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そらのあしあと

いつからかこの場所は、花の咲くときの約束、ひとりぼっちになってしまったぼくが零した、柔らかな日常、振り返れば落ちてしまうから、ぜったいに振り返ってはいけないよってままが言ってた、晴れの日には、丘のてっぺんにある大きな木のしたでおひるねをするんだ、あおいろの空がひんやりとしていて、心地が良い、ずっとずっと遠く、一生届かないところなんだろうなって思ってた、だけど、案外簡単に届いてしまったからびっくり、いまのぼくは、あの空の上にだって行ける、お月様だって、天国だって、ぼくのあしで歩いてゆける、重力にすべてを委ねてしまえば、どこまでも落ちていってしまうから、ぼくは、せかいから逆らうことに必死だった、ずっとひとりでいなきゃって思ってた、誰も傷つけたくなかった、から、ほんとうは痛いの苦手なんだけどね、誰にも気付かれないように、ぼくだけの言葉でぼく自身をただひたすらに刺し続けていたんだ、耳のおくのほうで、鳴り止まない音がある、せかいの音はみんな、ぼくの上に重なっていくだけ、いちども、滲んだことはない、この場所はぼく以外誰も入れない、のだから、ひととひととが、交わり合うことを運命だと言うのなら、ぼくは一生ひとりでいい、ことばに、軽いも重いもないけれど、じゃあ沈んでいることばは、誰に押しつぶされているの、ずっと酸素が足りないままで、広い部屋の隅でちいさくなってぼくをひとつずつ繋ぎ止めているとき、もうばらばらでもいいやって、投げだしたぼくがいて、守ることと傷つけることは同義なんだなって思った、ゆっくりでいいからねって、ぼくだけがゆっくりだと不安になるよ、まくらが、ぼくのなみだで伝えたのは、もうすこし、立ち止まっていること、ぼくは歩けるようになったんだ、はやくあのあおいあおい空に吸い込まれてしまいたいのに、ぼくのからだは、空になることを望んでいるのに、どうして、って泣いていたら、知らない人に抱きしめられて、こう言われたんだ、このまま空になっても、ひとりだとさびしいでしょう、大切な人と歩きなさい、大切な人を見つけなさい。

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