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素敵なコンテンツの集い

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素敵な記事を勝手ながら集めさせていただきます! いつも心が揺れるような投稿をありがとうございます(´∀`*) 迷惑でしたらお手数ですがお声がけいただけると幸いです🙇‍♂️
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#短編小説

【掌編小説】ボクたちはナンバーワンでもオンリーワンでもなかった

【掌編小説】ボクたちはナンバーワンでもオンリーワンでもなかった

 晩秋の夕方は短い。
 ボクが下宿先に帰ろうと大学を出た頃には、既に空は暗くなっていた。
 駅までの道程では、昔から学生向けに営業をしている喫茶店や古本屋が、チェーンの牛丼屋やカレー屋と軒先を並べている。店先で明るいオレンジ色や赤色が目立っているのは、ハロウィーンやクリスマスに向けての装飾のようだ。
 楽しそうに大声で笑いながら数人の男たちが居酒屋に入っていく。アルコールを呑む前から意気揚々の様子

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【掌編小説】僕が知らなかったことと知っていること

【掌編小説】僕が知らなかったことと知っていること

 僕は知らなかった。
 一目惚れというものが、本当に存在することを。

 一目惚れなんて、実際にはあるはずがない。そりゃ、女の子を見て「可愛いな」と思うことはあるかもしれないけど、相手の性格や趣味なんかをよく知りもしないのに、突然恋に落ちるなんてあるはずがないじゃないか。それは、登校時に曲がり角でぶつかった美少女が実は自分のクラスの転校生だったとか、自分が知らないうちに親が決めていた許嫁が前触れも

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月夜の口紅 エピローグ

月夜の口紅 エピローグ

月夜の口紅 1/4

 冬場は日が暮れるのが早い。住野くんが小さなあくびをして、もう外真っ暗じゃん、と呟いた。交換ノートを閉じて立ち上がる。

「そろそろ昇降口閉まるから早く帰りなよ」

 嫌がる住野くんを急かす。ボールペンを、かち、かち、かち。

「わかったよ、帰ればいいんでしょ。帰るから怒らないでくださいよ」

 住野くんは出していた筆箱と裏紙の束を鞄に詰め込んで、きいと音を立てながら椅子を引

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【短編小説】塩を入れる。そして砂糖をぶち撒ける。

【短編小説】塩を入れる。そして砂糖をぶち撒ける。

 
 カタン。

 紅音は塩を煮物に入れ、それを元の場所に戻す。
 それが運悪く、隣に置いてあった砂糖に指が当たった。
 その拍子に、塩と砂糖の入れ物がガシャンと床へ落ちる。

 キッチンに敷かれたカーペットが真白くなり、私は慌てて腰をおろした。
 紅音はしゃがみこんだまま、「えっとえっと」と戸惑うように呟く。

 口はあわあわと忙しなく動くが、目はじっとその白くなった床をじっと見つめている。
 

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静 霧一 『空の舞姫』

静 霧一 『空の舞姫』

「―――痛っ!」
 私は挫いた足首に顔を歪ませる。
 左足を使って恐る恐る床に座ると、私はテーピングで固定された細い足首を擦った。
 骨の奥を走る神経が、じんじんと鈍痛を発し、無言で私の心を殴りつける。

「危ないから、今日は隅で休んでいなさい」
 先生が私の背中をさすりながら優しく呼びかける。
 私はその優しい声に、自分の声を殺して涙を流した。

 バレエ教室の隅、鏡と壁の境界線に私は座り込む。

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静 霧一 『水天一碧』

静 霧一 『水天一碧』

(序) 

 冷たい水の中に溺れてゆく。
 不思議と、苦しいとは感じなかった。
 むしろ「あぁ、私は溺れていくんだな」と、思えるほどであった。
 心許なく光っていた街頭の灯りがだんだんと薄くなっていく。
 私は静かに目を瞑り、「これでいいんだ」と細かな水泡となっていく命を吐き切った。

(一)

 水天一碧。
 空と海の境界線が溶けた世界に私は棲んでいた。
 たった一人、教室の隅の席で、私は佇んで

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