いつか木漏れ日を浴びながら 5話

7月某日。いつもと変わらない朝。授業を受けてお昼休み、美咲と談笑しているところに、男子グループの声が聞こえた。

「そういや2組の転校生が告られたの知ってる?」
2組の転校生は凌以外にいないはず。そうか、彼は誰かに告白されたんだな。そんな状態で私と遊んだのか、切ない気持ちに襲われた。
「それがよ。その告白を断ったんだって。」
「何でまた。」
「気になる女が他にいるんだと。モテるやつはいいな。」

凌は誰かに告白されて断った。何のために。
それに告白を断るほど気になる相手とは。私は気になって午後、授業に集中できなかった。

放課後、委員会の書類処理をして教室を出たその瞬間、聴き覚えのある声と胸を打つような切なげな声が聴こえた。

声の主は2組の教室の男女で1人は凌。もう1人は凌を私に紹介してくれた、2組の華がある可愛い女の子だ。

2組の可愛い女の子は涙を零しながら言葉を漏らす。
「何で私はダメなの?」
「気になるやつがいるから。」
「私は気にならない?転校して慣れない凌に話しかけて、仲良くして。それでもダメなの?LINEで告白したから?」
「違う。まりこは俺に気をかけてくれるしリーダーシップあるし。人として尊敬している。」
「女としては?」
「どうしても気になるやつがいるんだ。だから。」

凌が言い切ろうとした瞬間、まりこと呼ばれた凌の友達が遮った。
「それって1組の結花って子?」
凌は首を縦に振る。嘘だ。彼が私に興味を持つ理由なんて無いはず。
「そもそもまりこは俺と結花のお膳立てしてくれたじゃん。」
「それは。まさか凌が好きになるとは思わなかったし。私に振り向いてくれると思っていたからだよ。」

ああ。胸が痛い。先月から続く私の胸の痛みに似ているだろうそれに、彼女は今襲われている。彼女の痛みの元は私なんだ。

「転校したばかりの俺に優しくしてくれてありがとう。でも、今抱えている気持ちに向き合いたいんだ。ごめん。」

泣きながら彼女は教室を出た。私は隠れるように1組の教室に移動し、彼女が廊下から消えたことを確認して私は2組の教室を再度覗いた。

凌は一枚のラブレターを手に持っている。
彼が「ラブレターか。」と呟いたから分かった事実だ。

その日の夜。「伝えたいことがあります!」とスマホ画面に表示された。彼から届く初めての丁寧語だった。

「伝えたいこと」を聞くために、終業式の前日の夜、市内で比較的落ち着いた公園で待ち合わせることにした。

pm9:00。私が予定通りの時刻に着くと、海の写真がプリントされているTシャツを着た凌がベンチに腰掛けていた。

「おう。」
「おはよう。」
「夜なのに?」
「今日初めて会うから。」
「そうだな。」
ふふっと彼は笑う。彼の素な笑顔を見るのは初めてかもしれない。

「伝えたいことって何?」
私は早速本題を持ちかけた。
「ああ。じゃあ話すわ。俺、好きな人がいるんだ。」
「素敵なことね。私も。」
「その好きな人が結花、なんだ。」

急に彼の声のトーンが低くなる。彼の真摯な姿勢が現れているのだろうか。
「奇遇ね。私も。」
「ありがとう。」
「感動は無いの?」
「あるよ。今すぐにでも飛び上がりたいくらいだ。」
「じゃあもっと喜びなよ。」

彼は少し間を置いてから夜空の星を見上げ告白した。
「俺。太陽を浴びるのが苦手なんだ。」

太陽を浴びるのが苦手。突然の凌からの告白に私はそこまで驚かなかった。雨の日に自転車を漕ぐ彼を見た日から、そういうこともあり得るだろうと思っていた。

「別に太陽を浴びて死にはしないが、色々辛くなる。簡潔に言えばかなりの痒みが走るな。」
「だから雨の日だけは自転車が漕げるからカッパ着て登校してたんだ。」

コクリと肯く彼。私はもしかしたら、彼の好意を利用して秘密を知ってしまったのかもしれない。彼が誰かに心を寄せたくなる、その気持ちを気付かぬ間に刺激したかもしれない。

「だから。太陽を浴びながら結花と思い出を作れない。ただ、必ず。」
彼がそれ以上言うのを遮って私は制した。
「それじゃあ雨の日に思い出を作ろう。それで良いでしょ。」

彼は初めて私に涙を見せた。「ありがとう」というその五文字は定型的な使い方ではなく、胸の奥から吐き出した本音に聞こえた。

私たちはその日から付き合うことにした。終業式は無事終わり、夏休みを迎えた。

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