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【詩】

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2023年8月の記事一覧

【詩】 夏の知らせ

嗅いだことのある匂い
蒸し苦しい夜に
夏は帰っていくようだ

何気ない毎日に
疲れ気味の君は
まだこの世界を知らない

炬燵の中に丸まって鳴いた
あの頃も遠く
郷愁深く思い出す

過ぎ去った時間を
元に戻す必要もなく
時の流れは渦を巻く

飲み込まれた潮に
ひと匙の切なさを
紛れ込ませて
見えない所で
涙を拭った

囀りを聴いたあの朝
目覚めた君が
問いかける

このままでいられるの?

苦しい胸

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【詩】 春の雨

思い出すだけで
赤くなるような
甘い過去

いじらしいほどに
鮮明に浮かんでくる

その時には
有り難さがわからない
今となっては
美化されたもの

どうしてと
原因を探っても
理解しきれない

慣れと飽き
それと戦いながら
生きていくのか

次のステージへ
進まなければ
そこで終わっていくのかも
しれない

時は止まってくれない
でもまた始まるし
始められる

新しい風に乗って
力まずに
身軽に

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【詩】 微炭酸

【詩】 微炭酸

尻込みする
過去を横目に
通り過ぎる時間に
飛び乗る

どこに行くかは
わからない
だがどこかへは
必ず向かう

過去を生きるのを止め
今を生きることを誓い
未来へと流れていく

歯を食いしばって
変えた流れは
いつしか消えてしまった

どこからともなく
誘う海の香り
小さく開いた
この手のひらに
君からの便りはなく
古の文字が
僕を慰める

このまま
波の中に紛れ込んで
いつしかの港へ
流れつく

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【詩】 空も飛べるはず

【詩】 空も飛べるはず

いつしか
広がった空が
この手に収まったら
君を迎えにいこう
夢と希望を背負って

重荷だったはずの
それらは
僕を宙へ連れ出した
目に見えない場所を通って
自由に泳ぐことができた

変わり果てた街並みも
いつしか消えゆく太陽も
輝きは増してゆく

見逃した笑顔も
心のわだかまりも
全部全部
目を瞑れば
色褪せることなく
胸を高鳴らせる

どこまでも続く海岸線を
君と歩いた日々を
寝転がって抱き合

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【詩】 あの場所へ

眼差しの中に
映る君の面影
重なった時間に
思いを馳せる

交わった意味を
変わらない意志を
過ぎ去った愛を
変わらない慈悲を
今も僕たちは歌っている

思い出す季節は
今もこちらへ
微笑みかけてくる

もう誰もいない
あの場所へ
もう一度

声は
薄暗い部屋の中で
響き乾いて
虚しく消えた

【詩】 百日紅

【詩】 百日紅

かなたに光る
炎を見ていた
消え失せる視界を
まだ開けずに
瞬く間に過ぎていく
時を見ていた

このままじゃ取り残される
危機感は心を取り乱し
新たな現実を取り出した

かなたに広がる光景は
口径10メートルの武器から
放たれた空気を
巻き込みながら
どこまでも続いていく

ここまで来れば
どこまで行けば

辿り着く先はなく
果てしない荒野に咲く
百日紅は
赤く輝いている

【詩】 ここでは無い何処かへ

夢見る
今と違う現実

離れ離れになった
身体を
手繰り寄せて
組み合わせる

頭に積もった雪は
春には潤いの雨となる
日に焼けた肩は
誰かを抱きしめる翼となる

いつかみた夕焼けに
身に染みる思い出を
暮れゆく宵に
酔って歩く帰り道

長居した後の
後ろ惹かれる影を
長く伸びた髪に
纏わり付いた悩みも
洗い流す今夜の月明かり

明日が雨でも
曇りでも
その向こうには
ここではない何処かへ向かう

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【詩】 海気泡

境界のない
海を漂っていた
月夜に跳ねた
魚の群れを
遠くから眺める

緑に光った夜光虫は
淡い記憶の中で
青春を歌っている

聞き馴染みのある声は
いつからか物語の中に
架空のそれは
読み覚えがある

流された波音が
海面に映った
月夜と
共鳴している

なかなか掴めない
今この時よ
すり抜けていった
あの時よ
胸の高鳴りを
届けるために
駆け上がった空よ
夜の中に
溶かし込んで
滲んだ輝きよ

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