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低体温症

もうずっと、どこでもないどこかを探していて、ぼくらふたりがせーので救われるようななにかを探している、寂れたバス停が唯一の命綱だった、SNS越しの明朝体なんかではなくて、電話越しの機械音なんかではなくて、それは確かなにんげんの温もりがほしかった、誰でもよかったは嘘になるけど、ほんとうに、誰でもよかった、お気に入りのキーホルダーをなくして、それを君は旅に出たんだろうと言った、キーホルダーに足は生えていないけれど、ほんとうにそうなんだと思った、"ほんとう"は、時に嘘でも許される、どこか抜け落ちた寂しさや、煌めきに鈍感な僕らだけの、簡易的な救護施設のようなものだった、背を向けた高層ビルには、いまも変わらずにざらついた日々がのしかかっているのだろうか、明けない夜が生きている、それは、酷く痛みを伴うものであったけれど、それでも明けない夜を欲しがったのは、やりきれない思いが、まだ、死にきれないでいるからで、内側の黒煙を手にした僕らは、もうこれ以上、優しさに傷を透かすようなことはできなかったんだと思う、取捨選択を繰り返していく度に、裸になっていく心、どうしても手放せない御守りのような君のボイスメッセージと、繋がりが絶たれていく空調、夢の中でさえ息ができないのなら、言葉に、音楽に、溺れることもできなくなってしまったのなら、次の桜の咲く前に、暖かな日差しが痛む前に、どうか、共に明けない夜を。

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