なる

逆さまになった空を仰いで

なる

逆さまになった空を仰いで

最近の記事

おかえり、春

できるだけ、少ない口数で愛を伝えたい、そしてできるだけ、少ない優しさを僕にください、鈍くなった春が遠い、一度手放した言葉が巡り巡ってもう一度僕のもとへ帰ってくるのなら、君への生きていてほしいがいつからか僕への言葉になって、それがすごく気持ち悪くて胸がつかえる朝、耳元で海の音がして、自分が泣いていることに気づくのはいつになるんだろう、もう、このまま心ごと飛び出して、伝わるはずのなかった柔らかさまで泳いでゆきたい、世界が色を変える時、なにひとつ変わっていかないものは存在しないけれ

    • 痛くない痛み

      少しだけ、月に寄りかかりたくなった、もういちどだけあの日々と同じ感情に戻れるのなら、今の僕はきっと居なくて、今の君もたぶん居ない、なんて未来を想像していたのに、実際そんなことはなくて、君はきっと今のまま何も変わっていないんだろうな、あの一瞬で君に伝わった感情なんて、君の未来を変えてしまえるほどのものではなくて、そんなことはわかっていて、それでも、世界に興味は無いくせに君の世界は変えたい僕だから、君が僕のせいで少しだけ傷ついてくれればいいと思う、ほんとうに少しだけ、僕のせいで痛

      • ばくはつ

        真っ白な光に覆われていく、感情が、置いていかれた後の空っぽな肉体にばかり同情してしまう、振り返ることで正しく痛むことができたのなら、ここで終わりにすることだって間違いではなかったはずなのに、誤ることなく繰り返されてしまった清涼と、隣り合わせに息をした夏に、また同じ絶望を前にして、大きく息を吸い込む、死にたいと叫ぶロックバンドのライブチケットを栞にしているあの子、カメラロールには薬のシートと水槽の中でライトアップされた海月ばかりが並んでいる、同じような文章ばかりが下書きにたまっ

        • 夏のせいで生きられない

          愛したつもりに息が詰まるような季節ですね、思ったとしても言ってはいけない言葉があるそうで、浴槽で溺れたふりをしていた少女がもう少女ではなくなった頃、行く宛てもなく電車に揺られている正午に想像するような透明度は存在しなかったけれど、それでもなんでもない光景が、夏の暑さってだけで被害者ぶれるから、僕ら、無理に狂ったりしなくても手軽に感傷に浸れていた、毎朝決まった時間に目が覚めて、夢の中の存在が消失する瞬間の痛みを誰にも打ち明けることなく生きていれば、順番に季節がすり減って、そのう

        おかえり、春

          いちごみるく

          まっしろのチュールスカートでふわふわ天使になれる、おもたいトートバッグにはふたり分の羽根が押し込まれていて、アイロンなんてないからしわは手で伸ばしたよ、デコルテのあいたキャミソール、夏のきらめきによく似合う、そんな少女性に憧れてたの、ぴんく色のチークの濃さで今日の運勢が決まるから、くしゅくしゅのカフスでは隠しきれないバーコード、人生に見出しをつけるなら、いまはちょうど中略の二文字でまとめられちゃいそうなくらいの波の中、ってこれは嘘だけど 、そういうことにしといてね、そして、

          いちごみるく

          夏を人質にして

          だんだんと鈍くなってきた感覚が夜が夏が取り戻されていく、感情に酔ってしまうから無関心でいなければなりません、わたしがわたしでなければなんで泣いているのかがわからなくなってしまう、ただ空を上手く見上げられないだけでどうしてこんなにも弱くなってしまったのでしょうか、つっかえつっかえの声で、あまりにも窮屈な存在を伝えました、伝えましたが、死んでしまいました、もう夜は明けないのでしょうか。 夏の予感ごとかっさらって心中してしまえればいい、あの日夢の中で殺した自分の存在をなかったこと

          夏を人質にして

          こんな気持ちと言えてしまうほどに在り来りな僕のこと

          少なくとも都合のいい関係なんかではないよねってそう割り切ったはずだった君が居ないことに気づけない、視界が揺れているような、ピントの合わない生活の中で最低だけを回避している、なんとなくで開けたピアスはもう塞いでしまったし、君との繋がりがまたひとつ消失してしまったような気がして、僕の手前、寂しさの枠が抜け落ちる、もっとはやく堕ちてしまえればこんな気持ちに足止めを食らうことなんてなかったかな、シアーシャツじゃまだ夜は肌寒くて、かといってカーディガンを着れるほどあの過去を乗り越えられ

          こんな気持ちと言えてしまうほどに在り来りな僕のこと

          花が上手く結べない

          わざと落としたスプーンの反射に、今日はじめての光をみた、すごく些細な傾斜にも、自分だけが気づいてしまえるような、そしてそのことに全神経を奪われてしまって、大切な人の前で小さくしゃがみこんでしまうような、あからさまに、声のボリュームが小さく変わる、寄り添いの振りをした、抵抗かなにか、太陽が、ほんの少しだけくすぐったくて、まだ幼い夏を、できるだけ傷つけないように布越しに触れている、こんなの慣れてないのにさ、あなたとわたしとの間の絡まりが、まるでそれが正しいことだと言い張るように瞳

          花が上手く結べない

          丁寧な、離脱

          脆く崩れやすいものだけが、気づいたら手元に残っている、そんな十数年でした、細心の注意を払っても、庇いきれないものがありました、埃のような、あってもなくても変わらないような軌道で、それでもなんとか歩いてきた道は、既に出入口が閉ざされている、ようで、ひとり取り残された影に、落ちていくこころと、向き合いきれない弱さと、差し伸べられた手を、とることができなかったあの日と、句読点ひとつない日記に宿る、確立しきれなかった春、まるで忘れられるように感じたんです、寒さに凍える早朝のあの猛烈に

          丁寧な、離脱

          泣けない夜に思うこと

          こういう日に泣けたら良かったな、たぶん、こういう時に泣けたら良かったんだと思う、なにかを伝えるということがあまりに億劫で、伝えたい気持ちはたくさんあるのに、上手く言葉にできないまま、ずっと、重低音が脳みその真ん中で揺れ続けていて、止まない、わたしもう大人になったのにな、いつまでこうなんだろう、いつまでこうで許されるんだろう、一秒先が過去になって、それでも呼吸が続いているから、どうしても、あなたとわたしは違うリズムで生きていて、違う体温で、違う感度で、それがすごく寂しく感じる日

          泣けない夜に思うこと

          柔い繋がりの先で

          あきらめないをあきらめるために、まくらの位置を逆さまにして眠ってみたり、手の届きそうで届かない生活、たとえば、目覚めの光に目を細めながら白湯を飲む、夢の中の言葉をそのまま現実に引っ張り出してきて好きだった人に告白をする、ねこのあくびに見とれてしまって同じページの短歌を何度も何度も読み返す、など、いちど手放してしまえば、わたしがまるっきり変わってゆくように思えるから、いや、実際変わっているのだろうけど、それは身体とも精神とも関係がなく、ある文学として概念的に浮かび続けている、強

          柔い繋がりの先で

          低体温症

          もうずっと、どこでもないどこかを探していて、ぼくらふたりがせーので救われるようななにかを探している、寂れたバス停が唯一の命綱だった、SNS越しの明朝体なんかではなくて、電話越しの機械音なんかではなくて、それは確かなにんげんの温もりがほしかった、誰でもよかったは嘘になるけど、ほんとうに、誰でもよかった、お気に入りのキーホルダーをなくして、それを君は旅に出たんだろうと言った、キーホルダーに足は生えていないけれど、ほんとうにそうなんだと思った、"ほんとう"は、時に嘘でも許される、ど

          低体温症

          そらのあしあと

          いつからかこの場所は、花の咲くときの約束、ひとりぼっちになってしまったぼくが零した、柔らかな日常、振り返れば落ちてしまうから、ぜったいに振り返ってはいけないよってままが言ってた、晴れの日には、丘のてっぺんにある大きな木のしたでおひるねをするんだ、あおいろの空がひんやりとしていて、心地が良い、ずっとずっと遠く、一生届かないところなんだろうなって思ってた、だけど、案外簡単に届いてしまったからびっくり、いまのぼくは、あの空の上にだって行ける、お月様だって、天国だって、ぼくのあしで歩

          そらのあしあと

          ちっぽけな逃避行

          もうどこにもいけなくなってしまった、この世界に、居場所ほど不安定なものはなくて、どこにいても、邪魔者となる、存在が、醜い、そこまでして手に入れたかった心は、とっくに他人に殺されてしまったし、なんて被害者ぶって、また今日も、自分を殺すのは自分なのに、乾いた苦しさをぼかす、窓もなく光の届かないワンルーム、床には飲みかけのペットボトルとコンビニのレジ袋が散乱して、こんなはずじゃなかった、を繰り返して適当な言葉を並べている、最低にしたのは僕の方で、他人の干渉はここでは関係がなかった、

          ちっぽけな逃避行

          清純派天使

          知らないつもり、知らないふりをしているだけの、苦味を押し込めた純愛で、点滅の続く夕立で、目の前が段々とぼやける夜、みたいな心理描写を弾くきみが信じられなかった信じたくなかった、何度も殴った酸素を吸って、殴られたきみにまた縋って、痛みだけが愛だと、ぱらぱらとページをめくるめくる、たった一息の旋律でこれまでの全てが覆る、そういう曲線をなるべく丁寧に、慎重に、偏りなく引き伸ばして、居て、簡単に世界が嘘になる、のちに、わたしがぽつんと抜け落ちる、落ちてる、落ちてく、なくしたつもりの影

          清純派天使

          あおいろの祝福

          見えないものを見たかったのです、内側に潜んでいる生き物に、ひどく惹かれてしまったのです、あなたの捨てた悲しみは、ありました、ここにもひとつ、ぐらぐらとしている、不格好な優しさにも、頭が痛くなりました、形容詞には、空が似合いました、動詞は苦手でした、どうしても、満たされない詩がありました、ここに、置いていくこともできない、あなたがさみしそうな顔をするから、しばらく息の仕方を忘れていた、手に取った欠片は、星になりきれなかったひかり、もしくは、哀愁のふりをした崇拝、つまらないことば

          あおいろの祝福