見出し画像

痛くない痛み

少しだけ、月に寄りかかりたくなった、もういちどだけあの日々と同じ感情に戻れるのなら、今の僕はきっと居なくて、今の君もたぶん居ない、なんて未来を想像していたのに、実際そんなことはなくて、君はきっと今のまま何も変わっていないんだろうな、あの一瞬で君に伝わった感情なんて、君の未来を変えてしまえるほどのものではなくて、そんなことはわかっていて、それでも、世界に興味は無いくせに君の世界は変えたい僕だから、君が僕のせいで少しだけ傷ついてくれればいいと思う、ほんとうに少しだけ、僕のせいで痛がってくれれば、それだけで僕は君のための涙を流せる。

伝ってゆく熱と、伝わっていかない心が隣り合わせでいるいま、散らかった部屋を背に何を思ったって、全て許されなきゃおかしいんだよなって、そう言い聞かせてなんとか保っているような日々が一瞬にして崩れていくのが冬なのだから、もう何度もこんなようなことを繰り返してきたのだから、君が勝手に居なくならなければとかじゃなくて、そういうことじゃなくて、僕が勝手に君を神様になんてしなければよかったね、ほんとうに、ごめんね。

氷が張り付く時の、あの世界の裏側に吸い込まれていきそうな冷感、夢なのに、君の体重を感じてしまって苦しい、もう終わりにしようねって、そう言いながら押し殺した言葉たちが、並んでこちらを凝視していて、逃げるように目を瞑る、ひとりじゃないってことが救いになったことってあったっけ、考えなければいけないことが増えていく、少しずつ、世界から離れる、少しずつ、傾いていく、僕の重さの分だけ、少しずつ。

君の痛みが僕のもとまで伝わってはじめて僕が僕でいられるのだから、それだけのものを抱えているのだから、お互いに、傷つけあうことが正義になる夜だって、いまも終わることがないんでしょ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?