苦しみだったりを、見事に切り抜いているから苦しいんでしょうか。

読んでいる人を共感させ、シンパシーを覚えさせて共鳴させる。

なかなかできないと思います。

この著作は短編集で、どれも女性の悩みに関するものです。

アラサー女子に

もっとみる
吉田篤弘『それからはスープのことばかり考えて暮らした』を読んで

吉田篤弘『それからはスープのことばかり考えて暮らした』を読んで

吉田篤弘さんの著作は結構読んでいて、もう、短編小説すごく好きですね。

他の著作にも出てくる「リツ君」「安藤さん」とか、登場人物をなぞるようにスケッチしていくような文体も好きです。

この短編集では、ある街を舞台に「僕」がただ淡々と毎日を送る模様が描かれているのですが、それがまあ面白いのが吉田篤弘ワールドと言っても過言ではないと思います。

毎日って、誰かとしゃべったり買い物をしたり、外と触れ合う

もっとみる
群ようこ『ほどほど快適生活百科』を読んで

群ようこ『ほどほど快適生活百科』を読んで

群さんの恋愛エッセイくらいかな。

すごく好きで、大学生くらいから彼女のセンスを追い求めてみました。

あれから数年経って、私もアラサー。

彼女みたいな短文でのきらりと光るセンスは磨き中だけど、何年も何年も「わたしとあなた」を見ている人の生活に関するものって、面白いと思う。

私もアラサーになってすごく生活も変化したし、恋もしたし、本当に生活って維持し続けることが大変だし。

そんな中で。

もっとみる
堀江敏幸『バン・マリーへの手紙』を読んで

堀江敏幸『バン・マリーへの手紙』を読んで

小説家とか詩人って、考えることが多くて頭の中うるさいなあ

って

思うことありません?

私だけなのかな……堀江さんのこのエッセイは、日々考えている「愚考」をかたちにしたものです。

わかるわかる、生活にぜんっぜん関係ないし、そんなこと考えても小説や詩文のネタにしかならないけれど、そういうことを考えてるってあんまり知られたくないくらいたわいないことだけど、

頭の中、忙しいんですよね、私達。

もっとみる
ライマン・フランク・ボウム 江國香織訳『オズの魔法使い』を読んで

ライマン・フランク・ボウム 江國香織訳『オズの魔法使い』を読んで

翻訳って、不思議です。

例えば違う言語を日本語に置き換えるとして、日本語になったときにいわゆる「日本語話者にいそうなキャラクター」になったりすることがあって。

私は中学生の時の英語訳ノートで、意訳しすぎて先生たちからたしなめられた記憶があります。

のちのち、それが村岡花子もそうだったことに気がつき、ちょっとほっとしました。

江國さんの訳で一番よかったなと思えるのは、「かかし」の言葉遣いです

もっとみる
常盤貴子『まばたきのおもひで』を読んで

常盤貴子『まばたきのおもひで』を読んで

常盤さん、とても素敵な俳優さんですよね。

彼女の美しさはいつも魅力的で、「チャーミング美人」ということばが一番しっくりくる。

この本はエッセイ集で、彼女が「面白い」と思ったきらきらしたものを集めていました。

面白いっていう感覚を常に持ち続けるのは大変で、大切なことです。

日常ではつらいことや突然のハプニング、つまらないことも起こります。

何もない日なんて、本当はなかったりして。

でもそ

もっとみる
ジュンパ・ラヒリ 小川孝義訳『その名にちなんで』を読んで

ジュンパ・ラヒリ 小川孝義訳『その名にちなんで』を読んで

自分の名前に本当の意味で恨みを持ったことって、ありますか?

私は結構生きる道を定められてしまったようで、今思い返せば不思議な気分です。

私の名は早苗、妹も植物の名前を名付けられました。父も母も植物が好きで、女の子には植物の名前を、とずっと考えていたそう。

ベンガル語圏の両親を持ちアメリカで育つゴーゴリは、父が自分の出産間近に辛くも死から免れたときにそばにあった本の作家から名付けられる。しかし

もっとみる