いつか木漏れ日を浴びながら 7話

お盆が過ぎて数日後の8月20日。雨の日に私と彼は最寄り駅前で顔を合わせた。

近場のファストフード店で食事し、カラオケで流行りの歌を歌い、近場のアパレルショップで買い物というテンプレートを楽しんだ。

「あー、凄く楽しい。」
「そりゃ良かった。」
「何その反応。凌は楽しくないの?」
「楽しいよ。ほら、でも俺クールキャラで通ってるから。」
「私の前ではデレデレキャラでいーよだ。」

私は彼のほっぺをグリグリ触りながら戯れあった。私だけが溢れる彼の笑みを眺められる。その事実に私は言語化できない幸せを感じた。

気が付けば19時30分だ。私と彼はバスルートが別で最後の乗車時間は20:10。残り40分まで最寄り駅前で何をして過ごすか、考えている私に彼は驚く案を持ちかけた。

「残りの時間で花火しよう。」
「花火?雨だよ。できるわけないじゃない。」
「それがとっておきのスポットが10分歩いた場所にあるんだよ。」

彼の爽やかな笑顔を信じて手を繋ぎ、私は左側で歩を進めた。彼が足を止めたとき、河川敷に架けられている、横幅の広い橋を目の当たりにした。

「この橋の下でなら花火できるよ。」
「ほんとだ。橋の幅が広いから雨も当たらない。よく知ってるね。」
「昔から陽を遮る場所には詳しいんだ。」

彼はバッグから花火を取り出し火を点けた。
夜闇を横切る彼の腕は繊細で撫でていたいくらい、秀麗だった。

「綺麗。」
「灯りがほとんどない場所だと特にな。」
「ねえ?」
「うん?」
「随分と準備がいいね。」
「ああ。ゴミ袋もあるからな。」
「ふふ。何それ。さりげなく誘導したと思ったら、花火したくて仕方なかったんだね。」
「意外と可愛いやつだろ、俺。」
「自分で言うなんて引くわー。」

雨が地べたに触れて蛙の鳴き声が時折聴こえる。闇に包まれながら河川敷の下で過ごす私達は、世界に2人しかいないと錯覚するほどだ。

2人きりだから。2人ぼっちだから。私は生まれて初めて異性の前で甘い声を出してみた。遮るものは何も無い。

「ねえ。」
「うん、どうしたの?」
「ずっとここにいたいって駄々こねたらどうする?」
「家に帰すよ。」

「バカっ」と彼の腹にチョップの型をした突きを入れた。「痛いな」と痛そうなそぶりを見せないくせに言葉にした。

彼は私をあやすように頭をポンポンしながら真摯な声で私を安心させた。
「大丈夫。今日は帰すけど離しはしないよ。」

私は彼の誠意ある、優しい言葉に態度に感極まった。この時の私の表情は砂漠のオアシスに負けないくらい潤んでいたことだろう。

見慣れない私の表情を見つめながら凌はそっと口づけをした。

雨は渇いた大地を潤す。雨音は静寂な夜に添って抱きしめてくれる。雨上がりの虹は世界に色を添えて華やぐ。

夏雨に囲まれての初めての口づけは、心に潤いを与え、雨は私達2人に寄り添って、暗闇に色が生じた。

顔を離し目の前に映る彼の喉仏さえ私は愛おしいと思った。鮮やかな色が生まれた夜。

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