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丁寧な、離脱

脆く崩れやすいものだけが、気づいたら手元に残っている、そんな十数年でした、細心の注意を払っても、庇いきれないものがありました、埃のような、あってもなくても変わらないような軌道で、それでもなんとか歩いてきた道は、既に出入口が閉ざされている、ようで、ひとり取り残された影に、落ちていくこころと、向き合いきれない弱さと、差し伸べられた手を、とることができなかったあの日と、句読点ひとつない日記に宿る、確立しきれなかった春、まるで忘れられるように感じたんです、寒さに凍える早朝のあの猛烈に孤独を感じる静けさも、写真に収めた夜景をもう二度と見返すことがないということも、捨てられない飲みかけの炭酸水に、夏を連想しますか、いえ、見えないままでいたいのです、くぐもってゆく、声も、そう、逆さまに堕ちていく春の患い、もうどうにでもなってしまえば、あの日出会うべくして出会ったあなたがもう何処にもいないのであれば、此処にいつまでも咲いている必要はあるのでしょうか、花びらが一枚、胸元まで届いて、気付かずに眠りにつくものですから、春に殺されてしまっても、わたしは誰も責められない、誰にも、責められない、違いますか、ほんとうは、痛みのもっと近くに居たのでしょう、いつからそんなに離れてしまったのですか、いつからそんなに、嘘が上手くなってしまったのですか。

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