マガジンのカバー画像

古今東西歌物語

4
運営しているクリエイター

記事一覧

タール砂漠の青い鳥

タール砂漠の青い鳥

幸せの青い鳥という話をご存じだろうか。

ベルギーの劇作家メーテルリンクの書いた戯曲で、チルチルとミチルという貧しい木こりの兄妹が、幸福の象徴である青い鳥を探す旅に出るという筋書きだ。子供向けの童話かと思えば含蓄に富む寓意が散りばめられていて、大人が読んでも楽しめる。

結局旅先では青い鳥は見つからず初めから家にいたというオチで、幸せとは実は身近なところにあるのだ、という趣旨の話としてよく語られる

もっとみる
名もなき人々の歌、フォルクローレ

名もなき人々の歌、フォルクローレ

封建時代の芸術は主に社会の上層部を相手にしていた。
極一部の階級をのぞいて富の余剰が存在しない時代では、芸術家は王侯貴族をはじめとするディレッタントの庇護に頼る必要があった。
大衆のための芸術が歴史の表舞台に現れるのは、メディアの発達が大衆の存在感を高めた20世紀からだ。

チリの女性歌手、ビオレータ・パラは、日本での知名度こそ高くはないものの、そんな20世紀の芸術を体現する存在である。

191

もっとみる
無常を響かす童声

無常を響かす童声

 熊本県球磨郡五木村は、江戸期まで城下町として栄えた人吉市から、川辺川を伝って30キロ程北上したところにある山間の村里である。ここには壇之浦の戦いに敗れた平家の残党が落ち延びたという、いわゆる落人伝説が残っている。今から八三五年も昔の話ではあるが、その歴史の細流は、一時栄華を極めた一族衰亡の消息を、昭和の世に綿々と伝えていた。

 おどま盆ぎり盆ぎり、と聞けば、盆からさきゃおらんど、と二の句が自然

もっとみる
大恐慌とスウィング・ジャズ

大恐慌とスウィング・ジャズ

 歌は世につれ世は歌につれ、という言葉がある。歌の内容は世相を反映し、また世相も流行り歌の影響を受けて移り変わるという意味だ。経済が上り調子で景気が良いと種々の娯楽も勢いを増す。仕事終わりに飲み屋へ繰り出し酒をあおれば歌の一つや二つ歌いたくなるのが人情である。もちろん人生は歓楽一辺倒というわけにはいかず、悲喜相混じるのが自然だから、悲しいときには悲しい音楽が必要だ。

 歌は単に心の色合いを表すだ

もっとみる