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柔い繋がりの先で

あきらめないをあきらめるために、まくらの位置を逆さまにして眠ってみたり、手の届きそうで届かない生活、たとえば、目覚めの光に目を細めながら白湯を飲む、夢の中の言葉をそのまま現実に引っ張り出してきて好きだった人に告白をする、ねこのあくびに見とれてしまって同じページの短歌を何度も何度も読み返す、など、いちど手放してしまえば、わたしがまるっきり変わってゆくように思えるから、いや、実際変わっているのだろうけど、それは身体とも精神とも関係がなく、ある文学として概念的に浮かび続けている、強く私的なわたし自身の変化、目を逸らし続けていたのは、いつだってわたしそのもので、ある日には、まるで世界の構成要素すべてがわたしのなかに取り込まれてしまったように感じて、また別の日には、世界はわたしひとりを除いた空間で保たれているように思えた、わたしは、永遠に世界から仲間はずれで、それなのに、永遠に世界と繋がっているらしいから、ひどい話だよね、ある人が言うには、わたしはこの身体を自分で守らなくちゃいけないみたいで、次から次へと身体の表面にわたしを描くことで、内外の境界線をぼかせていると思い込んでいたのがたぶん去年の春先、わたしがいちばんに想いを抱えているのは、いつも変わらずわたしであるのに、それなのにわたしがいちばんわたしのことを知らないでいること、どれもこれも神様のあくびのせいにしてしまえれば、もう少し楽に息ができたかな、なんて、わたし、昨日より少し大人になって、幼い頃に憧れていたヒーローは、必ずしも誰かを守らなければいけない訳ではないと知ったの、優しさは、犠牲なんだと思う、それは自己に対しても、他者に対しても、わたしはわたししか愛せないから、ヒーローにはなれなかった、それでもずっと歪なままのこころには、いまもわたしだけのわたしが生きていて、くやしいけれど、生きていけてしまっていて、なんとなくを続けているだけなのに、蝕まれていくどこかと、ほんのちょっぴりの幸せで、また一日が終わっていく、目の前に繋がるその光の呼吸を肌で感じてみれば、それはきっと、わたしにしか聴こえない音が鳴っていて、それだけは事実で、でももうそんなのどうでもいいから、あなたの心音の他にはなにも聞こえなくなるくらいに強く抱きしめてほしいの、いますぐに、抱きしめてほしいの、これまで十分に存在を保ってきたんです、そしてこれからも、少しずつ透けていくこころを抱えたわたしたちは、いつか、生活を裏切る日が来るかもしれない、から、そのときには、せめて、今夜みたいに指先が冷えていないといいな。

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