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清純派天使

知らないつもり、知らないふりをしているだけの、苦味を押し込めた純愛で、点滅の続く夕立で、目の前が段々とぼやける夜、みたいな心理描写を弾くきみが信じられなかった信じたくなかった、何度も殴った酸素を吸って、殴られたきみにまた縋って、痛みだけが愛だと、ぱらぱらとページをめくるめくる、たった一息の旋律でこれまでの全てが覆る、そういう曲線をなるべく丁寧に、慎重に、偏りなく引き伸ばして、居て、簡単に世界が嘘になる、のちに、わたしがぽつんと抜け落ちる、落ちてる、落ちてく、なくしたつもりの影がおおきくて、きみときみとの距離がやけにちかく、て、見れない、見れないの、きみと目を合わせたいだけなのに、痛い、痛いよ、なんでかな、他人の言葉を受け取る度に、わたしの言葉とぶつかり合って後遺症が残るんだって、ごめんね、あなたの左頬の傷は、この先の言葉は要らないよ、もう大丈夫、ぜんぶ思い出せる、ひとりで、窓の隙間に零れた太陽から、昨日の雨が順番に錆びていく、ほんの少しだけ、生きることが許されなかった星、ほんの少しだけ、死ぬことが許されなかった空気、ちょっぴり延長してみたい、な、さびしくなっちゃって、きゅうだけど、その意味に触れたまま眠りたい、ぼかしてもいいから、声を聞かせて、わたし、ちゃんとここまできみだけを追いかけて走って走って走って、きた、はずだったのに、だとしたらわたしはもう、ここにいてはいけないみたい、ぽたり、ぽたり、空から落ちてくるにんげんにだけ羽が生えているのがみえる、遠くの方で淡くなった波の、微かに揺れる心地が伝わる、からだは届かないのに、真っ暗なのに、生きてきた音だけが鮮明で、痛くて、くるしいほどに眩しいから、わたし、おおきく息を吸って、ぎゅっと目を瞑って空を切った、この星のひとつとして、あるいは、季節の一部として。

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